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知事リコールの鹿児島 薩摩川内産廃処分場めぐり新たな闘い

2013年9月 2日 08:25

 伊藤祐一郎知事へのリコール(解職請求)が本格的に始動した鹿児島県で、独裁県政に対する県民の新たな闘いが始まった。
 薩摩川内市川永野で建設が進む産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」(事業主体:鹿児島県環境整備公社)をめぐり、29日午後、地元住民らで組織された市民団体が、鹿児島地裁に建設差止めを求める訴訟を提起。記者会見を開き、処分場建設の非道さを訴えた。
 県民の声を無視して進められてきた伊藤県政による無軌道な公共事業の是非が、法廷の場で裁かれることになる。
 また同日午前、原告団代表らは、今年になって積み増しされた処分場の工事費約19億円を違法・不当な支出として、監査委員に県の支出を止めるように勧告する措置を求める住民監査請求を行った。
(写真は、県庁前で処分場工事における不当支出を訴える原告団)

危険な処分場、建設差止め求め提訴
鹿児島地方裁判所 建設差止めの訴訟を起こしたのは、処分場計画に反対してきた「大原野自治会」をはじめ「冠嶽の霊山性を守る会」、「冠嶽水系の自然と未来の子ども達を守る会」など三つの団体に所属する住民ら224人。訴状提出後、記者会見に臨んだ原告側弁護団によると、訴訟の主旨はおよそ次の通り。
(右の写真は鹿児島地裁へ入る原告団)

  • 処分場は、その構造上、産業廃棄物が多量に堆積する。その上、湧水が極めて多いことなどから、法面や底面といった構造物が傾いたり沈下したりする。そうなると、施設のコンクリートや遮水工が破壊され、産廃に含まれる有害物質が漏れ出し、関係地域や川内川流域住民の生活が脅かされる。
     遮水の要である遮水シートが簡単に破れることは、東電福島第一原発の汚染水プールの漏出事故で明らか。

記者会見のようす

  • 処分場東側には土砂崩れの起きる恐れのある複数の砂防指定地や急斜面崩壊危険箇所があり、西側には地滑りの起きる恐れのある斜面がある。処分場自体が崩壊に至る可能性が高い危険な立地であり、建設には最も不適。
  • 処分場が立地する「冠嶽」を霊山として信仰する人たちは、豊かな自然、とくに清浄な水の存在が霊山性を支えるものと考えてきた。巨大な人工物であり、地下水汚染などの危険性の高い処分場が建設されることで、霊山性や宗教的な人格権が損なわれる。
    (右の写真が、会見の模様)

 処分場の建設をめぐっては、平成23年の工事差止めの仮処分申請が昨年5月に却下。決定の取り消しを求めた即時抗告が今年3月に棄却されたため、原告団が今回の本格的な訴訟に踏み切った。

19億円積み増し工事費で監査請求も
 また、同日午前、原告団の代表らは、当初契約より18億7,920万円も増えた処分場建設費に関し、県監査委員に不当な支出にあたるとして住民監査請求を行った。
 請求は、処分場工事で増額された事業費18億7,920万円の支出を違法・不当と指摘。県監査委員に、公金を支出しないよう県に勧告する措置を求めている。

問題だらけの処分場建設
 処分場が抱える数々の問題については、一昨年以来、HUNTERでその詳細を報じてきた。

 そもそも、処分場建設地の選定は知事の独断で進められたものだ。地場ゼネコン「植村組」との癒着が囁かれる疑惑の事業でもある。
 さらに、豊富な湧水のため工事が難航し、工事期間は平成25年8月から平成26年9月まで1年以上の延長。特定建設工事共同企業体(JV:「大成・植村・田島・クボタ」)との契約金額は、今年に入って18億3,000万円も積み増しされ、77億7,000万円から96億4,920万円へと膨れ上がっている(参照記事⇒「豊富な地下水―産廃処分場を葬る可能性」・「薩摩川内産廃処分場 工事費19億円増大の真相」)。

 また、処分場自体が3つの砂防ダムに囲まれた危険地帯となっているほか(参照記事⇒「鹿児島・薩摩川内処分場に重大欠陥」)、産廃の汚染物質流出を防ぎ止るための遮水シートの脆弱さは、福島第一原発の汚染水プール事故で実証済み(参照記事⇒「汚染水漏れ・福島第一貯水槽と鹿児島・産廃処分場の共通点」 )。危険極まりない場所に、わざわざ環境破壊を招く施設を造ろうという、無謀な計画となっている。

 JVによる建設工事も違法・脱法行為の連続だ。現場内の産廃汚泥を通常の残土と混ぜて搬出したり(参照記事⇒「公共事業でまかり通る反社会的行為」・「法令無視して汚泥処分」)、濁水処理して直下の川に放流する決まりだったはずの汚水を、隠された場所で直接川に流すなどやりたい放題(参照記事⇒「鹿児島県産廃処分場 排水口を隠蔽」。近隣住民からは、自然環境が破壊されているとして抗議が相次いだが、県側は一切無視して工事を強行している。

問われるべきは独裁知事の責任
鎭國寺境内から見た霊峰「冠嶽」頂上 原告団参加者は、処分場の近くに住む住民や、霊峰「冠嶽」を守ってきた高野山真言宗「「冠嶽山鎭國寺頂峯院」の関係者らで、高齢者が大半。薩摩藩や地元民が崇拝してきた冠嶽の環境と住民の命を守るため、平成19年の処分場計画発表以来6年間、必死の思いで伊藤県政と闘ってきた経緯がある。
 知事は、県民の声を黙殺し、強引に処分場建設を進めてきたのだ。(写真は、鎭國寺境内から見た霊峰「冠嶽」の頂上)

 不透明かつ非常識な事業の是非が法廷で裁かれることになったが、伊藤県政の強引な手法が住民をここまで追い込んだ形。鹿児島県では、リコールの原因となった独裁的な県政運営の在り方そのものが問われねばならない。



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