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いまだ続く日本産食材への誤解 ― 終わらぬフクシマ ―

2018年10月23日 09:00

DSC05924.JPG 韓国の「モスバーガー」の店舗で、トレーマットに「日本産食材を使っていません」と表記されていたことが問題となった。福島第一原発の事故から7年半が過ぎたというのに、世界各地では、いまでも日本産食材に対する誤解が続いているのだ。
 EUは2017年11月までに、福島第一の事故後に輸入規制していた福島県産のコメなど、10県の食品の一部または全部を対象から除外した。しかし韓国では、東北地方と新潟県を含む8県の全ての水産物のほか、ほうれんそうやきのこ類などの食品を、輸入禁止にしている地方がある。

■韓国・中国の過剰反応
 日本政府は、韓国の水産物輸入禁止措置について提訴し、世界貿易機関紛争処理小委員会が「不当な差別」と認定した。しかし、韓国側は「国民感情もあって撤廃は難しい」と答えており、問題解決には程遠い状況だ。

 中国でも現在、10都県(福島県、栃木県、群馬県、茨城県、千葉県、宮城県、新潟県、長野県、埼玉県、東京都)で生産された全ての食品について輸入を禁止しており、精米も10都県産のものは輸入禁止の対象となっている(*下の農水省資料参照)。ただ、日本産米の輸出に必要な精米指定工場と処理設備を増やすことで合意するなど解決に向けた動きも出ている。

中国.png

■放射性物質基準値の実態
 日本でも原発事故から今に至るまで、福島県に対しての風評被害、または「放射能汚染」というイメージを持っている人が数多く存在する。実際に福島の米は、原発事故後、知識人や著名人、マスメディアからさえも、数々の心無い言いがかりを受け続けてきた。東日本大震災から7年以上経つが、いまだに全国に避難した福島の人たちへの心ない中傷やいじめ、差別も横行している。

 実際の放射能レベルはどうなっているのか――。福島の米は、出荷されない自家消費分も含めて、およそ1,000万袋の全生産量の検査を毎年続けており、放射性物質の基準値を超えるものは一袋も出ていない。99.99%の米は、放射線の検出限界値さえも下回っているという。日本各地には、自然界に存在するラドンなど放射線を出す地域が多いことを考えると驚異的な数字ともいえる。ラドンは自然の放射線である一方で、セシウムは人工の放射線であるから危険性が違うとの指摘も予想されるが、人工であれ自然であれ放射線による影響は同じだ。(*下は農水省の公表資料)

資料2.png

 ただ、「生産も回復基調。放射線への懸念も収まってきた。問題ないじゃないか」と断定するのは早計だ。何が問題か。それは価格低下である。「福島産」表示で買い叩かれて大幅な価格低下を招いており、果物や野菜も同様に価格低下が続いている。

 現在の日本の放射線基準値は、2012年4月1日から、一般食品で「100Bq/kg」(1キログラムあたり100ベクレル)、飲料水で「10Bq/kg」(1キログラムあたり10ベクレル)、牛乳「50Bq/kg」(1キログラムあたり50ベクレル)、乳児用食品で「50Bq/kg(1キログラムあた50ベクレル)」と定められている。

 それでは諸外国の放射線基準はどうか――。
 ・米国は全ての食品が「1,200Bq/kg」(1キログラムあたり1,200ベクレル)
 ・EUは一般食品が「1,250Bq/kg」(1キログラムあたり1,250ベクレル)、飲料水・乳製品が「1,000Bq/kg」(1キログラムあたり1,000ベクレル)、乳児用食品が「400Bq/kg」(1キログラムあたり400ベクレル)となっている。

 数字を見てわかるように、日本の基準は欧米の10倍以上の厳しい数字となっている。これだけ見ると、「日本人は欧米人よりもセシウムに対して10倍弱い民族」ということになってしまうが、そんなことは現実にあり得ない。

 厚生労働省による「輸入食品の検出事例(2012年4月~8月)」を見ると、
 ・4月 オーストリア産ブルーベリージャム 140Bq、180Bq、220Bq /ポーランド原産
 ・6月 フランス産ブルーベリージャム 180Bq /ウクライナ原産
 ・7月 フランス産ブルーベリージャム 150Bq /ポーランド原産
 ・8月 英国産ブルーベリージャム 190Bq /ポーランド・ウクライナ原産
 ・8月 フランス産キノコ(ラッパタケ) 220Bq /フランス原産
 となり、廃棄処分となっている。海外なら廃棄されない食品だ。

 結果から言えば、日本の基準は客観的事実に裏付けされた数字でなく、政治的かつ曖昧なイメージで基準値が決められてしまっているのだ。この点では韓国の政府やマスコミとあまり変わりはない。

 この基準値に限らず、原発事故後にはそれまで身近とは言い難かったさまざまな放射線関連の用語や単位、数値が独り歩きし、デマが広がっていった。誤った情報やデータを基に「フクシマは危険だ!これを世界中に訴えなければ!」などという「間違った善意」が暴走すれば、現地で積み重ねた努力は蹴散らされ、二次被害は更に拡大することになる。

 折しも東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣3人に対する被告人質問が東京地裁で始まった。フクシマの悲劇も、その後の風評被害も、原子力ムラの責任だ。政府や東電は、いま一度現実を見つめ直すべきではないのか。



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