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体罰超えた「暴力」に甘い処分
   
福岡市における教育の現状(1)

 

2011年6月29日 09:40

 殴る、蹴る、頭突きとくれば暴力団抗争かと思われそうだが、残念ながらこうした言葉が並ぶのは、福岡市内の小・中学校が市教育委員会に提出した「体罰」に関する事故報告書である。
 いじめ、不登校、校内暴力、体罰、モンスターペアレントと教育現場をめぐる問題は尽きることがない。
 時代の変遷とともに子どもを取り巻く状況が変わっていくのは当然だが、いずれの時代にあっても教育現場で重要なのは「教員の質」だ。
 あたりまえのことだが、教員の質が高ければ教育は充実し、低ければその反対の結果を招来する。子ども達は、学校生活を通じて知識を吸収し、友情や集団社会のあり方を学び、成長する。家庭と塾だけで人間としての基礎が作り上げられるものではなく、小・中学校の果すべき役割は大きい。子ども達と向き合うことになる教員の質は、だからこそ大切なのだ。
 その教員の質を測る上で、ひとつの"ものさし"になるのが「体罰」の内容である。体罰に厳しい世の中になって久しいが、教育現場での体罰の内容は大きく変わっているようだ。
 児童・生徒の頭を"こつん"とやることまで禁じるような「いかなる体罰も許されない」とする考え方には不同意だが、教員による度を越えた「暴力」は厳しく処断されるべきだ。
 残念ながら、福岡市の小・中学校では冒頭で紹介したような歴然とした「暴力行為」が少なくない。
 
 福岡市教育委員会に情報開示請求して入手した公文書を通じて、教育現場の実態と問題点について報じていく。
(注:以下の文書、黒塗り部分は市教委、赤いラインは編集部)

ケース1「頭突きで鼻骨骨折」
体育館の入り口付近にAを連れ出し、指導の際Aに頭突きを1回、ほほを4~5回たたくなどの体罰を行い、Aの鼻骨を骨折させたもの》。gennpatu 62764.jpg
 この記述は、平成21年に福岡市内の中学校で起きた体罰事案についての事故報告書の記述だが、加害者とされるのは29歳の常勤講師である。
 
 教育委員会側が開示請求に応じた文書は、事故報告書やその後の関連文書にいたるまで黒塗り非開示の部分が大半で、細かい状況が伏せられてはいるが、断片的な記述から事実関係をたどると、常勤講師が指導に従わない生徒の胸ぐらを掴んで体育館の外に連れ出し、壁に押し付けて頭突き、平手打ちに及んだのだという。
 教育的指導とは無縁の行為であることは間違いないが、問題はその後の展開だ。

「暴力」に甘い処分
 事故報告が出された平成21年6月9日から1か月以上経った7月28日、市教委教職員課で本件処分についての「福岡市教育委員会職員分限懲戒委員会」に対する諮問案が作成され、決済される。この段階では正式な処分は決定に至っていない。
 諮問を受けた「福岡市教育委員会職員分限懲戒委員会」が審議(7月29日)し、処分案を決議、再度教育長の決済を待って正式処分となるのだ。
 このケースにおいて、分限懲戒委員会では、暴力をふるい生徒に鼻骨骨折のけがを負わせた講師に「文書訓告」という"軽い処分"を下していた。gennpatu 62765.jpg
 
 一般社会では、明らかに刑法犯(暴行・傷害)として逮捕、起訴されてもおかしくない事案でありながら、「文書訓告」で済まされているのである。
 「文書訓告」とは、地方公務員法に規定された戒告、減給、停職又は免職といった「懲戒」とは違い、部内での比較的軽い処分と言わざるを得ない。
 「懲戒」とはつまり法律違反であることを意味しており、「文書戒告」などの部内処分とはまったく意味合いが違うのだ(懲戒などの処分についての問題は、シリーズのなかで詳述したい)。
 生徒の鼻を骨折させておいて、部内処分で済ませる体質は、明らかに問題がある。

 また、このケースについての一連の文書からは、学校側による教育委員会への報告が遅れたことや、骨折が判明してからの対応の変化などが読み取れる。
 「個人情報保護」や親との信頼関係を盾に、肝心の部分を黒塗り・非開示とする教委の姿勢に問題があることは言うまでもない。
 個別に検証しながら、「体罰」から見える教育現場の現状を探っていく。

gennpatu 62762.jpg

〈つづく〉



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