原発マネーは、川内原子力発電所の立地県・鹿児島も蝕んでいた
九州電力・川内原子力発電所の再稼動と3号機増設のキーマンである伊藤祐一郎鹿児島県知事が、平成20年の知事選で、同県が特定公益増進法人の認定を出し、補助金を支給する財団法人の理事長を務める会社社長から、寄附金として100万円を受け取っていたことが明らかとなった。
先月27日、HUNTERが鹿児島県選挙管理委員会で同選挙における伊藤知事の「選挙運動費用収支報告書」を閲覧し確認したもので、公職選挙法上の疑義が生じることに加え、贈収賄の疑いを持たれてもおかしくない事態だ。
しかし、最大の問題は、県が支給した補助金が、原発立地県に交付される「放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金」を利用したもので、いわゆる原発マネーのひとつだったことである。
寄付者は補助金受給財団の理事長
問題の100万円は、平成20年に伊藤知事が2期目を目指した鹿児島県知事選挙の際に、同県指宿市で粒子線がんの治療施設を運営する「財団法人メディポリス医学研究財団」の理事長で同財団設立の中心企業である株式会社新日本科学の社長から伊藤知事陣営に渡っていた。
同財団は平成18年、新日本科学が中心となって設立され、指宿市で、鹿児島県などと「メディポリス構想」と呼ばれる総合的医療健康都市を目指すもの。同財団が運営する中核施設「がん粒子線(陽子線)治療研究センター」の108億円に及ぶ事業資金には、鹿児島県からの計24億円あまりの補助金や、県粒子線がん治療研究施設等整備資金による約20億円の貸付などが充てられている。
補助金は「原発マネー」だった
鹿児島県が「財団法人メディポリス医学研究財団」に補助金として支給した計24億円は、文部科学省の予算のうちの「エネルギー対策特別会計(電源開発促進勘定)」による「放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金」を原資としている。
同交付金は、文部科学省が原子力発電施設等の設置されている地域において、《放射線利用に伴う便益や原子力の基盤技術の有用性が理解されるような試験研究を推進し、放射線や原子力技術に対するマイナスイメ-ジだけでなく、その有用性が理解され、放射線利用や原子力基盤技術の普及による便益が直接享受されることにより、原子力発電施設等の設置及び運転の円滑化に資する》目的をもって《原子力発電施設等の所在している都道府県の計画と申請に基づき、当該都道府県における放射線利用・原子力基盤技術試験研究事業に係る施設等整備等事業、設備等整備等事業、試験研究事業及び人材育成事業に充てるための交付金(上限額は交付規則において規定)を交付》(文部科学省「行政事業レビューシート」より)するとしている。
交付金支出の根拠法令は「特別会計に関する法律施行令」で、該当条文には《原子力発電施設等がその区域内において設置されている都道府県が行う放射線の利用若しくは原子力に係る基盤技術に関する試験研究(文部科学大臣が原子力発電施設等の設置及び運転の円滑化に資するため特に必要であると認めるものに限る)又は当該試験研究の推進のための措置(文部科学大臣が原子力発電施設等の設置及び運転の円滑化に資するため特に必要であると認めるものに限る)に要する費用に充てるため当該都道府県に対して行う交付金の交付》と規定している。
「特別会計に関する法律」(旧・電源開発促進対策特別会計法)は、電源開発促進税法、発電用施設周辺地域整備法と並んで『電源3法』のひとつである。つまり、鹿児島県が「財団法人メディポリス医学研究財団」に支給した補助金は、電気料金に上乗せされた税金を国が原発立地県に交付した、いわゆる「原発マネー」だったということになる。
新日本科学
財団設立の中心となった株式会社新日本科学は東証1部上場。鹿児島市に登記上の本店を置き、東京都に本社を構える"前臨床試験"の受託大手だ。前臨床試験とは、医薬品や医療機器などの効果や毒性などを、主として動物実験を通じて明らかにするもの。同社の前身は昭和32年に鹿児島市で開設された「南日本ドッグセンター(動物病院併設)」で、同35年から前臨床試験の受託を開始し、48年に法人化、翌49年に現在の新日本科学に社名を変えていた。その後、業容を拡大しながら急成長し、平成16年に東証マザーズ上場、次いで20年には同一部に市場を変更し現在に至っている。
東証マザーズに上場した年に、指宿市にあった「グリーンピア指宿」を年金資金運用基金から6億円で落札。340万㎡の敷地にあったホテルなどの既存施設を活用し、「メディポリス構想」を進めてきている。メディポリス医学研究財団の理事長を同社の社長が務めているほか、副理理事長に同社専務、評議員には2名の同社副社長が就任している。
知事選とマニフェスト
平成20年の鹿児島県知事選挙(平成20年6月26日告示、7月13日投・開票)には、現職の伊藤知事と共産党推薦の新人が立候補。伊藤知事が大差で再選を果した。
HUNTERは先月27日、鹿児島県選挙管理委員会で同選挙における伊藤知事の「選挙運動費用収支報告書」を閲覧。選挙期間中の平成20年7月9日、伊藤陣営が、メディポリス医学研究財団の理事長を務める新日本科学の社長から100万円の寄附を受けていたことを確認していた。
伊藤知事は、この年の知事選で掲げたマニフェストのなかで《「県がん対策推進計画」に基づいて、がんの予防・早期発見を促進し、また、県指定のがん診療指定病院の整備や粒子線がん治療研究施設の整備促進を図るなど、がん対策を総合的・計画的に推進します》 と明記している。
粒子線がん治療研究施設の整備促進は、伊藤知事の公約に加えられていたということになる。
時系列
時系列的に見れば、伊藤知事が2期目を目指す過程でメディポリス医学研究財団への法人認定や補助金支給、融資の決定などが行なわれていたことになる。
知事選前年の平成19年10月には、永田氏が理事長を務める「財団法人メディポリス医学研究財団」が、鹿児島県から特定公益増進法人の認定を受けているほか、知事選の翌年となる21年3月には鹿児島県放射線利用試験研究等事業補助金や鹿児島県がん粒子線治療研究センター等整備資金による融資金が支給されている。
法人認定の時期、予算編成の時期を考えると、県が財団に与えた利益と知事選への資金提供との関係に疑念が持たれるのは当然だろう。
会社の利益
一方、伊藤知事の選挙運動費用収支報告書の記載からも疑念が生じる
問題の100万円の寄付者の職業欄には「会社役員」と記されている。財団法人理事長ではなく会社役員、つまり新日本科学の社長として寄附をしたことになっているのだ。
ここで問題なのは、新日本科学が中心となって設立された「財団法人メディポリス医学研究財団」の中核事業「がん粒子線(陽子線)治療研究センター」の建設には108億円ものの資金が必要だったとされるが、鹿児島県による特定公益増進法人の認定や、なにより莫大な補助金や貸付がなければ事業が成り立たなかった点だ。
メディポリス構想の発端になった旧グリーンピア指宿は、もともと新日本科学が6億円で落札しており、その資産活用に県の力を借りたことは明らかなのだ。
県政トップへの寄附が、会社の存続にもかかわる一大事業の「見返り」との疑惑を呼ぶのは、無理もないことではないだろうか。
杜撰な報告書の記載内容
問題はまだある。寄付者である財団理事長の住所を新日本科学の法人登記簿で確認したところ、少なくとも平成19年から鹿児島市内となっている。ところが報告書に記載された社長の住所は「東京都千代田区有楽町1-5-2」。HUNTERの調べによると、この住所地は新日本科学の平成18年までの東京本社の住所で、翌年には中央区明石町に移転していた。平成20年の知事選において選挙運動費用収支報告書に記載された社長の住所とされる「東京都千代田区有楽町1-5-2」は、自宅のものでも会社のものでもない。つまり、実態と違っていたことになり、報告書の訂正が必要となるものだ。ちなみに、登記上の同社の本店住所は前述のとおり東京ではなく鹿児島市内にある。
伊藤知事陣営の報告書自体の杜撰さを証明する事実だ。
問われる賄賂性
公職選挙法は、その199条で「特定寄附の禁止」として《会社その他の法人が融資(試験研究、調査及び災害復旧に係るものを除く)を受けている場合において、当該融資を行なっている者が、当該融資につき、衆議院議員及び参議院議員の選挙に関しては国から、地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に関しては当該地方公共団体から、利子補給金の交付の決定(利子補給金に係る契約の承諾の決定を含む。以下この条において同じ)を受けたときは、当該利子補給金の交付の決定の通知を受けた日から当該利子補給金の交付の日から起算して一年を経過した日(当該利子補給金の交付の決定の全部の取消しがあつたときは、当該取消しの通知を受けた日)までの間、当該会社その他の法人は、当該選挙に関し、寄附をしてはならない》と定めている。
また、選挙との関係はないものの、「政治資金規正法」は寄附の質的制限として、国や地方自治体から補助金、負担金、利子補給金その他の給付金(試験研究、調査又は災害復旧に係るものその他性質上利益を伴わないものを除く)の交付決定を受けた会社について、交付決定の通知を受けた日から1年間、国会議員や地方政治家の政治活動に関する寄附を禁じている。
いずれも、選挙資金や政治資金に関して、賄賂性を除外することを目的としているのは言うまでもない。
財団理事長から伊藤知事への選挙資金100万円は、述べてきた事実から見ると明らかに不適切であったと考えられる。双方とも、『瓜田に履』、『李下の冠』のたとえを肝に銘じておくべきではなかったのだろうか。
鹿児島県、川内原発の背景
伊藤知事への100万円の寄附は、原発マネーが絡んだ疑惑の存在が、佐賀県だけではなかったことを証明している。
玄海原発をめぐっては、佐賀県の古川康知事がマニフェストに掲げた重粒子線がんの治療施設(佐賀県鳥栖市)に関して、九州電力が「佐賀国際重粒子線がん治療財団」に39億7,000万円もの寄附をしていたことが分かっており、これが玄海3号機のプルサーマル計画同意への見返りだったとの疑惑も存在する。
さらには、原発マネーで歪んだ玄海町の町政の実態も判明しており、原発再稼動に対する同意権限者の資格が問われる事態となっている。
それでは鹿児島県はどうか。次週から、これまで報じられることの少なかった鹿児島県における川内原発の背景を、同県の政・財界の動きを通じて報じていく。