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僭越ながら:論

原発再稼動

九電の暴走
  もの言わぬ政治家

2011年11月 4日 08:50

 松尾新吾会長の個人商店と化した九州電力(福岡市)の暴走が止まらない。
 
 国民感情を無視して、トラブルで停止中の玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)4号機の再稼動を唐突に実施したうえ、自らが設置した「第三者委員会」(元委員長・郷原信郎弁護士)の見解を認めようとせず、郷原氏が提案した公開協議も事実上拒否。
 再稼動を説明するはずの会見に臨んだ九電幹部は、定期点検後の再稼動とは違うという理由で「地元の了解は必要ない」と開き直った。

 同社を窮地に追い込んだ張本人である松尾会長に至っては、「九電は信頼されている」と血迷ったコメントを口にする始末だ。

 公益企業としての立場もわきまえず、反社会的な動きを加速させる九電に対し国民の怒りが増大しているのは言うまでもないが、同社との対決姿勢を鮮明にし、独自に情報発信する九州の政治家は皆無に近い。
 
 九電の"身内"と見られる立地自治体の首長、そして世論の動向をよそに沈黙を守る九州の政治家たち。

 もの言わぬ選良たちの背景は・・・。 

「九電の犬」~佐賀知事と玄海町長~
 古川康マニフェスト古川康佐賀県知事と岸本英雄玄海町長は、玄海4号機の再稼動について、「国が認めたから」という理由であっさり容認したが、九電とカネがらみの親密な関係にある両人にとっては何と言われようと痛くも痒くもないらしい。
 
 ただ、原発に関する判断を国に丸投げした形の古川知事の姿勢は、自身のこれまでの政治家としての「約束」を反故にする、いわば政治家失格の証明でもある。
 
 古川知事の初当選は平成15年。この時の知事選で古川氏が掲げたマニフェスト「古川やすしの約束」(平成15 年3 月17 日公表)には、次のように明記されていたからだ。

 gennpatu 599.jpg《「もの言う・さが」 佐賀から地方主権の国づくりを行います。
より生活者に近いところで、生活者の目線での行政を展開していくためには、生活者主権、地域主権型の行政システムが必要です。私は国から押しつけられたり、国に任せたりするのではなく、国、地方の役割分担のもとに自ら考え、自ら決定し、自ら行動していく自主自立の行政運営を確立するための改革を推進します。そして県民の幸福を守るため、対等の立場で積極的に国にモノを言います
(参照資料の赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

 古川知事が、玄海4号機再稼動容認の理由を「国が認めたから」としたことは、原発という県民の生命に直結する問題の判断を国に委ねたことになる。
 
 佐賀県知事としての責任を放棄した形だが、《私は国から押しつけられたり、国に任せたりするのではなく》、《自ら決定し、自ら行動》、《県民の幸福を守るため、対等の立場で積極的に国にモノを言います》といったマニフェストに記された決意のほどは、どこに行ってしまったのだろう。

 改革派を装い、国と対峙する格好の良い政治家を演出する言葉の数々だったが、つまりは選挙向けの絵空事を並べていただけで、古川知事の欺瞞性を示す格好の事実ではある。

 gennpatu 62660.jpg一方の当事者、岸本英雄玄海町長はといえば、こちらも我関せずとばかりに何の異論も唱えることなく、再稼動を認めている。
 もっとも、九電との縁が切れれば、自身の実弟が社長を務める地場ゼネコン「岸本組」の仕事が激減するのだから、口が裂けても「原発はいらない」などと言えない状況。
参照記事・・・「玄海町政『癒着の構造』九電軸にうごめく政・業」、「玄海町・原発マネー還流のカラクリ」、「九電―玄海町 癒着の証明」、「玄海町長ファミリー企業、国と県の天下り先だった
     
 佐賀の両人に原発についての是非を問うこと自体が滑稽というべきで、コメントを求める大手メディアの記者たちも矛盾を感じているようだ。「この人たちに話を聞くべきなのか、社内でも議論になった。立地自治体の首長としては不適格とされる様々な事実を報じてきたのに、まだ古川知事や岸本町長のコメントが必要なのか考えてしまう」と葛藤する胸の内を明かすケースも。

 ある首長経験者は「古川さんや岸本さんは、九電の力で大きくなった人たち。いわば九電の犬じゃないですか。再稼動と言われればしっぽを振って『ワン』と吠えるだけ。唸ったりすることは絶対にない。九電一家の番犬であって、市民、県民の番犬じゃないんですから」と突き放す。

 こうした状況を打開するため、国民の代表として九電に"ものを言う"政治家はいないのだろうか?
 
「後ろ盾は九電」~福岡県知事~
 gennpatu 601.bmp原子力安全委員会は1日、原発から8~10kmとしてきた「防災対策重点地域(EPZ)」の範囲を、半径約30kmに拡大し、「緊急防護措置区域(UPZ)」とする方針を示した。
 
 佐賀県の隣に位置する福岡県では新たに糸島市が圏内入りすることになるが、原発事故の放射能拡散範囲がこの程度の距離で済まないことは福島第一原発の事故が証明している。
 
 福岡県としては、当然、九電に対し強い姿勢で立地自治体並みの安全協定締結を要求するべきだが、小川洋福岡県知事は原発についての発言を控えている状況だ。
 
 理由は簡単で、知事自身が電力会社と一体で原発を推進してきた経済産業省出身である上、知事の後ろ盾が暴走九電の商店主・松尾新吾会長その人であるからだ。(写真は小川氏当選でバンザイ三唱する九電・松尾会長)
 
 今年4月、小川知事誕生に松尾会長が果たした役割や、今後への危惧を「福岡県知事選挙 "傀儡"の証明(上)」、「福岡知事選 "傀儡"の証明(下)」に記したが、その一節を再掲したい。

gennpatu 602.jpg《プルサーマル計画を実施中の九電・玄海原子力発電所から、福岡県糸島市までの距離は約20km、福岡市なら約50kmだ。玄海原発に重大な事故が発生した場合、小川氏は福岡県知事として、九電や経済産業省へのしがらみを断ち、毅然とした態度で臨むことができるのだろうか。小川氏の、同省や九電との距離が近すぎるだけに疑念は払拭できない。ましてや、自身の後援組織の代表者である松尾会長や世話になっている九電に対し、強い態度を示せるとは思えないのだが・・・。
 さらに、経済産業省に限らず、中央省庁OBは、古巣の権益を守ろうとする傾向が強い。出身官庁やその管轄下にある電力会社トップの後押しで権力を掌中にした場合、その傾向はより強いものになると考えるほうが自然だろう。しかし、県知事は中央省庁や一企業のための存在であってはならないはずだ。そうした意味で、経済産業省の管轄下にある九電の会長をトップにした小川氏側の陣立てには大いに疑問がある。
 原発事故など、万が一の場合に、県民ではなく出身官庁や一企業の方を向いている知事では困るのだ》。

 現実がどうなったかについては、もの言わぬ知事の姿勢が如実に示している。

 ちなみに、11月2日現在も、知事の支援団体「小川洋後援会」と「福岡県の未来を作る会」の代表者は松尾新吾九電会長のままだ。

「腑抜けの税金泥棒」~国会議員~
 gennpatu 565.jpgあてにできない首長たちに対し、地元九州の国会議員はどのような動きをしてきたのだろう。
 
 残念ながら九州選出の衆・参両院の政治家たちが、原発の再稼動問題や九電について厳しい意見を表明したという話は聞いた覚えがない。
 
 自民党は、財界との不可分の関係を保つことで長期政権を維持してきた政党である。九州も例外ではなく、地場経済界トップとして君臨してきた九電と各県の自民党議員は良好な関係を続けている。原発を「国策」として推進してきた同党の政治家に、多くを期待するほうが無理なのだ。

 かといって九電や原発を擁護することもできず、だんまりを決め込むしかないというのが実態だろう。もっとも、利権と票にしか興味がない同党議員らが、原発について自説を展開できるほどの勉強をしているとも思えないが・・・。
 
 政権政党である民主党も五十歩百歩だ。
 そもそも党内での原子力行政についての方向性が定まっておらず、各議員が原発や九電問題で存在感を示す機会さえつかみきれない。
 
 野田政権は、国内向けには「脱原発」をにおわせながら、国外では原発輸出を推進するという矛盾する方針を打ち出しており、同党の議員たちもどうしていいのか分からないようだ。

 原発はある意味、一瞬で国の根幹を揺るがす恐ろしさを秘めており、経済が発展しようが、金持ちが増えようが、「放射能」を浴びればそうしたことに何の価値も無くなる。
 「TPP」参加の是非をめぐって議論することも確かに重要だが、国民の命より重い課題とは思えない。「コンクリートから人へ」と叫んでいた民主党の議員が、九電や原発の問題で発言を控える理由は何か?
 
 最大のネックは、九州の同党議員らが「九電労組」の支援を受ける立場にあるということだろう。

 例えば、玄海原発を抱える佐賀県には原口一博元総務相という大物議員がいる。テレビ番組では多弁な彼が、玄海原発や九電のことで積極的に情報発信したことはない。
 同じ佐賀県の選出で内閣府大臣政務官を務める大串博志衆院議員も同様で、こと原発問題では存在感ゼロだ。

 調べてみると、両人とも「九州電力労働組合政治活動委員会佐賀支部」にパーティ券を購入してもらっていた。
 
 票とカネ欲しさに自らの信条や所信を飲み込んでいるとしたら、政治家失格。幼稚な政治ごっこに終始する民主党を象徴しているかのようだ。

 佐賀市在住の50代主婦が彼らを厳しく批判する。「自民党に期待できないから民主党を応援してきた。なのに佐賀の民主党国会議員は、なぜ黙っているのでしょう。九電や知事、玄海町の町長に対し意見するでもなく、原発についての考えを述べるでもない。政治家である以上、再稼動問題について自分たちの意見をはっきりと有権者に伝えるべきでしょうが、彼らのホームページを見てもきれい事ばかりで、原発のことにはほとんど触れていない。誰のために議員をやっているのかわからない。腑抜けの税金泥棒ですよ」。

国会議員の責務 
 九州には玄海原発と川内原発(鹿児島県薩摩川内市)のふたつの原子力発電所が存在する。
 原発事故が広範囲な被害をもたらすことが周知の事実となったいま、求められているのは原発立地県である佐賀県と鹿児島県だけではなく、九州全体で原発や九電に対する向き合い方を議論することだ。
 そうした舞台作りをリードできるのは、国会議員ではないのか?

 政治は、利害の調整機能であると同時に、国家や地域社会の未来を守る責任をも担っている。
 国会議員には、その役割を果たすために高額な歳費や種々の特権が与えられており、洞ヶ峠を決め込むことなど許されないはずだ。
 原発や九電問題について発言もできず、与えられた責務さえ果せない政治家なら、まさに「腑抜けの税金泥棒」ということになる。これはもちろん、民主、自民の両党だけでなく、すべての政党の議員に言えることだ。

 九州の国会議員に奮起を促したい。



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