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福岡市立中・高校 カウンセリング2万件超の現実
拡がる子ども達を包む闇

2012年10月 1日 09:40

 滋賀県大津市で起きた中学2年生のいじめによる自殺が社会問題となって以来、全国各地の教育現場に、深刻ないじめがはびこっている現状が浮き彫りとなった。
 そうした中、先月には東京都品川区で区立中学1年の男子生徒が自殺。いじめを受けていたことが分かっており、同様の悲劇が繰り返された可能性が高いと見られている。
 学校で何が起きているのか?子どもたちを包む闇の一端を知るため、福岡市内の小・中学校における「スクールカウンセラー」への相談内容とその件数を調べた。

スクールカウンセラー
 スクールカウンセラーとは、不登校やいじめといった問題を抱える子どもや保護者の相談を受け、問題解決を図る目的で学校に配置されるカウンセリングの専門家で、主として臨床心理士がその任にあたっている。

 文部科学省では、平成7年度から、「心の専門家」として臨床心理士などをスクールカウンセラーとして全国に配置し、その活用の在り方について調査研究を実施。同13年度からは全国の中学校に計画的に配置することを目標に「スクールカウンセラー活用事業補助」を開始し、都道府県等がスクールカウンセラーを配置するための経費補助を行っている。

 福岡市では現在、市立中学67校と市立高校4校に計54人のスクールカウンセラーが配置もしくは派遣される態勢が整っており、スクールカウンセラーを配置していない中学校(小呂中、玄海中)には、心の教室相談員を配置するなどして対応している。
 このほか、不登校やいじめなどの問題を多く抱える中学校区には、スクールソーシャルワーカー10名が配置されている。
(注:スクールソーシャルワークとは、社会福祉士、精神保健福祉士の有資格者や教員経験者などが、子どもが抱える様々な問題に対し、福祉的な視点から解決を図る仕組み。スクールソーシャルワーカーは、学校と家庭、あるいは地域との連絡調整を行うほか、児童相談所や自治体、病院などの機関と連携して児童・生徒の環境改善を図る)。

2万件超す中学の相談件数 
 HUNTERが福岡市教育委員会に情報開示を求めたのは、市立の各小・中学校に配置されたスクールカウンセラーに対する大まかな相談内容とその件数である。
 子ども達や保護者からの相談は、「福岡市子ども総合相談センター」や市教委に寄せられる場合もあり、スクールカウンセラーへの相談件数だけで子どもたちを包む闇の広さを捉えることは難しい。
 しかし、教育現場における一番身近な相談窓口であることは確かで、事故報告書の提出などによって顕在化した問題行動の前段階、つまり不登校やいじめの可能性がどの程度存在しているのかを知るための指標にはなる。

 下の文書は、市教委が明らかにしたスクールカウンセラーが受けた相談内容ごとの3年間分(平成21年度から23年度まで)の数字だ。
(注:平成21、22年度で件数が明示していない項目は、その年度まで「その他」に算入していたことによる)

 1は、中学・高校における相談内容ごとの件数をまとめたもので、2が小学校の数字。中学・高校での相談については、相談内容を「不登校」、「いじめ」、「友人関係」、「教員の指導」、「進路問題」、「その他」と区分しているが、小学校は件数が少ないせいか児童からの相談と児童・保護者揃っての相談とに区分しているだけだ。

gennpatu 1864410793.jpg 一目で分かるのが、中学・高校における相談件数の多さで、その数は毎年2万件を超えている。区分ごとの相談件数には、保護者からのものや、同一の相談で複数回に及んだものも含まれているというが、小学校の20倍以上にのぼる数字には驚くばかりだ。
 市立高校が4校に過ぎないことから、中学校における相談の数が多いことは明らかだが、スクールカウンセラーが対応する市立中学は67校、生徒数が約35,000人ほどであることから考えると、子ども達を取り巻く環境の厳しさを思い知らされる。

 今年に入って報じられるいじめによる自殺は、主として中学生に集中しているが、福岡市内の中学における相談件数の多さは、中学3年間がいかに難しい時期であるかを裏付けた形だ。

不登校
 スクールカウンセラーへの相談のうち、もっとも数が多いのは「不登校」に関するものだった。
 市教委が公表している不登校児童・生徒の年毎の推移は、下のグラフのように平成20年度から減少傾向に転じているが、相談件数も同じ傾向を示している。

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 しかし、依然として1,000人近い児童・生徒が不登校となっているのが現実だ。
 その理由には、家庭の問題や学校内でのいじめ、さらには教員との関係といった様々な要因が挙げられるが、問題解決に向けて社会全体の取り組みが求められているのは言うまでもない。
 中学における相談のうち、「家族・家庭生活上の問題」についての相談件数が年ごとに増加しているのは、子ども達の置かれた状況が悪化している証でもあろう。

いじめ
 いじめに対する対応も社会全体の問題だ。先月、福岡市内の市立小・中学校から市教委に提出された「いじめ事故報告書」を検証し、「そこにある“いじめ”」と題して2回にわたって報じた。
 福岡市内におけるいじめは年々増加しており、平成21年度から23年度までに提出された中学校におけるいじめの事故報告数とスクールカウンセラーへの相談件数は次のようになる。

【平成21年】
中学校におけるいじめ・・・28件 スクールカウンセラーへの相談件数303件   
【平成22年】
中学校におけるいじめ・・・45件 スクールカウンセラーへの相談件数234件 
【平成23年】
中学校におけるいじめ・・・56件 スクールカウンセラーへの相談件数359件

 いじめの増加とスクールカウンセラーへの相談件数の推移とは必ずしも一致していないが、平成23年度だけを見ると、いじめの件数も相談件数も増加しており、学校におけるいじめが拡大傾向にあることが分かる。

体罰
 教員の指導に関する相談には、いわゆる体罰事案も含まれていると見られる。
 HUNTERは昨年、福岡市における体罰事案の事故報告書を検証し、教員による子どもたちへの暴力と処分の甘さを指摘する記事を配信した。
 子ども達をめぐっては、いじめや家庭での問題のほか、一部の教員による過剰な体罰が存在することも忘れてはならない。
・「体罰超えた『暴力』に甘い処分
・「問われる『体罰』への甘い処分
・「『体罰』処分決定過程への疑問
・「福岡県教委、『体罰』実態把握せず

虐待
 スクールカウンセラーへの相談のうち、「その他」に含まれる可能性があるのが、「虐待」に関する訴えだ。
 これに関しては、市子ども総合相談センターが受け付けた虐待に関する電話相談件数が公表されいる。20年度188件、20年度188件、21年度211件と増え続け、平成22年度には、虐待相談が377件と前年度から一気に166件も増加していた。
 心理的虐待59件増、身体的虐待63件増、放任虐待41件増という数字は、事態が極めて深刻な状況にあることをうかがわせている。

子どもたちと向き合う社会に!
 いじめ、虐待、体罰・・・。いずれも子どもが他者から受ける被害である。そして、それぞれに関わる事件が起きる度に、マスコミが騒ぎ、社会問題化しては忘れ去られるということを繰り返してきた。

 国内において、いじめによる自殺事件の嚆矢となったのは、昭和61年に起きた東京都中野区のケースだ。20年以上経っても減らない中学生の自殺は、「葬式ごっこ」の標的にされて命を絶った男子生徒の心の叫びを、この国の社会がいまだに受け止めきれていないことを示している。

 福岡市内に配置されたスクールカウンセラーは、わずか54人で年間2万件を超える相談と向き合っている。
 長引くデフレ不況などのせいで社会全体に影がさすなか、教員と相談員だけで子ども達を守るのには限界が来ていると見るべきだろう。
 子ども達を取り巻く社会状況は、大人が作り出したものだ。政治や行政だけではなく、社会全体に責任を持って子どもたちと向き合うことが求められている。



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