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「体罰」処分決定過程への疑問

福岡における教育の現状(3)

2012年1月 6日 10:10

 教員の体罰の中には、明らかに「暴行」と認められるような事案が存在する。しかし、大半が刑事事件としては裁かれず、教育委員会による処分で片付けられているのが現状だ。

 その処分にしても、法令違反の場合に適用される「懲戒」は極めて少なく、内部での戒告や厳重注意程度で済まされており、公務員がいかに守られているかを如実に物語っている。
 
 福岡市教育委員会に情報公開請求して入手した体罰事案に関する一連の文書を見ていくと、処分の決定過程に大きな疑問が生じる。


形骸化した「分限懲戒審議会」
 福岡市の場合、体罰事案が表面化すると、まず各小・中学校から市教委に対し「体罰に関する事故について」と題する事故報告書が提出される。
 事故発生の日時、場所、加害者である教諭の氏名、被害者である子どもの氏名のほか、事故の概要とその後の措置について記したものだ。

 事故報告書の提出を受けた市教委は、教職員課の中で事故の概要、事実関係の調査を行ない、どの程度の処分が妥当かという「処置方針」について協議し、書類にまとめて「福岡市教育委員会分限懲戒審議会」に諮問する。
 審議会では、教職員課が作成した書類に沿って会議を行ない、最終的な処分を決めるのだが、この分限懲戒審議会の運営方法に第一の問題がある。

 審議会は年度ごとに人選される形になっているが、その構成は教育次長、市教委総務部長、理事、学校経営部長、教育支援部長、指導部長、教育センター長となっており、異動によりメンバーが変わっても、これらの職にあるものが自動的に委員になるシステムだ。
 市教委側も「充て職」という言葉をもって説明しており、審議会の存在そのものが形骸化していることをうかがわせる。

 形骸化を示すひとつの例として、昨日報じた小学校における体罰事案に次のようなケースがあった。
《児童Aの左頬を右手の平で1回、右頬を左手の平で1回、計2回叩いた。児童Aは、左耳の鼓膜に3mm程度の穴、右耳の鼓膜に1mm程度の小さな穴が空くという怪我を負った》。
 この体罰教員は、なぜか懲戒にはならず「文書戒告」で済まされているのだが、教職員課内部の文書しか残っておらず、処分決定のための分限懲戒審議会が開かれた形跡がない。審議会に諮らず処分が決められたということになる。
 まさに「お手盛り」だ。
 
処分は分限懲戒審議会の前に決まる
 gennpatu 900.jpg次に問題点を挙げるなら、前述のように分限懲戒審議会の前段階、つまり教職員課の協議の段階で事実上処分内容が決まることだ。

 諮問に付すため教職員課が作成した体罰事案に関する書類には、右のように初めから処分を記入するスペースがあり(HUNTER編集部による赤いアンダーライン部分)、文書に従って分限懲戒審議会の議事が進められていけば、おのずと処分は規定方針通りになるという寸法なのだ。
 
 市教委側は、教職員課が妥当とした処分案が、分限懲戒審議会で変わることもあるというが、情報公開請求で入手していた31件分の文書からはそうした事例は見当たらなかった。

 さらに、教職員課の協議内容について議事録やメモの存在を確認したが、市教委側は口頭で協議をしたため文書は残っていないと言う。
 市教委側は、体罰に対する処分は一定の基準に従って決められるから問題はないとしているが、体罰を行なった教員も、学校も、被害を受けた子どもも事案ごとにまったく違うはずだ。型にはめて処分を行なうことには異議を唱えておきたい。

甘い処分が次の体罰を招く
 昨日報じたように、市教委が定めた「福岡市教育委員会職員懲戒処分の指針」によれば、懲戒処分について次のように規定している。
・「児童、生徒又は幼児(以下「児童等」という)に体罰を行なった教育職員は減給または戒告とする」
・「児童等に体罰を行ない、当該児童等を負傷させた教育職員は、停職、減給又は戒告とする」
・「児童等に体罰を行ない、当該児童等を死亡させ、又は重大な後遺症が遺る負傷を負わせた教育職員は、免職又は停職とする」

 これによれば、体罰を行ない「事故」として市教委に報告書が提出されたケースは、自動的に懲戒処分を受けることになるはずだが、指針ではその後に「逃げ道」を用意している。
 体罰の様態や負傷の程度、過去の体罰歴、教育上の配慮の状況などを考慮して処分内容を決めるというもので、情状酌量の条件を列挙しているのである。
 当然、事案によって情状部分の記載内容は変わるが、右上の文書のようにすべての体罰事案に関しその部分は黒塗り非開示にされており、なぜ懲戒処分ではなかったのかについては分からない。

 明らかに暴行事件と思われるものを「文書戒告」程度で済ましておきながら、その理由が開示されないのだ。これでは子どもの人権を守っているのではなく、暴力教師の将来を守るためと言われてもおかしくあるまい。
 公務員の法令違反を問うている以上、なぜ懲戒になったのか、あるいは懲戒に及ばずという判断になったのかを明確に示した上で、処分の妥当性が確認できるように情報開示を進めるべきではないか。
 お手盛りの甘い処分が次の体罰を招来する可能性は否定できないのだ。

 その証拠に、体罰事案として事故報告がなされた31件のうち懲戒処分となったのは8件なのだが、この中には過去に体罰で文書戒告処分を受けた教員や、校長から体罰を注意されていた教員も含まれている。
 1度目の体罰を軽い処分で済ませたため2度目を招いた可能性が高いということになる。

 福岡市に限らず、教育委員会の情報開示への姿勢は消極的である。教育現場がいじめや体罰などの不祥事を隠すと言う体質は今に始まったことではないが、明らかに公務員の暴力行為と見られる事例は積極的に公表し、次の被害を出させないようにすることも肝要だろう。
 
 一連の文書を見ていて気になったのは、体罰を行なった教員が、校長などの管理職に対する報告が遅れるケースが少なからずあることだ。

 家族からの連絡や、体罰の場面を見ていた他の子どもによる訴えなど、体罰が表面化して報告する教員がいることには驚くばかりだが、これは埋もれてしまった体罰が存在することも示唆している。



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