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玄海町政「癒着の構造」
  九電軸にうごめく政・業
~玄海原発運転再開への疑問~  

2011年6月17日 10:00

 玄海役場.jpg 昨年7月の町長選挙で、現職町長の陣営が複数の町議らに運動員報酬として現金を渡したことが明らかとなった佐賀県玄海町。(16日記事参照)
 九州電力玄海原子力発電所を抱える同町は、定期検査のため休止中の同原発2号機、3号機の運転再開の鍵を握る自治体だ。
 町政をあずかる政治家たちに、原発行政の方向を決定付ける資格があるのか。現状を検証した。


玄海町
 心、夢見るのか?アトムの町佐賀県東松浦郡玄海町は人口約6,500人。西側は玄界灘に臨み、北東側が唐津市に接する風光明媚な町である。町制に移行したのは昭和31年で、旧値賀村・旧有浦村の合併によって現在の町が形成された。
 
 この町が大きく変貌を遂げるのは、昭和40年代初頭に原子力発電所の建設計画が現実のものとなってからで、同50年には九州電力玄海原子力発電所の1号機が、平成9年には4号機が営業運転を開始した。平成21年からは3号機でMOX燃料を使用した「プルサーマル」が実施されている。
 
プルサーマル反対 原発立地自治体は、国や電力会社にとって特別な存在で、優遇措置によってさまざまな恩恵をうけてきた。玄海町も同様で、電源3法(電源開発促進税法、特別会計法〔旧・電源開発促進対策特別会計法〕、発電用施設周辺地域整備法)による交付金(迷惑料とも言われる)で潤い、原発関連の雇用がもたらされてきた。
 
 上・下水道整備をはじめ「玄海町産業会館」、「玄海町総合運動場」、「玄海町町民会館」、「玄海海上温泉パレア」など、一般会計予算80億円程度の町としては考えられない公共事業が次々と実現した。昭和58年に完成した玄海町役場新庁舎はまさにその象徴だろう。

岸本英雄町長
岸本組 その玄海町のトップを務めているのが岸本英雄町長である。岸本町長は現在2期目。昭和28年玄海町に生まれ、久留米大を卒業後、会社役員を経て平成7年4月に佐賀県議会議員に当選。3期目の任期途中だった平成18年に玄海町長に転身し初当選、昨年7月には無投票で2期目の当選を果たしている。
 
 岸本町長がかつて役員を務めていたのは、町長の親族が明治44年に創業した佐賀県唐津市に本社を置く地場ゼネコン「株式会社岸本組」。資産公開の資料を確認したところ、町長は現在も同社の株式7,520株を保有しており第三位の大株主である。町長の自宅および事務所があった場所の斜め前には同社の玄海本店がある(写真)。
  
 gennpatu 62690.jpg「岸本組」
 岸本町長と岸本組の密接な関係は、岸本町長の自宅および事務所が存在する土地や建物の権利関係に端的に現れている。
 岸本町長の自宅住所地の土地は岸本組の創業者の名義のままで、敷地内にある自宅を除いた2棟の事務所建物の所有権者は、登記簿上どちらも「岸本組」なのだ(登記簿参照)。 岸本町長の政治活動は、岸本組に支えられてきたと言っても過言ではあるまい。

癒着の構造 
 その岸本組は、佐賀県、唐津市、玄海町といった自治体発注の工事を受注する一方、九電や西日本プラント工業を得意先としている。
 西日本プラント工業は九電の子会社で、火力発電所・原子力発電所の設備設計や製作、関連工事を行なうプラント企業だ。
 岸本組のホームページには「主な取引先」として国土交通省や自治体が並ぶが、民間企業は九電と西日本プラント工業だけ。玄海原発の事業者である九電と密接な関係にあることがうかがえる。 事実、岸本組が受注した玄海原発関連の工事は少なくない。
 
 こうして見てくると、岸本町長と九電は、単に原発立地自治体の首長と原発事業者というだけではなく、関連工事を受注する業者側と発注者の関係にもあるのだ。
 
 町政トップと表裏一体の建設業者、そしてその業者に仕事を回す電力会社・・・。
癒着の構造が見えてくる。軸となっているのは原発事業者の九電である。

玄海町議会
gennpatu 62686.jpg 玄海町議会は定数12。議員報酬は月額263,000円で、議長に364,000円、副議長には285,000円が支払われている。
 佐賀県選挙管理委員会で確認したところ、12名の町議のうち、後援会など政治団体の届出をしているのは6名(6団体)。
 届出がなされた6団体で、政治資金に動きが見られるのは2団体に過ぎず、4団体は設立以来、収入、支出とも「0」となっていた。
 6団体中1団体は平成20年、4団体が21年の設立となっている。

 直近の玄海町議選は平成21年に行なわれているのだが、ほとんどの町議が政治団体を持たぬまま政治活動を行なっていたことになる。
 たしかに、町内にはどこの市町村でも見かける地方議員の「後援会連絡所」の看板が見当たらない(これは結構なことだが・・・)。
 つまり、大半の町議らの政治活動は、「個人」としてのもので、後援会入会申し込みなどを利用した、いわゆる地盤培養行為は行なっていなかったということになるが、個々の議員の政治資金の流れが見えないという点では不透明な実態だ。

 一方、岸本町長の支援団体「岸本英雄後援会」は、佐賀県選管の説明によると、岸本氏が県議から町長に転進した翌年の平成19年に一旦解散、平成22年になって復活させているという。しかし、同年の政治資金収支報告書が未公表のため閲覧できる収支報告書がない状態だった。
 玄海町の政治家たちの活動実態は見えてこない。

政治倫理と情報開示姿勢の欠如
 玄海町政の不透明さは、これだけにとどまらない。
 同町では政治倫理条例が制定されておらず、現職町長が大株主で不可分の関係とされる前出の岸本組による玄海町発注工事の受注がまかり通っているのだ。

 さらに、情報公開の請求権を、「町内に住所を有する者」、「町内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体」、「町内に存する事務所又は事業所に勤務する者」、「町内に存する学校に在学する者」に限定しており、事実上町外からの町政チェックを拒絶しているのだ。
 
 政治倫理の確立を放棄したまま外部への情報開示にも消極的な姿勢は、原発がらみで巨額な公金を動かしてきた自治体としては極めて不適切。
 しかし、残念ながらこうした野放図な町政運営が玄海町の実情なのだ。

町長選挙で現職町議に現金報酬
収支報告書 岸本町長が2期目を目指した昨年7月の玄海町長選挙は、事前の観測どおり対立候補が現れず、無投票当選という結果になった。HUNTERは14日、玄海町役場でこの町長選挙における岸本町長の「選挙運動費用収支報告書」を閲覧。昨日報じたとおり、岸本英雄町長の陣営が同町の現職町議5名に車上運動員の報酬としてそれぞれ9,000円の現金を支払っていたことが明らかとなった。

領収書2 町議は特別職の公務員で、選挙当時の活動実態によっては、公職選挙法で禁じる「公務員の地位利用による選挙運動」にあたる可能性も浮上、外形上の事実だけを見れば買収に等しい行為であることに加え、町長や町議としての立場をわきまえない不適切な選挙手法である。

 岸本陣営の出納責任者として取材に応えた上田利治町議は、「第一回目の選挙(平成18年の町長選)でも同じことをやった」と説明。現職町議への運動員報酬支払いが、岸本町長が初当選した平成18年の町長選でも行なわれていたことを認めており、陣営全体の意思としてこうした買収まがいの選挙手法を続けていたことがわかっている。
 さらに上田町議は、「選挙事情がある。町長派と反町長派に分かれており、町長派の議員にお願いした。マイクを握ってしゃべったのではなく、車上運動員として車(選挙カー)に同乗してもらった」などと釈明。相手が町議であることを前提に車上運動員を依頼したことまで認めた形で、明らかな「公務員の地位利用による選挙運動」だ。

 こうした事態を招いたのが、本稿で述べてきたように政治倫理や政治に絡むカネに"鈍感"な玄海町の政治家たちの姿勢であることは疑う余地がない。

玄海町政に原発を論じる資格なし!
玄海原発1~4号機 町長選挙における不適切な選挙運動の実態から浮かび上がるのは、九電と岸本町長、町長と表裏一体の「岸本組」、そして町長から選挙運動の報酬として平気で現金を受け取ってきた町議らが、結束して玄海原発の運転再開を推進している構図だ。 

 玄海町は、玄海原発の立地自治体であり、玄海原発2号機、3号機の運転再開には同町の同意が不可欠なのだが、、同町議会は今月1日、12人全員の議員で構成する「原子力対策特別委員会」を開き、委員長を含む8人の議員が運転再開を容認している。
 岸本町長は、過半数を超える8人の議員の賛同を拠りどころに運転再開を認める意向を表明したが、町長から運動員報酬を受け取っていた5名の町議と出納責任者は、いずれも運転再開を容認したという。原子力対策特別委員会の委員長である中山昭和町議も運動員報酬を受け取っていたうちの1人なのだ。

 原発関連の仕事にすがる業者と、その業者に支えられる町長、そして選挙で町長から公然と現金を受け取る町議。

 癒着の構造に組み込まれた玄海町の政治家たちには、原発や地域社会の未来を議論する資格などない。
 もちろん、日本のエネルギー政策に重大な影響を及ぼすと見られる玄海原発運転再開の是非を委ねることも間違いだ。



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