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一線越えた西日本新聞 税金使って時給3,500円
― 福岡市とメディア(2) ―

2013年4月 5日 09:40

管理費.jpg 行政権力と向き合う報道機関には、超えてはならない一線があるはずだ。とくに、公費支出をともなう事業で自社の中に事務局を置き、グループ企業全体の利益を創出することが、「新聞社」に許されるとは思えない。しかし、地元紙・西日本新聞と福岡市の間で、その許されるはずのない愚行がまかり通っていた。
 西日本新聞社と福岡市が事業費を出し合っているアイランドシティがらみの事業の実態を調べたところ、市と同社で立ち上げた「運営委員会」が、とんでもない会計処理を行っていることが明らかとなった。

時給は3,500円
こどもっときゅうしゅう 平成21年、西日本新聞社は、小学生を対象として芸術、伝統文化、音楽、スポーツ、環境などさまざまな体験イベントを実施するプロジェクト「こどもっと きゅうしゅう」を始めた。
 メインとなっているのは「アイランドシティ こどもっと!だいがく」。講師別に年間30ほどの「授業」を設定、入学した小学生はアイランドシティ内のいずれかの施設で行われる授業に所定の費用を支払って参加し、終了後には授業ごとに修了証が渡される仕組みだ。

 主催は西日本新聞社、共催が福岡市となっているが、西日本新聞のホームページの画面やこれまでの広報内容からすると、西日本新聞の単独事業にしか見えない。ところが、事業費の半分は福岡市が出す税金―つまり、この「アイランドシティ こどもっと!だいがく」は歴とした市の事業でもあるのだ。

 行政機関と民間企業が共同して事業を行えるのは、「実行委員会方式」と呼ばれる事業形態による。「こどもっと!だいがく」は、吉田宏前市長時代の平成21年に市と西日本新聞社が協定を結び、双方から4名ずつを出し合った「運営委員会」(これが実行委員会にあたる)を組織して事業運営にあたってきた。発足時の会長は西日本新聞社の執行役員事業部長だった。  

 協定書によると、事業費は市と西日本新聞が折半、市側の負担金の上限は700万円とされ、これを上回る分は新聞社側が負担する決まりとなっている。初年度の年間予算は他の企業からの協賛金もあり約1,700万円。22年度は約1,450万円、22年度が1,530万円だった。問題はその会計処理である。

 下は、平成23年度の「アイランドシティ こどもっと!だいがく」運営委員会の決算報告書である。

鹿児島 121.jpg

 赤いアンダーラインと矢印で示したで示した箇所に、「企画費」として196万円が計上されているのが分かる。その内訳欄に「進行管理費」として次のような記述があった。

*1名3,500円/時間×7時間/日×2日間/週×4週間×10ヵ月

 説明すると、時給3,500円で1日に7時間稼働し、日給は24,500円。週のうち2日間をこの給与水準で職務をこなし、4週間(1ヵ月)で195,000円。「アイランドシティ こどもっと!だいがく」運営委員会の職務は年間10ヵ月を要するので、196万円の人件費がかかったということになっているのだ。

 この人件費は誰に支払われているのか―事業を所管する市港湾局に確認したところ、事務局が西日本新聞社にあるため、問題の金額は同社の社員に支払われたことになるという。時給3,500円、日給にすると24,500円。西日本新聞の給与規定がどうなっているのか知るすべはないが、世間の常識を超えた金額であることは間違いない。費用の半分が税金で賄われている事業で、西日本新聞は法外な人件費を受け取っていることになる。

杜撰な会計処理―揃わぬ「領収書」
 不可解なのは、平成21年度に158万6,128円、22年度には23年度同様196万円が「企画費」として計上されているのに、両年度の決算報告書の内訳欄には、「企画制作費、運行管理費」としか記されていないことだ。前述した23年度の内訳欄記述《*1名3,500円/時間×7時間/日×2日間/週×4週間×10ヵ月》がなければ、何のための支出か分からなかったことになる。

 さらに不適切なのは、この人件費の領収書が存在しないことだ。
 HUNTERの情報公開請求に対し、当初福岡市側が開示した文書には「アイランドシティ こどもっと!だいがく」の事業にかかる帳簿、領収書、通帳といった会計書類が含まれていなかった。しかし、実行委員会方式で実施されている事業については、情報公開請求の時点でそろう会計関連文書が開示されるのが通例だ。その点を指摘し、すべての文書の公開を求めたところ、帳簿も通帳もないという。代わりに出てきたのは、西日本新聞社側の会計データと請求書ばかり、残されていた領収書といえば携帯電話代や交通費に関する小額の支出のものだけだった。「企画費」と称する人件費が、まともに支払われたかどうかの確認さえできない状況だ。

 実行委員会形式とは名ばかり、会計処理は西日本新聞の都合に合わせた形となっており、「アイランドシティ こどもっと!だいがく運営委員会」名義の銀行通帳さえ作られておらず、市が負担する年間700万円の事業資金は、直接西日本新聞社の口座に振り込まれていたのである。杜撰というより、デタラメな公費支出と評価すべき事態だ。
 やむなく「請求書」などを精査するしかなかったが、ここでも西日本新聞の報道機関としての一線を越えた事業の実態が明らかとなる。

つづく



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