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【関電原発マネー疑惑 】告発者「関西電力良くし隊」の正体は?

2019年10月11日 07:55

2 (1).jpg 関西電力の会長、社長ら複数の幹部が、立地自治体の有力者から多額の金品を受け取っていた問題で辞任に追い込まれた。汚れた原発マネーの額は、7年間で3億2千万。信頼性を失った関電による内部調査の結果だけに、電気料金を支払っている国民の“被害額”は、さらに膨らむ見通しだ。
 共同通信のスクープで火が付いた関電疑惑の発端は国税当局の査察だったが、隠蔽されていたこの問題を白日の下に晒すきっかけを作ったのは、1通の告発文だった。告発者の正体は……。

■告発者は「関西電力を良くし隊」
 告発者は、まず今年3月に関電の岩根茂樹社長に対して昨日報じた“警告文”を送付。4月に岩根社長や7人の監査役に「最後通牒」を突き付け、不正を公表することと人事の刷新を要求していた(参照記事⇒《【関電原発マネー疑惑】 不正暴いた「警告文」と「告発文」(上) 》。

 今年6月の株主総会で発表される人事を見定める姿勢だったようだが、事前に分かった案をみて、6月5日に次の文書を岩根社長に送り付けていた。不正の公表に踏み切ることを通告する内容だ。

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 告発者が予告していた情報の公開先は、関電の株主である大阪市の市長と議長、神戸の市長、橋下徹元大阪市長、福井新聞、朝日新聞、立憲民主党、共産党、テレビ朝日、TBS、国税局、大阪地検、二つの反原発団体などだった。

 関電に前掲の通告が送られた3日後、告発者が予告した関係先に下の告発文が送られることになる(赤い書き込みはHUNTER編集部)。差出人は「関西電力を良くし隊」である。

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 告発内容は具体的で、“原発銀座”と呼ばれる福井県南部の若狭湾沿岸地域=「嶺南地区」における原子力発電事業のすべてに電力会社、政治家、企業の癒着構造があると指摘。そこで発注される原発関連事業で水増しされた工事費などが、地元有力者や関電の幹部に還流させる仕組みがあることを暴露している。関電幹部に流れたカネが億単位になることまで明記しており、内情に詳しい様子がうかがえる。

 告発文はさらに、関電側に事実関係を公表するよう求めてきたことや、国税、検察が隠蔽に加担していること、関電幹部が受け取った現金などを福井県高浜町の建設業者「吉田開発」に返納したことにまで言及していた。いずれも、関電内部や吉田開発の事情に精通していなければ、書けない内容だ。

 注目すべきは、不正が行われてきた期間を「40年を超える長年」としている点。高浜原発1号機が営業運転を開始したのは1974年であることから、同原発の初期段階から、不正が横行していた可能性を示唆した記述と言えるだろう。原発を巡る闇の深さは底なしだ。

■原発の闇、暴くきっかけに
 それでは、正義の告発者はどこにいるのか――。「関西電力を良くし隊」に関電内部の人間が関わっていることは、同社内の人事に関する情報をいち早くつかんでいることや、告発文の中で不正な金品を受け取った役員を正確に記載していることでも分かる。関電が公表した内部調査(昨年7月~9月)の報告書に出てくる幹部の名前は、告発文が指摘した「問題のある人物」にピタリと一致する。実名が明かされていた6人が、7年間でもらったとされる金品は、次のようなものとなっている(関電の調査報告書より)。

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 6人とも関電の役職を辞することになったが、大企業の幹部クラスが、これだけ揃って不正に手を染めていたケースは戦後の経済事件簿をめくっても出てこない。原子力行政への信頼を失墜させた上、電気料金の正当性にまで疑いを生じさせた関電の原発マネー疑惑は、国会審議や報道を通じて、さらにその実態が検証されることになる。「関西電力を良くし隊」の真意は計り知れないが、原発の闇を暴くきっかけを作ったのは確かだ。

 余談だが、この問題をスクープした共同通信は、「関西電力を良くし隊」の情報公開先には入っていない。全国紙記者などに聞いたところ、独自に関電の裏金疑惑を追っていた共同の記者が一連の告発文書を入手。裏付け取材を経てスクープに結び付けたのだという。6月に告発文をもらっていた朝日新聞やテレビ局は、「怪文書」とみて放置したか、裏付けに手間取ったかのどちらかだ。結果的に共同の後追いをした格好になったが、今後の調査報道に期待したい。



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