6日午前3時8分頃、北海道胆振地方中東部を震源とするM6.7の地震が発生した。国立研究開発法人「防災科学技術研究所」(茨城県つくば市)によれば、この地震で震度6強を観測した安平町の観測点で記録された揺れを示す加速度は「1505ガル」。原発ごとの耐震設計における基準である「基準地震動」は、いずれも600ガル程度で、これをはるかに超える数値だった。
地震列島日本には、運用中の原発が39基ある。建設中の2基に廃炉・解体中の19基を合わせると70基もの原発がひしめく状況だ。この国は、はたして安全と言えるのか――。(写真は北電の泊原発。同社HPより)
■無知な愚か者が説く「原発の必要性」
北海道胆振地方を震源とする地震が発生した直後、北海道全域が停電した。いわゆる「ブラックアウト」で、道内295万戸への電気供給が止まった。ブラックアウトの発生は、電力会社が9社の体制になって初めて。福島第1原子力発電所の事故を引き起こした東日本大震災の時でさえ、起きなかった現象である。
北海道電力管内最大となる165万kWの発電量を誇る苫東厚真火力発電所(厚真町)が地震によって停止。電力需要に対し供給が極端に減ったことで、過剰な負荷から他の火力発電所の周波数が低下した。そこで、発電機自体の損傷や発電システムの異常を避けるため、自動的に電力の供給を遮断する仕組みが働いたのだという。結果、ドミノ倒しのように道内すべての火力発電所が停止した。
北海道電力の泊原発(古宇郡泊村)は、原子力規制委員会による審査を受けるため停止中。そのため、“泊原発が動いていれば、ブラックアウトにはならなかった”と言いたいらしく、ネット上では改めて原発の必要性を説く主張も出ている。だが、これは無知な人間の世迷言に過ぎない。
仮に泊原発が営業運転を行っていたとすれば、前述した苫東厚真火力発電所のケースと同じで、電力の需給バランスが崩れると原発にも想定外の負荷がかかる。発電した電気の行き場がないからだ。原子炉内で発生した異常に対応するためには、余分な電気が必要となるが、外部からの電源は一時的にせよ、無くなっている。非常用のディーゼル電源に切り替えても、不安定になることは確かだ。今回の地震で泊原発は9時間近くも外部電源喪失の事態となっていたことが分かっており、一歩間違えれば福島第一と同じような事態になっていた可能性がある。
東日本大震災では福島第一原発で外部電源が喪失し、余震で東通原発(青森県下北郡)も外部電源を喪失した。電力がなければ大惨事になる状況は変わっておらず、原発の脆弱性は補強されていない。賢しらに“原発さえ動いていれば”という輩は、フクシマを知らないただのバカだ。
■地震加速度が示す原発の脆弱性
そう断言できる理由は、まだある。東日本大震災が、陸のプレートと海洋のプレートの運動に起因する「海溝型」だったのに対し、今回の地震は活断層が原因の「内陸直下型」。地震発生直後は、震源付近に存在する「石狩低地東縁断層帯」との関連が指摘されていたが、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)・地震調査委員会は6日、同断層帯との関連を否定し、別の活断層が動いたとする見解をまとめている。つまり、地震本部が把握していなかった活断層が今回の最大震度7という大きな揺れを引き起こしたということだ。
地震本部が把握していない活断層は無数にあるといわれており、把握している断層帯も、未解明なものが少なくない。国内の原発の周辺も、状況は同じ。確認されていない活断層や、確認はされていても評価を超えたエネルギーをため込んだ活断層が原発近くで動けば、福島第一を超える大惨事になる。
「いや、そんなことはない。原発は、大きな地震に耐えられる設計になっている」と反論する人は、よほどおめでたいか、分かっていて強弁する原子力ムラの人間だ。
「ガル」は、地震動の大きさを示す単位だが、防災科学技術研究所(防災科研)が全国に展開する観測網「KiK―NET」によって得た北海道胆振東部地震の最大加速度は、安平町に設置された観測点の1505ガル。この数値と、これまで国内で起きた大きな地震の最大加速度は、次のようになっている。
一方、泊原発の設計上の「基準地震動」は620ガル。これ以上の地震に耐える保証はない。1504ガルの地震が泊原発を直撃していたら、間違いなく事故が起きていた。
下は、北海道の対岸に電源開発が建設中(実際の工事は中断)の大間原発(青森県大間町)や営業運転中の九電・玄海(佐賀県玄海町)、川内(鹿児島県薩摩川内市)両原発の基準地震動。いずれも、近年国内で起きた大きな地震の加速度には耐えられないことが分かる。
安倍政権が「世界一厳しい」と自賛してきた審査基準は、しょせんこの程度のものだ。地震大国日本で、原発を保有し続けることは、国民に対する犯罪行為と言っても過言ではあるまい。阪神大震災以来、自然は何度もそのことに警鐘を鳴らしている。