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鹿児島・薩摩川内処分場に重大欠陥
隠蔽された「砂防指定」

2012年5月21日 08:45

 鹿児島県が住民の反対意見を無視して建設を強行してきた産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」(仮称)の立地場所に、防災上の重大欠陥があることが判明した。

 HUNTERの取材によれば、同処分場用地は砂防法に基づき国土交通大臣が指定する「砂防指定地」に接しており、土砂災害の危険性が極めて高い場所だった。
 県が取得した処分場用地は、砂防指定された住所地だけを避ける形で区分されており、脱法的な手法で「安全」を偽装した形だ。

 来月告示の県知事選挙を前に、100億円近い公費が投入される事業の正当性が問われる事態となった。

砂防指定地
 砂防指定地とは、大雨などによる土石流、山崩れといった土砂災害を防止するため、砂防えん堤(砂防ダム)などを設置したり、利用に一定の制限が課せられる土地のことだ。
 「砂防法」は、都道府県が当該地を進達し、国土交通大臣が指定、告示を行うと定めており、指定された場合は施設の新築・改築はもちろん、土地の掘削、盛土、切土、土石の採取といった行為のほか、竹木の伐採なども制限される。

 gennpatu 064.jpg砂防指定の官報告示には当該地の地番が列挙されているが、公式な記録である「砂防指定地台帳」(右の文書参照)には、告示文のほか県が国に進達した時の「位置図」も添付される。

 位置図では、危険が想定される対象河川付近の「砂防指定地」を赤い線で囲み、流域全体を黄色く色分けして明示している。砂防指定地が危険地帯であることは言うまでもないが、位置図のなかで"流域"として色分けされた地域も、砂防指定地同様に土砂災害などによる被害を受ける可能性があるということだ。

危険地域だった処分場予定地 
 下の2枚の図は、平成13年3月と12月に相次いで砂防指定された薩摩川内市川永野町および百次町周辺の、砂防指定地台帳に残された「位置図」である。(左が3月、右が12月の指定地および流域)

  砂防指定地台帳(右側地図)3.jpg  砂防111.jpgのサムネール画像

 砂防指定地台帳2.jpg2枚の位置図の中で、石を積み上げたように表記されている場所(右の拡大部分参照)を含んだ部分が採石場だった問題の処分場予定地だ。
 2枚の位置図から分かるのは、この場所が三方を砂防指定地で囲まれているという事実である。さらに、同年3月に告示された砂防指定地の位置図では、産廃処分場自体が流域指定地域であることを示す黄色で色分けされた中に入っている。

 処分場周辺に三つの砂防指定地があるということは、災害を防止するための設備が3箇所あるはずだ。現地で確認したところ、処分場を囲む形で設置された「砂防えん堤(さぼうえんてい)」(砂防ダム)が見つかった。

ダム2.JPG  ダム3.JPG  ダム4.JPG

隠されてきた「砂防指定」の事実
 これまで鹿児島県は、やみくもに建設を急ぐばかりで、県民への十分な説明責任さえ果そうとしなかった。昨年、HUNTERによる処分場建設計画に関する情報公開請求を拒否したことかでも分かるとおり、隠蔽と虚偽の説明を繰り返している。(関連記事→「鹿児島県が情報公開請求を拒否」)

 悪質なのは、県が処分場予定地を取得する過程で、防災上の欠陥を隠すため、砂防指定地の住所地だけを避ける形にしていることである。
 処分場の図面に、官報告示の砂防指定地の地番を当てはめていくと、判明分だけでも次のような色分けになる。ピンク色の部分が処分場用地で、青で示したのが砂防指定された地番である。

エコパークかごしま(仮称)整備工事

 処分場が、事実上"砂防指定地"という危険地域に建設されることは一目瞭然。地図上でのみ砂防指定地を処分場計画から省き、危険性を糊塗して県民を欺いた行為は到底許されるものではない。

「極めて高い安全性」 ― 知事発言は真っ赤な嘘
 今年4月、定例会見において処分場工事の進捗状況を聞かれた伊藤祐一郎鹿児島県知事は、次のように明言している。「あの地区は極めて高い安全性を持った地域と私は確信致しております」。
 さらに、平成21年7月の会見では「私は、前から申していますように、あの川永野の地区は、地形からいい、岩盤の状態等、いろんな状態から見て、日本に1,000箇所くらいありますが、私もいろいろ見ていますが、やはりベストの場所ですね」とまで言い切っていた。砂防指定地を日本一ベストと評価する神経は理解できないが、発言自体が真っ赤な嘘であったことは明白だ。

 固い岩盤だの、砂防えん堤があるから大丈夫だのといった言い訳も通用しない。ほかでもない「鹿児島県」が、砂防施設だけでは安全とは言えないことを県内の子ども達に教えてきたのである。

 鹿児島県は土砂災害発生件数が日本一である。このため県は独自に「砂防読本」を作成し、小学校などに配布している。同書に掲載されている砂防えん堤(砂防ダム)の写真2葉は、まさに薩摩川内処分場のそばにある施設だ。

 そして読本では、《砂防施設があることによって、まちは以前より安全になりますが、安心してはいけません》とした上で、《土砂災害は、私たちの想像もしない大きさやかたちで発生することもあり、砂防施設を壊して、私たちのまちを襲ってくることもあります》と明記しているのである。

IMG_20120516_110346.jpg  IMG_20120516_110715.jpg  IMG_20120516_110810.jpg

これでもまともな県政か?
 鹿児島県は今月はじめ、処分場建設に反対する団体の男性が砂防指定地台帳の開示を求めた際、最低でも30日間かかる情報公開請求をするよう要求。既に官報で公表された文書であるにもかかわらず、頑として台帳を見せることを拒否していた。
 その後、朝日新聞やHUNTERの取材を受けて態度を一変させ、閲覧やコピーを容認する方向に転換したものの、時間稼ぎを図ったのは事実だ。
 処分場工事差止めを求める裁判の判決を控えていたため、新たな防災上の欠陥が報道されることを恐れたためと見られる。

 処分場予定地の岩盤がいかに強固でも、土砂災害が発生した場合は、処分場施設に壊滅的打撃を与える可能性が否定できない。そうなると汚染水や産廃そのものが土砂と共に阿茂瀬川を下り、最終的に川内川へと流れ込むことになる。
 処分場が砂防指定地に立地するという事実が明らかになった以上、「安全」とする県の虚構は崩壊しているのである。

 下の写真は、処分場用地のそばにある土砂置き場だが、そこに立てられているのは「砂防指定地」を示す看板だ。この事実を鹿児島県民はどう見るのか。
 隠蔽や虚偽を重ね、100億円近い公費をこうした不適切な事業に投じようという伊藤県政のあり方は、決してまともとは思えないが・・・。

看板 13.jpg



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