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九電が狙う“原発回帰” 原発啓発施設に「3.11」以前の掲示物

2018年9月 4日 08:50

DSCN0484.JPG 福島第一原子力発電所の事故以来、原発に対する国民の見方が厳しくなったのは確かだ。しかし、事故後7年を過ぎて「反原発」の声は小さくなる一方。原子力ムラと結託した安倍政権のもと、全国で停止中だった原発の再稼働が、次々と実現する状況だ。
 これまでに再稼働した原発は9基で、そのうち4基は九州電力の川内原発(薩摩川内市)1、2号機、玄海原発(佐賀県玄海町)3、4号機。同社の鼻息は荒く、原発以外の電源を切り捨てる動きを見せ始めている。じつは、九電の「安全神話」は書き変えられていない。(写真は玄海3、4号機)

■“原発回帰”狙う九電
 先月30日、九電の池辺和弘社長は会見で、「電力の需給状況によって『出力制御』が必要になることもある」と述べ、太陽光や風力発電の事業者に稼働停止を求める可能性があることを示唆した。自然再生エネルギーの普及によって、秋にも需給バランスが崩れるというのがその理由。早ければ、エアコンなどによる電気の消費が減る9月にも実施されるというが、原発再稼働が、最大の要因であることは言うまでもない。

 「需給バランス」は、九電が再生エネルギーの普及を制限しようと動く時の常套文句だが、電気の買取り制度によって事業を成り立たせている太陽光や風力発電の事業者にとっては死活問題。九電の目的が、再生エネルギーつぶしにあることは誰の目にも明らかだろう。

 九電の“原発依存率”を高めようという狙いもハッキリしており、太陽光や風力だけでなく、火力による発電の割合も一気に減らす構えだ。同社は今年から来年にかけ、設備は残すものの運転を当面取りやめる「計画停止」や発電所そのものの廃止など、思い切った火力発電の削減を計画している。一連の流れは、原発回帰を既成事実化しようとする九電の思惑を示すものだ。

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■川内3号機増設計画の掲示物
 そもそも、原発に対する九電の姿勢は福島第一原発の事故が起きる前と何も変わっていない。先週、4年ぶりに玄海原子力発電所に併設された原発啓発施設「玄海エネルギーパーク」を訪れてみたが、内部の掲示物を見て驚いた。まず、下は全国にある原発の紹介掲示物。現状では建設不可能なはずの、川内3号機や上関原発(山口県上関町)が「建設準備中」のままとなっていた。福島第一の事故前と同じ内容なのだ。

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 『川内原子力発電所3号機増設計画の概要』も、福島第一の事故前と同じ内容の掲示物だった。3号機増設を巡っては、2010年に伊藤祐一郎前鹿児島県知事が計画に同意。翌年に起きた福島第1原発の事故を受けて、任期中の手続きを凍結した経緯がある。1984年に運転を開始した1号機は2024年に、85年に運転を開始した2号機は25年に運転開始から40年を迎えるが、三反園訓現知事は両機の運転延長を60年まで認めるものとみられている。福島第一の事故を無視した原発啓発施設の掲示物は、“3号機増設をあきらめない”という九電の強い意志を表している。

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■ドイツの現実隠して印象操作 
 ドイツの原発事情を説明した掲示物はさらに酷い。ドイツのメルケル政権は、2011年の福島第一原発の事故を受け、エネルギー政策を大きく転換。同年7月に、国内17基の原発すべてを廃止する方針を決めた。8基はすでに停止して廃炉となっており、2022年までには残り9基も廃炉となる予定だ。しかし、玄海エネルギーパークの掲示物には2005年までの動きしか記されておらず、「全原発廃炉」という同国の選択については一切触れられていない。

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 福島第一の事故を引き起こした東日本大震災から7年半。玄海エネルギーパークの掲示物や掲示内容を変更する時間は十分過ぎるほどあったはずだ。川内3号機やドイツの原発を取り巻く事情を隠し、フクシマ以前の情報を来館者に見せることは、来館者に間違った認識を与えることになる。これは意図的な印象操作であり、嘘やごまかしで原発を推進してきた九電の体質が、何も変わっていないことの証明でもある。

■寄附再開は原発推進への布石
 九電は先月、管内の原発が停止した2012年度以降、業績悪化を理由に保留していた次の3件の寄付を再開することを明らかにした。

・『九州国際重粒子線がん治療センター(サガハイマット)」(鳥栖市)⇒総額37億7,000万円
・「早稲田佐賀学園」(唐津市)⇒総額20億円
・「唐津市民交流プラザ」⇒総額5億円

 寄附再開は、同社が次のステップに移るための布石だ。東日本大震災発生後の2011年6月、玄海原発の運転再開に向け経済産業省が主催した「県民向け説明会」で、九電が関係会社の社員らに運転再開を支持する内容のメールを投稿するよう指示していた、いわゆる「やらせメール事件」が発覚。組織的な世論操作に批判が集まったが、時とともにその事件も風化しつつある。原発への危機感も同様に薄れており、反原発団体が開く集会などへの参加者も減っているのが現状だ。川内、玄海の両原発が再稼働し、ほとぼりが冷めたと判断した九電が目指しているのは、川内3号機の増設と核ゴミ中間貯蔵施設の建設。佐賀、鹿児島での九電の動きから目が離せない状況となっている。



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