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玄海町・原発マネー還流のカラクリ
ファミリー企業ゼネコンから現金  
  ~町長一族支配の実態~

2011年7月 7日 08:20

 玄海役場石碑.jpg玄海原発の再稼動をめぐり、全国の注目を集めてきた岸本英雄玄海町長が、同町発注の公共事業の多くを受注する町長のファミリー企業「岸本組」を利用して、公金を還流させ自身の所得を増やしている実態が明らかとなった。
 識者からは「世界の恥」とする厳しい批判の声が上がっている。

見過ごされた町政トップの能力・資格
 今月4日、岸本英雄玄海町長が九州電力玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)で休止中の2号機、3号機の運転再開について、九電側に「同意」を与えた。焦点は古川康佐賀県知事の決断に移っているが、この一連の動きで見過ごされてきたのが岸本玄海町長の人物像である。
 国や九電が勝手に決めた「再稼動」への過程では、立地自治体である玄海町に判断権限を与えたが、そもそも岸本英雄という人物に、世界中の原発の行方を左右しかねない重い判断をするだけの能力や資格があるのか、検証されるべきだ。
 そうした観点から、岸本町長に関する選挙違反まがいの町議への現金供与や、不動産にからむ疑惑を報じてきたが、カネにまつわるさらに醜い実態が明らかとなった。
 これでも岸本玄海町長の「同意」に意味があると言うのだろうか。

「配当所得」4,915,900円の謎
 岸本町長が「玄海町長の資産等の公開に関する条例」に従って町に提出した平成21年分の所得報告書には、「配当所得」として「4,915,900円」が記載されている。
 一方、資産等報告書にある保有する有価証券は、「岸本組」の株式が7,520株、佐賀銀行の株が6,417株である。「岸本組」(本社:佐賀県唐津市)は、岸本町長の実弟が社長を務める地場ゼネコンである。
 ところが、佐賀銀行の1株あたりの配当は5円にも満たず、岸本組はここ数期にわたって無配を続けている。「4,915,900円」もの株式配当などありえない。

「売却益」と言い出した町長
 先月30日、たまたま町長室にいた岸本町長をHUNTERの記者が問いただした。

記者:あなたの平成21年分の資産報告では、岸本組の株式を7,520株、佐賀銀行の株を6,417株保有していたことになっているが、所得報告書には4,915,900円の配当所得があったと記されている。本当か?
岸本:佐銀(佐賀銀行)の配当はそんなにない。たしか、何万円かにしかならんもんね。

記者:岸本組は無配だったはずだが?
岸本:県議時代は、ずいぶん配当をもらったですがね。

記者:500万もの配当はあり得ない。これは何のカネか?
岸本:あ、株を売ったやつかな?300くらい株を売った記憶がある。

記者:岸本組の株を売ったということか?
岸本:たしか、そうだったような・・・。会社に引き取らせたか・・・。

記者:岸本組は玄海町の公共事業を受注している。結果的にあなたの懐に公金が戻る仕組みとなり、極めて不適切ではないか。
岸本:土地のことやらなにやら、調査してますから・・・。

記者:株の配当か、売却益か、はっきりすべきだ。いまハッキリしないのなら、総務課を通じてでも回答をいただきたい。
岸本:そうさせましょうかね。

 5日に報じた土地に関する岸本町長とのやり取りの、これが後半部分なのだが、役場をあとにした5分後、玄海町総務課から電話が入った。「町長は、株を売ったものだった、と言っておられます」。これが正式回答だという。
 株の配当としていた「4,915,900円」は、実際には岸本組株の売却益だったということだ。

岸本組から現金
 玄海町が定めた「玄海町長の資産等の公開に関する条例」および同施行規則では、株に関して配当所得とその他の所得についてきちんと区分しており、「譲渡所得」とすべきものと見られる。
 岸本町長の所得報告の杜撰さが浮き彫りになった形だが、問題は株の配当にせよ売却益にせよ、町長が岸本組から多額のカネを受け取っている点だ。
 
 報じてきたとおり、玄海町が発注する公共工事は、電源3法による交付金の恩恵を受け、同規模の自治体とは比べものにならない件数となる。
 岸本組は玄海町発注の公共工事を数多く受注しており、その岸本組の株を利用して現金を得ることは不適切。株の売却益が岸本組からのものだったとすれば、なお性質(たち)が悪く、犯罪性が疑われる事態と言っても過言ではない。
 それでは、岸本町長は株をどこに売ったのか?答えは、岸本町長が保有する岸本組株と、岸本組本社の保有株式数の推移をみれば明らかだ。

平成20年 岸本町長保有株8,790株  ―  会社保有株8,080株
平成21年 岸本町長保有株8,120株  ―  会社保有株8,750株
平成22年 岸本町長保有株7,520株  ―  会社保有株9,350株

 平成20年から21年にかけて岸本町長の持ち株は670株減っているが、会社保有株はちょうど670株増えている。同様に平成21年から22年にかけて町長の持ち株が600株減っているのに対し、会社保有株は600株増加。
 この間、筆頭株主(岸本剛・岸本組社長)をはじめその他の大株主の持ち株数にまったく変化はなく、岸本町長の持ち株は、岸本組本体に引き取られていた可能性が高い。
 公共工事発注権者の岸本町長が、受注業者に株を引き取らせて現金を得るという構図だ。

 岸本町長の所得報告書に記された株に関する所得金額は4,915,900円。佐賀銀行株の配当金は3万円にも満たないと見られ、岸本組から町長に渡ったカネは490万円あまりということになる。
 
 先月30日に公開された岸本町長の平成22年の資産公開資料では、保有する岸本組株が300株減って7,220株となっており、前年同様「配当所得」として3,448,500円の記載があった。これも株の売却益であり、2年間での株売却益は800万円を超える。

 なお、町長サイドは、所得報告書の訂正はしないことを総務課を通じて明らかにしており、完全に開き直った形だ。
 
町発注工事、岸本組が15%受注gennpatu 62660.jpg
 同町は、入札関係書類を公表から1年で廃棄することを可能とする内規を定めているうえ、町民以外の情報開示請求を受け付けておらず、公共事業の実態解明は容易ではなかったが、平成21年度から先月までに「岸本組」が受注した同町発注工事に関するデータをまとめた。(注:受注金額の数字は税抜き)
【平成21年度】
町発注工事128件→岸本組受注件数19件(計5億6,576万円)
【平成22年度】
町発注工事 99件→岸本組受注件数15件(計5億5,493万7,239円)
【平成23年度】
町発注工事 17件→岸本組受注件数3件(計6,055万円)
 
 玄海町発注公共工事の15%を、岸本町長のファミリー企業である「岸本組」が受注しているという異常な状況だ。

原発マネー還流のカラクリ
 これまで報じてきた内容と、カネの流れを合わせて見ると、
原発交付金 → 玄海町 → 岸本組 → 岸本町長 → 玄海町議
といった原発利権の図式が出来上がる。
 公共事業を独占し、原発交付金を主とした公金を還流させ自身の所得を増やし、町長選挙ごとに自派の議員に現金を配って手なずけているということだ。
 岸本町長一族による玄海町支配のこれが実態なのだ。
 

市民オンブズマン福岡・児嶋代表幹事「世界の恥だ」
 こうした玄海町の実態について、市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は次のようにコメントしている。
「玄海原発については、もはや玄海町だけの問題ではなくなっている。再稼動の行方は世界が注目しており、いわば『世界的な問題』だ。
 そうしたなか、玄海町は政治倫理条例も作らず、情報公開も町民だけにしか許そうとせず、事実上門戸を閉ざした状態。説明責任を果すどころか、いかに情報を隠すかに懸命になっているとしか言いようがない。これは『世界の恥』だ」。

 玄海原発の行方は、日本だけでなく、世界の原子力行政に影響を与えることが予想される。
 疑惑まみれの玄海町長に、原発の是非を判断する資格はないのだ。



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