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問われる西日本新聞の報道機関としての資格
福岡市と共催の事業―支出の大半、自社の懐へ
― 福岡市とメディア(3) ―

2013年4月 8日 09:45

 公権力を監視する役割を担っているはずの報道機関が役所と手を組み、税金を原資とする事業を展開したあげく、不透明な会計処理で自社の収益を確保する・・・・・報道への信頼を根底から揺るがしかねない構図だが、西日本新聞社が福岡市と運営委員会を組織し、平成21年から続けている「アイランドシティ こどもっと!だいがく」の事業をめぐり、同紙の報道機関としての資格が問われるような驚きの運営実態が浮かび上がった。

会計上は西日本新聞の事業
 HUNTERが福岡市への情報公開請求で入手した「アイランドシティ こどもっと!だいがく」(以下、『こどもっと!だいがく』)の関連文書からは、同事業の運営委員会の会計処理が極めて不透明なものであることが分かる。

 福岡市がからむ従来の実行委員会方式による経理では、事業ごとに銀行口座を設け入・出金の管理を行う。帳簿や支出を証明する領収書などが、ほぼ完璧に揃えられているのは言うまでもない。
 しかし、こどもっと!だいがく運営委員会の会計処理は西日本新聞側の都合に合わせたもので、銀行口座もなければ帳簿も作られていない。信じられないことだが、支出を証明する領収書は、その大半が存在していない。あるのは西日本新聞社の会計データだけ。つまり、会計上は市が関与した公的事業ではなく西日本新聞社の単独事業という形になる。断っておくが「こどもっと!だいがく」は補助金や助成金の対象事業ではなく、市と西日本新聞社が共同して行う公的な事業なのだ。

 約1,500万円にのぼる事業資金は、市と西日本新聞が折半する形になっているが、市の負担金700万円は直接「西日本新聞社の口座」に入れられるシステムになっている。市側には支出を示す決済文書が残されているが、西日本新聞が応分の負担をしたのかどうかは確認できない。
 決算報告書上は新聞社側も応分の負担をしたことになっているが、先週報じた通り時給3,500円もの計算で自社の社員に報酬を支払ったとするなど不自然な点が多く、報告内容に信頼性があるとは思えない状況だ。

群を抜く「広告費」
 収入のほとんどは市と西日本新聞の負担金なのだが、講師への謝礼をのぞく支出の多くが西日本新聞とそのグループ企業へのものとなっていた。ただし、領収書がないため、開示された西日本新聞社のデータと「請求書」で内訳を確認するしかなかった。

 事業が開始された平成21年度から現在までの支出の中から、1件で100万円を超える金額のものを拾ってみた。左から、件名、支出金額、支払先である。

    【平成21年度】
    • 「こどもっと!だいがく 広告掲載料(取材・製作費含む)」 525万円 西日本新聞広告局
    • 「こどもっと!だいがく HP制作・管理(8~3月)取材費 一式」 130万円 西日本新聞社営業本部 営業戦略室デジタル戦略グループ
    • 「こどもっと!だいがく 企画制作・進行管理費 一式」 158万6,128円 西日本新聞社事業局

      【平成22年度】
      • 「アイランドシティこどもっと!だいがく広告掲載料」 525万円 西日本新聞広告局
      • 「アイランドシティこどもっと!だいがく HP制作・管理 一式」 105万円 西日本新聞社企画局デジタル事業部
      • 「アイランドシティこどもっと!だいがく 企画制作・進行管理費 一式」 196万円 西日本新聞社事業局

        【平成23年度】
        • 「こどもっと!だいがく 広告掲載料(取材・製作費含む)」 525万円 西日本新聞社営業管理部
        • 「アイランドシティこどもっと!だいがく HP制作・管理 一式」 105万円 西日本新聞社コンテンツ事業局編成部
        • 「アイランドシティこどもっと!だいがく 企画制作・進行管理費 一式」 196万円 西日本新聞社企画事業局

        こどもっときゅうしゅう こどもっと!だいがくの年間事業費は約1,500万円だが、毎年そのうちの半分以上が西日本新聞社の収入となっているのだ。525万円の広告費、105万円のホームページの制作・管理費が同社への支出として計上されているほか、企画制作・進行管理費(既報の事務局人件費)として200万円近くが西日本新聞社の財布に転がり込む仕組みだ。
         このほか、数十万円単位ではあるが、新聞折込やWEBサイト製作などの他の業務は、同社の関連企業への支出だった。

         時給3,500円の人件費も怪しいが、105万円とされるホームページの制作・管理費はさらに不可解だ。こどもっと!だいがくのHPとは右上の画面のことだが、同ホームページは西日本新聞社のサイトの中にあるもので、どう考えてもこれほどの経費がかかるとは思えない。

         西日本新聞は、事実上の自社事業に公費支出をともなわせたあげく、これによって自社の売上げを増やし、関連企業の面倒までみてきたことになる。しかも、経理は不透明極まりない。

        「広報に聞いて」―事業の独立性否定した西日本新聞
         情報開示の折、事業を所管する市港湾局側の話は聞いたが、実際の業務を取り仕切り、収支報告書を作成したのは運営委員会の事務局だ。こどもっと!だいがくの収支について詳しい説明を聞くため“運営委員会事務局”に電話を入れたところ、耳を疑いたくなるような返事が返ってきた。
         「この件については、すべて広報が対応させていただきます」。情報公開請求で出てきた公的事業に関する文書の内容について、事業の運営委員会事務局が、新聞社の広報を通せと言うのである。開いた口が塞がらない。
         やむなく広報に電話を入れたが、「いきなり聞かれても答える自信がない」だの「メモ書きでもいいから文書で質問事項を提出しろ」だのと言い出す始末。“話にならない”とはこういうことをいうのだろう。西日本新聞の対応は、こどもっと!だいがく運営委員会の独立性を否定したことになる。

        問われる記事との整合性 
         これまで西日本新聞は、公費支出―とりわけ議会の政務調査費などについて、厳しい批判をともなう記事を掲載してきた。膨大な量の政務調査費に関する領収書などから、不適切と見られる支出を割り出し、議員たちを追い込んだ記者の手腕は見事というしかない。
         しかし、その一方で新聞社本体が記者たちの知らないところで役所とつるみ、杜撰(というよりデタラメ)な会計処理を行ったあげく、自社の売上げを伸ばしていたとすれば、権力側を批判する資格を疑われてもおかしくあるまい。公費支出に関する厳しい記事と、「こどもっと!だいがく」における不透明な事業形態には整合性がないのである。

         問題はそれだけにとどまらない。人工島・アイランドシティ開発事業は、歴代の福岡市長をその土地処分やこども病院移転問題で苦しめ、市長選の度に争点になってきた市政の重要課題だ。これまで、こども病院現地建て替えや、土壌汚染などで市側が事実の隠蔽を重ねた歴史もある。報道機関にとって、監視対象の事業であることは間違いあるまい。
         それではなぜ、西日本新聞社が「こどもっと!だいがく」を通して事実上のアイランドシティの宣伝を行っているのか・・・・。その理由を求めると、「こどもっと!だいがく」が始まった平成21年時点の福岡市長が、西日本新聞出身だった吉田宏氏だったことに行き着く。古巣による吉田氏への援護射撃、そう見られてもおかしくない話なのだ。

         西日本新聞社の行為は、明らかに報道機関としての一線を越えている。一線の記者達の努力を無にしないためにも、同社幹部は経営方針を見直すべきだと思うが・・・・。



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