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劣化する地方紙の権力監視機能(2) ― 西日本新聞の紙面から ―

2014年8月29日 09:55

西日本新聞 この3週間あまり、高島宗一郎福岡市長と大野敏久副市長の公費出張をめぐる報道にかかりきりとなってしまった。税金を使ってのご御乱行。市民に伝える義務があると確信しているが、じつは報道予定の6割程度しか、記事にしていない。本番はこれからなのだが、一連の報道に対する反響は大きく、とくに市長の東京出張について実態解明を求めるご意見メールが数多く寄せられている。
 一方で、いささか困惑せざるを得ない「問い合わせ」も少なくない。≪なぜ新聞はこの問題を取り上げないのでしょうか?≫≪地元紙である西日本新聞がダンマリを決め込んでいる理由が分からない≫といった内容なのだが、正直、当方に聞かれても答えようがなく、「要返信」が滞るばかりだ。ただこの際、福岡市民に多大な影響力を持つ西日本新聞の報道姿勢には、疑問を呈しておきたい。「問い合わせ」への答えになるかどうかは分からないが……。

市長擁護? 
 28日の西日本新聞朝刊。1面に〔高島氏 再選出馬へ〕の見出しを付けた記事が掲載された(下がその紙面)。出馬が既定路線だったとはいえ、地元紙にとっては大きいネタ。目立つところに持ってきて、「スクープ」を印象付けた格好だが、こんな記事は評価に値しない。もちろんスクープといえるネタでもない。

西日本新聞 高島市長再選出馬へ

 そもそも、今月11日に自民党福岡市議団が「高島支援」を打ち出しており、9月議会で再選出馬に向けた市長の決意を問うことが決まっている。報道各社はそのことを報じており、西日本新聞も比較的大きく取り上げていたはずだ。前後して、市長自身が「ご支援いただければ、真摯に受け止めたい」、「まちづくりは1期ではできない」などと語ったことが報じられており、市長の出馬は決定的。いまさら1面に持ってきて〔出馬へ〕ともったい付ける話ではあるまい。

 気になる記事が、もう一本あった。今月1日の朝刊。福岡市長選に名乗りを上げる候補者が一人もいない現状について、市長陣営と対抗馬擁立を模索する勢力を比較した記事が掲載された。大雑把に言えば、身動きがつかない反高島勢力に対し、『周辺には楽観ムードさえ漂う』として余裕の構えの市長陣営といった筋書きだ。中味のある記事ではなかったが、市民に「高島有利」を印象付ける形となったのは事実だろう。どうも西日本新聞は、高島擁護の姿勢であるとしか思えないのだ。(下が西日本新聞8月1日の紙面)

西日本新聞8月1日付紙面

近すぎる関係
 同紙と福岡市の近すぎる関係については、これまで度々警鐘を鳴らしてきた。福岡市からの多額の業務委託、不可解な共同事業――いずれも「癒着」としか言いようのない実態があった。今年4月には、「待機児童ゼロ」を宣言した高島市政を、公式発表前に礼賛する記事を掲載して顰蹙をかっている。1面トップの扱い。この時の見出しは〔福岡市の待機児童ゼロ〕。脇見出しは「保育所整備が奏功」である。保育所の未入所児童が1,000人を超える現状を無視したヨイショ記事であり、まさに「権力の犬」――HUNTERでは「ポチ」と呼んでいる――といった状況。保育関係者の間から、同紙の報道姿勢を疑問視する声が上がったのは言うまでもない。

「福岡市業務委託 マスコミ関連企業に4年で5億5千万円」
「福岡市⇒西日本新聞 業務委託の問題点」
・「福岡市とメディア(1) 実行委員会方式2事業 ― 事務局は西日本新聞社
・「一線越えた西日本新聞 税金使って時給3,500円― 福岡市とメディア(2) ―
・「問われる西日本新聞の報道機関としての資格 福岡市と共催の事業―支出の大半、自社の懐へ
「権力の犬と化した「西日本新聞」

 11月の市長選を前に、福岡市の実情を伝えるのは重要なことだ。候補者調整をめぐるドタバタ劇も、報じる意味がないとは言えない。しかし、報道に求められているのは「市民目線」。税金の無駄遣いや為政者の愚行は、きちんと読者の目に晒すべきである。そうした意味において、市長や副市長の出張の在り方には問題が多すぎると言わざるを得ない。選挙にあたって、有権者の判断材料にすべき課題であろう。

 ポチにはポチなりのお仕事があるのだろうが、権力者が喜ぶような報道が増えれば増えるほど、肝心の販売部数が落ちるということを自覚すべきである。西日本新聞の福岡市政をめぐる報道から、そうした自覚が見えてこないのは確かだ。



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