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問われる「体罰」への甘い処分

福岡における教育の現状(2)

2012年1月 5日 09:35

 「胸倉を掴んで、頭突き、平手打ちの末に鼻骨骨折」。明らかな暴行だが、これが教育現場における体罰となると刑事事件どころか懲戒処分にさえならず、「文書訓告」で終わりだという。大人の社会では、社会的に許されることのないケースでありながら、教員だけがこの程度の軽い処分で済むのはなぜか?
 昨年報じた平成21年に福岡市内の中学校で起きた体罰事案では、教育委員会内部で処分決定に際して作成された文書に「なぜ」に対する答えを見つけることができない。
 市教委への情報開示請求で入手した文書は、肝心の部分が黒塗り非開示とされているからだ。
 教育現場で起きたことは、いじめにしても暴力沙汰にしても、表に出ることが少ない。体面、保身、そうした大人の都合が教育を歪めているのではないだろうか。

「暴行」に甘い処分
 体罰などの非違行為を行なった教員に対しては、地方公務員法に規定された戒告、減給、停職又は免職といった「懲戒」のほか、内規で定められた文書訓告、口頭訓告、厳重注意、注意などの処分がある。冒頭で紹介した「文書訓告」は部内での比較的軽い処分と言わざるを得ない。
 
 市教委が公表しているのは「懲戒」になった体罰事案だけで、それ以下の処分の内容については、情報公開請求しなければ確認できない。
 
 次に紹介する事例は、平成21年、22年に起きた、福岡市内の中学における体罰に関する事故報告書の記述と、体罰を行なった教員に下された処分である。

ケース1《左ほほを足で押し倒し、立ち上がったBに対し、右の平手で頭を2回叩くなどの体罰をおこなった》(中学校。平成21年)。→ 文書訓告

ケース2《態度が横柄であるとして、生徒Aに頭突きを1回した上、胸ぐらを掴み、背中から落ちるように投げるつもりで生徒Aに足払いをしたところ、生徒Aが頭から床に落ちる形となった。これにより、生徒Aは左眉並及び左頬周辺に打撲傷及び擦過傷を負った》(中学校。平成21年)→ 文書訓告

ケース3《生徒Aの頭を平手で5~6回叩き、脇腹付近を1回払うように蹴った》(中学校。平成21年)→ 文書訓告

ケース4《児童Aの左頬を右手の平で1回、右頬を左手の平で1回、計2回叩いた。児童Aは、左耳の鼓膜に3mm程度の穴、右耳の鼓膜に1mm程度の小さな穴が空くという怪我を負った》(小学校。平成21年)→ 文書訓告 

ケース5《生徒Aを廊下に出し、生徒Aの頭部を右手の平で3回叩き、髪を掴み、右膝で太ももを2回蹴って生徒Aを壁に押し付けた》(中学校。平成21年)→ 口頭訓告

ケース6《生徒Aの左頬を右平手で1回叩き、生徒Bの胸を1回押した。その後、中略、生徒Aの臀部を左足首辺りで1回蹴り、生徒Bの頭を左手で1回叩いた》(中学校。平成22年)→ 文書訓告
 
 いずれも情報公開請求で入手した31件の体罰に関する文書のうち、昨年報じたケース同様、体罰の域を超えているのではないかと思われる事例だ。
 すべて懲戒になることなく、軽い処分で終わっている。

「蹴り」が体罰か!
 特徴的なのはここに紹介した事例だけでなく、体罰で問題になった教員の多くが「蹴り」、つまり足を使った暴力に及んでいることである。

 記者の周辺だけでなく、広範囲に話を聞いてみたが、30代、40代、50代といった世代には、先生から拳骨を受けた記憶はあっても、足で蹴られたという記憶はほとんどないという。
 
 凶暴になったのか幼稚なのか、あるいはその両方なのか分からないが、《左ほほを足で押し倒し》、《頭突き》、《鼓膜に3mm程度の穴》、《髪を掴み、右膝で太ももを2回蹴って》などという記述からは、体罰ではなく「暴行」の一語しか浮かんでこない。
 第一、自分より幼い子どもを足で蹴るという行為は、人間として許されるものではないだろう。
 この教員たちが、なぜ懲戒ではなく、軽い部内の処分で済ませられるのだろう。

「免職」は死亡時か重大な後遺症のケースだけ
 市教委が定めた「福岡市教育委員会職員懲戒処分の指針」によれば、懲戒処分に当たるのは次のような場合なのだという。
・「児童、生徒又は幼児(以下「児童等」という)に体罰を行なった教育職員は減給または戒告とする」
・「児童等に体罰を行ない、当該児童等を負傷させた教育職員は、停職、減給又は戒告とする」
・「児童等に体罰を行ない、当該児童等を死亡させ、又は重大な後遺症が遺る負傷を負わせた教育職員は、免職又は停職とする」
 
 驚いたことに、こと体罰に関しては、子どもを死亡させるか重大な後遺症が残るような負傷を負わせた場合にしか「クビ」にならないのである。

 さらに、懲戒処分相当の体罰を行なったケースでも、体罰の様態や負傷の程度、過去の体罰暦、教育上の配慮の状況などを考慮して処分内容を決めると記されている。
 教員が子どもにケガを負わせても、心に傷を残そうとも、教育委員会側が情状酌量の余地を認めれば懲戒にはならないということになる。

同様事例で処分に差
 分かりやすいのが《児童Aの左頬を右手の平で1回、右頬を左手の平で1回、計2回叩いた。児童Aは、左耳の鼓膜に3mm程度の穴、右耳の鼓膜に1mm程度の小さな穴が空くという怪我を負った》として文書戒告で済まされたケース4の教員への処遇だ。
 これは明らかに懲戒処分に該当するはずだが、なぜか文書戒告にとどまっている。

処置方針 これに対し、平成22年に市内の中学校から市教委に次のような体罰事案が報告される。
《生徒Aの机を蹴って倒し、紙製のファイルで生徒Aの右側頭部を1回叩き、さらに左平手で生徒Aの右側頭部を2回(1回はかする程度)叩いた。生徒Aは、右耳の鼓膜を損傷する怪我を負った》。
 この教員に対して、福岡市教育委員会職員分限懲戒委員会が下したのは懲戒の中の「戒告」である。

 ケース4は、小学生に対する暴力であるうえ、両耳の鼓膜に穴を空けている。にもかかわらず、この教員には懲戒処分が下されていない。
 開示された分限懲戒委員会における議事録などからは、ふたつのケースで処分が違った理由はまるで見えてこない。 

 それぞれのケースにおける「量定決定に当たって考慮する点」が黒塗りにされているからだ(右の文書参照)。
 暴力事件と言っても過言ではない事例で、処分の軽重を左右した理由を隠すことが妥当と言えるだろうか。
 
 そもそも、分限懲戒委員会で処分を決めるまでにどのような経過をたどるのか、改めて確認すると「お手盛り」に近い状況が浮かび上がる。

つづく



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