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福岡市⇒西日本新聞 業務委託の問題点
―地元紙よ、権力の下請になるなかれ―

2013年3月14日 10:00

業務委託契約書 福岡市が、平成21年度から今年度1月までの約4年間で、マスコミ各社とその関連企業に5億5,000万円にのぼる業務委託を行なっており、このうち地元紙である西日本新聞および同新聞のグループ企業に対する業務委託金額が4億7,000万円に達していたことが分かった(記事参照→「福岡市業務委託 マスコミ関連企業に4年で5億5千万円」。
 それぞれの契約内容を精査する中、西日本新聞本社が委託を受けた複数の業務が、福岡市が打ち出す施策の基礎となる各種の調査や、会議の運営だったことが明らかとなった。その問題点について検証する。

調査業務、会議の運営―まるで市の下請機関
 西日本新聞とその関連企業への業務委託は、平成21年度からの4年間で46件、契約金額は4億7,055万218円にのぼる。市との癒着を疑われてもおかしくない契約状況だが、そのうち、本体である西日本新聞社が委託された業務の中で、次の10件については別の意味で問題があると見る。

    【平成21年度】
    • 「女性の雇用状況やワーク・ライフ・バランス等に関する調査分析業務委託」⇒31万5,000円
    【平成22年度】
    • 「『高齢者実態調査』業務委託」⇒493万5,000円
    • 「NPO活動支援施策基本調査業務委託」⇒489万3,000円
    • 「福岡市子どもプラザに係るアンケート調査業務委託」⇒210万円
    【平成23年度】
    • 「新ビジョン検討における市民意見収集企画運営業務委託」⇒2,212万3,500円
    • 「福岡市補助金現状調査集計・分析業務委託」⇒56万7,000円
    • 「自転車等駐車実態調査委託」⇒358万6,212円
    • 「水使用量実態調査業務委託」⇒449万4,000円
    【平成24年度】
    • 「地域で子どもを育むことに関する調査委託」⇒52万5,000円
    • 「福岡市総合計画審議会運営等業務委託」⇒1,501万5,000円

     以上10件のうち「新ビジョン検討における市民意見収集企画運営業務委託」と「福岡市総合計画審議会運営等業務委託」を除く8件は、いずれも各種の「調査」が業務内容。つまり、福岡市が施策の方向性を見定めるための基礎資料を作成する目的で委託されたものだった。出された調査結果が、政策決定過程の重要なアリバイになることは言うまでもない。
     調査結果を基に導き出された施策に問題が生じた場合、西日本新聞は記事の上でこれを批判することができるのだろうか。

    市総合計画の策定過程にまで関与―問われる報道機関としての矜持
     最大の問題は市の総合計画に絡む2件の業務委託にある。
     「新ビジョン検討における市民意見収集企画運営業務委託」は、福岡市が新たに定めようとしている「新ビジョン」に関する市民の意見を収集するため、西日本新聞に特命随契で委託された業務だ。さらに翌年度には、この意見収集業務の実績があるという理由で、またしても特命随契によって「福岡市総合計画審議会運営等業務委託」を受けている。

     「新ビジョン検討における市民意見収集企画運営業務委託」の契約(平成23年4月28日)が行なわれた一ヵ月後の5月31日、高島市長は定例会見で「新ビジョン」について次のように述べている。

    《今日の案件でございますが、まずは福岡市で新しいビジョンをつくりたいと思っております。『人と環境と都市の調和のとれたアジアのリーダー都市』というふうに私が議会等々でもですね、こんなまちにしたいと言ってきたんですが、これをより具体的にしたらどういう形になるのかと。市民の皆さんとですね、そういった思いをより具体化させていって福岡を実際に、その『人と環境と都市の調和のとれたアジアのリーダー都市』にしていきたいというふうに考えております。具体的にすれば、それは一体どういう形になるのか、例えばですね、うーん、例えば街中に緑があふれていてとか、もうそういうフレーズでも結構です。福岡市のですね、これから具体的にこういう形にしたいというものがあったらどんどん教えていただきたいなと。例えば、天神から博多駅まで全部地下街でつながっていて、ものすごくにぎわっているとかですね、うーん、そうですねぇ、24時間飛行機が行き来していて、そして住民の半分が、例えば、ね、英語しゃべっているとかですね、子どもたちはもう2ヵ国語、3ヵ国語は当たり前になっているとか、こういうより具体的にしたものをですね、皆さまから募りたいと。ツイッター、フェイスブック、それからワークショップへの参加、それから従来どおり郵送、FAX、電子メールもオーケーということです。大体ツイッター自体が140文字しか書けないので、そんなにですね、かしこまった何か企画書・提案書みたいなことじゃなくても結構でございます。こうして集めた皆さまの意見を8月31日まで求めて、その後、福岡市の長期計画、長期ビジョンのですね、福岡市総合計画というのがあるんですが、その中に皆さまからいただいたご意見なりイメージ像というのを落とし込んでいきたいというふうに思っております》。
    《今後ですね、福岡市が作成する福岡市の総合計画、この中にですね、(新ビジョンを)入れていきたいと、これがもう4つの都市像というものを掲げて福岡市、総合計画、あったんですが、もう25年経ったということで、これをですね、つくる前段階として、具体的に皆さまはどういうイメージの福岡にしたいか、ということを皆さまから募集するということでございます。ですから、今後ですね、皆さまからいただいたそういったアイデアとか、イメージとか、こういったものは福岡市の新しくできます総合計画の中に反映させていくということです》。

     西日本新聞が委託されたのは、高島市長が言う「新しいビジョン」について市民の意見を収集するためのすべての業務である。その結果を受けて策定された「新ビジョン」が、これからの市政運営に重大な影響を及ぼすことを、この時の会見で事務方が説明していた。

     《(市の)総合計画をつくるにあたっては、総合計画審議会という、有識者とか議員さんとかというような審議会を立ち上げて、そこの中で新ビジョンで出てきた内容をですね、とりまとめると、そういう内容ですので、最終的には24年12月頃を目途にそういう作業を終えて総合計画の策定をしていきたいというふうに思っています》(総務企画局)。

    業務委託契約書 市長の諮問機関である福岡市総合計画審議会は、市議や有識者の中から選ばれた委員が数ヶ月間をかけて議論し、福岡市の新たな方向性を決定付ける「答申」を出す機関だ。

     そして、西日本新聞は昨年6月、市と「福岡市総合計画審議会運営等業務委託」の契約を結び、総合計画審議会の運営業務一切を任されていたのである。同紙は、福岡市政の方向性を決定付ける過程のすべてに関与したことになる。報道機関が、行政の方針決定過程における下請業者と化した状態だ。

     新聞各紙の販売部数が減り続ける中、各社は様々な事業に取り組み、生き残りに必死だ。しかし、公費支出に頼る事業で売上げを確保している形の西日本新聞社の手法は、報道機関としての矜持を問われかねない。さらに、西日本新聞が受託した業務の延長線上にある施策や総合計画に問題が生じた場合、新聞紙上においてこれを批判することで自己矛盾を抱え込む可能性さえある。泣くに泣けないのは何も知らなかった一線の記者たちだ。

     マスコミには、権力を監視するという重要な使命が与えられているはず。当然、権力とは一定の距離を置くべきで、行政機関の方針決定に関わるような業務を受けるなどいうことは自殺行為に等しい。西日本新聞には、毅然として時の権力と対峙した「菊竹六鼓」という大先達がいたはずだ。



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