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福岡市業務委託 マスコミ関連企業に4年で5億5千万円
突出する西日本新聞グループへの公費支出

2013年3月13日 09:25

fukuoka-shiyakusho03_t.jpg 平成21年度から今年度1月までの約4年間で、福岡市が報道各社とその関連企業に5億5,000万円にのぼる業務委託を行なっていたことが明らかとなった。
 このうち、地元紙である西日本新聞および同新聞のグループ企業に対する業務委託件数だけが突出しており、同時期の委託金額合計は4億7,000万円に達する。
 監視する側とされる側―メディアと権力の距離の取り方が問われる事態だ。
(写真は福岡市役所)

業務委託の実態
 HUNTERが福岡市に情報公開請求したのは、平成21年度から同24年度の1月までに、福岡市が行った西日本、読売、朝日、毎日の新聞各社とテレビ各局およびそれぞれの関連企業との業務委託契約についてのすべての文書。
 事業の所管課ごとに開示された計60件の契約関係書類を、年度ごとに整理し一覧にまとめたのが下の表である(クリックで拡大)。

業務委任

突出する西日本新聞グループへの公費支出
 西日本新聞社とその関連企業に対する業務委託は、件数も金額もケタ違いだ。

  • 平成21年度⇒11件2億1,882万3,730 円
  • 平成22年度⇒12件1億3,406万8,795円
  • 平成23年度⇒11件6,254万8,203円
  • 平成24年度⇒12件5,510万9,490円

 本体の西日本新聞社とその関連企業7社が福岡市から委託された契約は4年間で46件、契約金額は4億7,055万218円となる。
 年々減ってきているとはいえ、読売系への4件3,342万7,998円、朝日系への2件660万4,500円をはるかに上回る受注実績だ。このほか、地元テレビ局の関連企業がわずかに市と業務委託契約を結んでいるが、毎日新聞系との業務委託契約は1件もなかった。特定メディア―とくに西日本新聞グループへの公費支出が際立つ結果となっている。

西日本新聞と吉田前市長
 平成21年度から23年度までの契約状況は、西日本新聞グループの独壇場。この間の福岡市長は、吉田宏氏(任期:平成18年~22年)で、初当選した平成18年の福岡市長選挙直前まで西日本新聞の記者だった。
 再選への動きが加速していた平成21年から22年にかけて、地元福岡で最大の部数を誇る西日本新聞とその関連企業への業務委託が極端に増えた形。政治的な臭いのする契約状況だったと言われてもおかしくない格好だ。

 平成23年11月、吉田氏を破って高島宗一郎氏が市長に就任。高島カラーが出始めた平成24年度の10月以降は、読売、朝日などそれまで市から相手にされていなかった新聞社やその関連企業に業務委託が行なわれるようになっている。時の市長の、各メディアに対する姿勢が透けて見える。

問われるマスコミと権力側の距離
 権力を監視するのがマスコミの使命である。そのマスコミや関連企業が、権力側から多額の公費支出をともなう業務委託を受けることに問題はないのか?とくに現場の記者たちは、こうした状況をどのように感じるか聞いてみた。

 ある古参の新聞記者はこう語る。「正直、驚きですね。西日本(新聞)は地元紙で、福岡市内の販売部数もトップです。市側が西日本を大事にするのは理解できないこともないですが、それにしても露骨すぎる。関連企業が業務委託を受けることまで否定することはできないと思いますが、西日本は本体が何度も大きな契約を(市から)もらっている。これでは市政がらみの記事が、市役所寄りになっていたんじゃないかという疑念を持たれてもおかしくない」。

 別の記者も同様の感想だ。「やり過ぎ。何も知らない現場の記者達はたまったもんじゃないだろう。市側に対しては厳しい姿勢で臨んでいるだろうし、ダメなものはダメだと書いてるはず。しかし、その一方で会社が市と多くの業務委託契約を結んでいるというんでは、記者のモチベーションも下がる。『メディアとしての矜持はないのか』と問われれば、苦しい言い訳をせざるを得ない状況だろう」。

 現場の記者たちの名誉のために述べておくが、こうした業務委託の状況が、西日本新聞の記者たちに知らされていなかったのは事実のようだ。同社のOBや現役記者の多くが、市と西日本新聞グループの契約状況を聞くと、「えっ、ほんとですか」といった驚きの声を上げるのである。
 ある同社OBは、次のように話している。「現場の記者たちが、筆を曲げることは絶対にない。もし会社から『契約があるから記事を書くな』などと言われようもんなら、即退社するさ。それが西日本新聞の記者だ。しかし、市側にメディアを操縦しようという意図があったと思われてもおかしくない契約状況であることは認めざるを得ない。これは会社(西日本新聞)が考えるべきことだ」。

 OB氏の言い分は理解できる。ただ、現場の記者たちが、まったく何も知らなかったということには問題がある。市が行う業務委託は膨大な件数に上るが、その内容や公費支出の状況を調べ、不適切なものについて厳しい批判を加えるのがマスコミの役割だからだ。「何も知らなかった」というのでは、能力を疑われてしまう。
 西日本新聞はもちろん、市政記者クラブ所属の記者たちの奮起に期待したい。

 ところで、一連の業務委託の内容を精査していくと、これはマスコミが受けるべきではないと見られる契約があった。契約までの過程に疑惑が生じているケースもある。

 次稿で、市のマスコミ関連企業への業務委託に関する個別の検証結果を報じる。



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