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汚染水漏れ・福島第一貯水槽と鹿児島・産廃処分場の共通点

2013年5月29日 09:55

 今年4月、東京電力福島第一原子力発電所で、地下貯水槽からの放射性汚染水漏れが確認された。原因は、未だに明かされていない。東電側は、国の基準にならって貯水槽を設置したと主張しているが、汚染水が漏れたのは事実。施設の構造自体に欠陥があった疑いもあるが、そもそも国の基準とやらに問題があった可能性も否定できない。
 一方、問題となった放射性汚染水の貯水槽と同じ構造を持ち、同じ“国の基準”に従って整備されている施設がある。産業廃棄物の処分場だ。
 鹿児島県薩摩川内市で建設が進む産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」(仮称)は、地元住民らによる建設反対の声を無視して県が計画を進めてきた迷惑施設であるが、完成しても利用が危ぶまれる欠陥商品となる可能性が高い。両施設に共通する問題点を検証した。(写真は「エコパークかごしま」建設現場)

福島第一原発汚染水 貯水槽の構造に疑問
 問題の貯水槽は、どのような基準の下で整備されたのか―原子力規制庁に確認したところ、東電側の報告では、昭和52年に出された「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令」(昭和52年3月14日総理府・厚生省令第1号).の定めた基準を参考に築造されたのだという。

 この省令には、たしかに一般廃棄物と産業廃棄物の最終処分場に関する設置基準や維持管理の技術的基準などが記されており、埋立地等からの浸出水に対する遮水層の条件を次のように定めている。

―厚さが50センチメートル以上であり、かつ、透水係数が毎秒10ナノメートル以下である粘土その他の材料の層の表面に遮水シートが敷設されていること。
―厚さが5センチメートル以上であり、かつ、透水係数が毎秒1ナノメートル以下であるアスファルト・コンクリートの層の表面に遮水シートが敷設されていること。
―不織布その他の物(二重の遮水シートが基礎地盤と接することによる損傷を防止することができるものに限る)の表面に二重の遮水シート(当該遮水シートの間に、埋立処分に用いる車両の走行又は作業による衝撃その他の負荷により双方の遮水シートが同時に損傷することを防止することができる十分な厚さ及び強度を有する不織布その他の物が設けられているものに限る)が敷設されていること。

福島貯水槽 ちなみに、汚染水漏れを起こした福島第一の貯水槽は、まず「ベントナイト」と呼ばれる粘土質のシート(厚さ6.4ミリ)、さらにその上に厚さ1.5ミリのポリエチレン製のシート2枚などが敷設され、上部は厚さ100ミリほどのコンクリートで覆われていたとされる。(右は、東電の公表した貯水槽底部の状態を示す図面)

 それでは、ベントナイトの6.4ミリ、遮水シートの1.5ミリという数字は、どのような規定・基準に従ったものなのか。調べてみたが、基準となる数字が見当たらない。じつは、省令には遮水シートなどの厚さについての数値規定がなく、整備される産廃処分場ごとに、事業者が恣意的に決めているのが現状だ。

 福島第一の汚染水貯水槽は、環境省や関係自治体と協議もせぬまま、東電側が指示した仕様に従って、ゼネコン(前田建設工業)が施工し、結果として汚染水漏れを引き起こしていた。さらに、福島第一のベントナイトの厚さについて言えば、管理型の産廃処分場で採用される水準以下でしかない。原子力ムラの懲りない体質は、まったく改まっていない。

 管理型の最終処分場におけるベントナイトなどの粘土層は500ミリ以上となるケースが多く、そうでなければ、他の工法を組み合わせて遮水能力を向上させるのが普通だ。それでも管理型最終処分場でのシート破損による事故は絶えない。これは、どう頑張っても“汚染水は漏れる”、ということの証しでもある。福島第一の汚染水漏れは、起こるべくして起こった事故だと言えよう。

「エコパークかごしま」の危険性
 管理型処分場は、人の命を奪いかねない危険物質を捨てるための施設であり、そうした意味では、福島第一の汚染水貯水槽と同じ性格を有していると言えよう。もう一つ共通点を挙げるとすれば、ともに施設内の汚染水が漏れ出る可能性が高い施設、ということになる。

川内処分場構造 これまで度々報じてきた通り、鹿児島県が整備を強行している産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」(仮称)の立地場所は、湧水が豊富なことから周辺地域の貴重な水源地となっている霊峰「冠嶽」の中腹に位置する。

 同処分場の遮水工は、250ミリのベントナイト混合土や1.5ミリのメタロセン系遮水シート2枚のほか、10ミリの短繊維不織布、6ミリの自己修復材(GCL)などなど、さまざまな対策が講じられている(右の図、鹿児島県環境整備公社の公表資料参照)。しかし、前述したように、同じような構造を持つ国内の最終処分場におけるシート破損事故は防げていない。

 平成22年には、財団法人滋賀県環境事業公社が運営する「クリーンセンター滋賀」で、遮水シート破損による汚染水漏れ。昨年は財団法人山梨県環境整備事業団の「山梨県環境整備センター」で汚染水漏れが疑われる状況となり、調査の末、遮水シートに空いた穴が見つかっている。
 いずれの施設も鹿児島の「エコパークかごしま」と同じ公共関与型といわれる事業形態によって整備された管理型最終処分場だ。自治体が整備した処分場は安全、というのが公共関与型処分場の“売り”となっているはずだが、遮水シートは破損するし、汚染水は漏れ出るのである。

 放射性物質に汚染されていたため、極めてタチの悪いものではあったが、福島第一の貯水槽に入っていたのは、「水」である。
 一方、産廃処分場に放り込まれるのは「水」ではなく、固体状のものから汚泥まで様々。重さも違う。当然、遮水層の上に膨大な圧力がかかる上、地震など他の影響によって施設の構造自体が破壊されることも想定される。「絶対の安全」など存在し得ないのだ。

 「エコパークかごしま」は、さらに施設の周囲からの自然の圧力にもさらされる。度々報じてきた「湧水」の豊富さが、施設構造に決定的なダメージを与えるのが確実だからで、既にその不安が顕在化している。建設工事の段階で、湧水に苦しめられ、工期の1年以上延期と19億円もの追加工事費を支払う破目に陥っているのだ(参照記事⇒「薩摩川内産廃処分場 工事費19億円増大の真相」)。

 薩摩川内の処分場から汚染水が漏れ出した場合、それは地下水や場内を流れる「阿茂瀬川」に流出し、飲料水や農業用水に影響を及ぼすのが確実だ。阿茂瀬川は、最終的に県内最大の河川「川内川」につながっていることを忘れてはならない。

 自然を破壊し、人の生命をも脅かす原発や自治体が整備した産廃処分場・・・・。いずれも、税金や電力料金といった国民が支払ったカネを原資として建設されている。



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