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福井・おおい町長 問われる政治資金処理の違法性
描かれぬ原発立地自治体首長の実像

2012年7月23日 09:55

 関西電力大飯原子力発電所がある福井県おおい町の時岡忍町長の政治団体「時岡忍後援会」が、収支の実態を隠して政治資金収支報告を行っていた。
 平成22年に行われた町長選挙では、時岡陣営が冠婚葬祭の時に現金を入れる"金封"を購入していたことも判明。政治資金規正法上の虚偽記載や、公職選挙法における買収が疑われる事態だ。(記事参照→「大飯原発・おおい町長の後援会 政治資金処理で虚偽記載」) 

 法を無視した杜撰な政治資金処理には呆れるばかりだが、町長選挙の選挙運動費用収支報告書や、政治団体の運用実態には、さらなる問題があった。

商工会関係者が「車」を無償提供
 平成22年の町長選後、時岡陣営が町選管に提出した選挙運動費用収支報告書によれば、告示日の3月23日から選挙戦最終日の27日までの5日間、同陣営は町商工会関係者から車両の無償提供を受けていた。現金換算で25,000円分となっているが、同町商工会は原発擁護の急先鋒。原発マネーの恩恵を受ける者どうしで協力し合う構図は、他の原発立地自治体と同じだ。

gennpatu 1864410421.jpg 同年の選挙では、当時の商工会長が世代交代を訴え時岡町長の対抗馬として立候補していたが、商工会が一枚岩というわけではなかったようだ。
 選挙後、新たな商工会長に就任したのは、時岡陣営に車を提供したガソリンスタンド経営者・木村喜丈氏だった。
 木村氏が経営するガソリンスタンドは、大飯原発やおおい町をはじめとする官公庁を販売先としており、原発マネーと密着した同町の姿を如実に示している。

 ちなみに時岡後援会の政治資金収支は、前稿で指摘したとおり、平成19年から収入・支出ともに「0」。これに対し、対立候補だった元商工会長の後援会は、町長選挙前年の平成21年に設立され、150万円の収入に対し9万3,044円を支出。そして選挙が行なわれた22年には約475万6,956円の収入に対し、473万846円の支出があったことが県選管に提出された政治資金収支報告書から分かっている。(右は福井県公報に掲載された元商工会長後援会の収支報告書要旨の一部)

 元商工会長だった新人候補の父は、合併前の大飯町で町長を務めていたことがあり、それなりにし烈な前哨戦を繰り広げたという。前哨戦とは、すなわち後援会による政治活動であり、時岡陣営の収支が「0」であるはずがない。

ファミリー企業から禁止された「献金」の疑い
 時岡忍後援会の主たる事務所は、時岡町長が創業し、現在も取締役を務めている金属加工会社「日新工機(株)」の住所地と同じだ。
 同後援会に活動実態があれば、事務所費や光熱水費などを日新工機側が負担していたことになり、政治資金規正法が禁止する企業献金にあたる。

 「日新工機」は昭和63年創業。関西電力を主要な顧客として成長してきた鉄骨工事・建設機械部品製造会社である。同社に関しては、過去に5億円近くの関電発注の原発関連工事を受注していたことが報じられており、同社株主である時岡町長に原発マネーが還流していた可能性もある。
 町長選挙における時岡陣営の「出納責任者」は、町長の子息である同社社長が務めており、ファミリー企業と一体の選挙戦を展開していたことがうかがえる。

問われる原発立地自治体首長の資格
 大飯原発再稼働にあたって、反対する関西圏の自治体への批判を繰り返した西川一誠福井県知事も、電源立地交付金を原資とする事業を受注してきた複数の企業から政治資金パーティにおける資金提供をを受けていたことが分かっている。

 HUNTERはこれまで、立地自治体の首長に原発再稼働の判断を委ねることは間違いであるとの立場で、鹿児島、佐賀の知事や市長、町長らの不適切な政治資金処理について報じてきた。下に主なものだけを拾ってみたが、いずこの首長も清廉潔白とはいえない状況だ。

玄海町長関連
「玄海町・原発マネー還流のカラクリ」
「玄海町政『癒着の構造』」
「玄海町長株売却 問われる『賄賂性』」

鹿児島県知事関連
「伊藤鹿児島県知事に疑惑の100万円」
「鹿児島県知事 杜撰な政治資金管理」

薩摩川内市長関連
「薩摩川内市長に不適切献金」
「薩摩川内市 市長交際費で酒ばら撒き」

佐賀県知事・県議関連
佐賀知事側会計責任者の会社が県から多額の受注
「佐賀県 原発扱う委員長に九電側の寄附」

 電力会社と癒着し、原発マネーに染まった政治家に、原発の是非を論じる資格がないのはもちろんだが、政治資金の処理さえ満足にできないとなれば、それ以前に政治家としての資格がないことになる。

繰り返される大手メディアの不作為
 メディアに求められているのは、目の前の事象を追いかけるだけでなく、原発の背景までしっかりと報じることである。とくに、再稼働の鍵を握る立地自治体の首長の政治資金を調べることは、「イロハのイ」(新聞社の古参記者)ではなかったか。

 しかし、佐賀や鹿児島の首長を取材する度に耳にしてきたのと同じ言葉を、おおい町でも聞かされてしまった。
 「これまで町長の選挙運動費用収支報告書を見に来られた記者さんはいなかったと思う」(選管職員)。このため、おおい町選管では、平成22年に行われた選挙の収支報告書がすぐには見つからず、書庫に眠ってたという報告書を閲覧するまでに30分以上かかってしまった。
 繰り返される大手メディアの不作為。故意なのか能力不足なのか分からないが、基本的な取材を怠って大騒ぎするだけでは、原発立地自治体の実相に迫ることなどできない。



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