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九電―玄海町 癒着の証明

役場内に派遣の九電社員常駐

2011年10月13日 09:00

 玄海原子力発電所の立地自治体である佐賀県玄海町の役場に、原発事業者である九州電力が社員1名を派遣して常駐させていることが明らかとなった。
 
 九電の社員派遣は、玄海町が建設を進める「次世代エネルギーパーク」の業務支援のためとされ、今年2月に同町に派遣された九電社員は、会社員の身分のまま役場内のデスクで仕事を行っている。

 原発の再稼動問題をめぐって、電力会社と立地自治体との関係に厳しい視線が注がれるなか、九電と玄海町による"癒着"と見られてもおかしくない事実だ。


九電社員が役場に常駐
  gennpatu 500.jpg玄海町側の説明によれば、同町が九電に派遣要請を行ない、今年2月から社員1名が役場内で職務を行なうようになったという。(写真は玄海町役場)

 九電社員には同町財政企画課にデスクを与え、「次世代エネルギーパーク」に関する業務のうち主として九電との連絡調整を行なわせているとしているが、常駐させる必要があるのか疑問だ。

 玄海町が九電に社員派遣を要請した理由として挙げたのは、「次世代エネルギーパーク」と原発の啓発施設で九電が運営する「玄海エネルギーパーク」が、ともに公園整備を計画しており、同様施設を造ることのないようにするための連絡調整が必要というものである。

 しかし、「次世代エネルギーパーク」計画においては既に実施設計を終えており、図面を照合すれば、類似した事業を回避することはたやすい。役場内に社員を常駐させる必要があるとは思えないのだ。

社員派遣の問題点 
 gennpatu 039.jpg九電広報に確認したところ、赴任した先の業務を行なう場合を「出向」、「派遣」は同社の業務を主として行うケースとして区別しており、給与は九電側の負担であると説明している。

 見方を変えれば、九電による玄海町への便宜供与とも受け取れるが、ことはそれだけにとどまらない。
 
 玄海町トップである岸本英雄町長は、ファミリー企業「岸本組」を使い原発マネー独占を図ってきた人物であり、その実態はHUNTERが報じた「玄海町政『癒着の構造』」、「玄海町・原発マネー還流のカラクリ」をはじめ、多くの新聞報道でも周知のこととなっている。

 言うまでもなく、原発マネーの中には九電発注の工事費が含まれており、岸本町長と九電の関係には疑惑が残されたままなのだ。

 原発立地自治体と電力会社の関係が厳しく問われるなか、なお役場内に九電社員を常駐させることに疑問符がつくのは当然ではないだろうか。

 さらに、玄海原発をめぐっては、プルサーマル発電に関する県主催の討論会で九電側が「仕込み質問」を行なったことや、今年6月に放送された原発説明番組(経済産業省主催)での「やらせメール」が発覚するなど、世論操作の実態が解明されつつある。
 
 九電が暴走した背景には、古川康佐賀県知事の原発擁護の姿勢と、直接的な指示があった可能性が高い。
 
 古川知事が九電と密接な関係にあることは、すでに様々な報道からも明らかとなっているが、岸本玄海町長のケースも同様。原発事業者との近すぎる距離が、原発行政をゆがめている原因となっていることを考えると、ファミリー企業の仕事を通じて九電と関係の深い町長の下に九電社員が張り付いているという状況は、どう見ても不適切だろう。

 九電広報に確認したところ、同社が社員を派遣している市町村は、玄海町だけであることを認めている。つまりは"異例"ということだ。

 原発立地自治体の役場の中に、原発事業者の社員を常駐させることがどれほど世間から不審を招くのか、玄海町も九電も理解していないようだ。

「次世代エネルギーパーク」とは 
 ところで、九電が社員を派遣してまで支援する玄海町の「次世代エネルギーパーク」とは、どのような施設なのだろうか。

 詳細を見ていくと、公式見解とは違う同パークの実相が浮き彫りとなる。「次世代エネルギーパーク」は、九電の「玄海エネルギーパーク」と不可分の施設であり、結果的には原発の啓発に一役買うことになるのだ。

(下が玄海町が公表した次世代エネルギーパークの構想図)

玄海町次世代エネルギーパーク

 玄海町の「次世代エネルギーパーク」計画では、事業費14億8,000万円(町側説明では減額を予定)をかけ、太陽光、風力、水力といった各種発電の紹介や、同町の観光資源となっている"棚田"などを活かした広場、遊具の設置などが予定される。
 
 だが、事業成否の鍵を握るのは、何と言っても前述の「九電・玄海エネルギーパーク」との連携だ。

結局は「原子力の啓発」
 玄海エネルギーパーク 九電の「玄海エネルギーパーク」は、玄海原発の啓発を目的として平成12年に建設されたもので、建物の吹き抜け部分には実物大の原子炉模型を据え、シアターホールや展望ルームなども備えている。
 
 原子炉の構造や玄海原発3号機で実施中のMOX燃料を使ったプルサーマル発電、さらには原子力発電や放射線について、展示物などを使って分かりやすく説明する仕組みだ。
 
 周辺整備も含め99億円が投じられた同パークは、毎月第3月曜日 (第3月曜日が祝祭日の場合はその翌日)と年末年始(12月29日~1月2日)をのぞき、朝9時から夕方5時まで来館者を受け入れており、年間20万人もの人が訪れるという。この施設なくして玄海町の「次世代エネルギーパーク」は成り立たないのだ。

 同町の広報誌では、次世代エネルギーパークについて次のように記されている。

《運営は玄海町が主体的に取り組んでいく予定で、九州電力(株)の玄海エネルギーパークと連携を図りながら、陳腐化しないように取り組んでいきたいと考えています》 

 「次世代エネルギーパーク」が、原発の啓発施設である「玄海エネルギーパーク」の集客力をあてにした施設であることは明らかで、次世代エネルギーの紹介を前面に掲げながらも、じつは原発の必要性や安全性を宣伝することにつながるという寸法だ。
 
 事業を所管する玄海町財政企画課は、「原発に関しては一切扱わない」と強調する。
 しかし、原発啓発施設との連携が必須となっている「次世代エネルギーパーク」が、結果的に原発の啓発という役割を果たすことになるのは誰の目にも明らかなのだ。
 だからこそ、九電は社員を派遣したと考える方が自然だろう。

 「次世代エネルギーパーク」の事業費14億8,000万円のうち、9億5,000万円は佐賀県からの補助だ。原資は国の核燃料サイクル交付金であり、原発マネーであることは間違いない。
 
 同パーク建設予定地の土地造成をめぐっては、すでに岸本町長の実弟が社長を務める「岸本組」が約3,000万円の工事を受注していたことがわかっており、利権絡みのきな臭い噂も絶えない。
 
 電力会社や原発立地自治体に厳しい視線が集まる中、平然と役場内に九電社員を常駐させる玄海町長の姿勢は、とうてい容認できるものではない。



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