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リコール回避狙う伊藤鹿児島知事の許されぬ政治姿勢

2013年8月26日 09:30

鹿児島県庁 独裁知事が、リコール(解職請求)の回避に向けて必死となっている。
 鹿児島県の伊藤祐一郎知事は23日、定例会見で、公費を使った上海研修事業とウォーターフロント地区での体育施設建設構想を見直すと表明した。
 いずれも県民の猛反発を呼び、予定されるリコール運動の原因となった施策。批判対象を取り除き、リコール運動の腰を折ろうという知事側の戦略とみられる。姑息と言うしかないが、伊藤知事による利権と結びついた税金のムダ遣いはこれだけではなく、問われるべきはその政治姿勢だ。
 改めて、知事が推し進めてきた薩摩川内市の産業廃棄物最終処分場「エコパークかごしま」と、鹿児島市松陽台の県営住宅建設計画の問題点を再掲しておきたい。二つの事案は、伊藤独裁県政の象徴でもあるからだ。
(写真手前が県議会棟、中心に県庁、その奥に県警と並ぶ)

公費100億円超 薩摩川内の悲劇
エコパーク建設現場 エコパークかごしまの事業主体は「鹿児島県環境整備公社」。県の外郭団体だが、理事長は副知事、職員の大半は県からの出向だ。処分場建設は、事実上県が行っているのである(写真はエコパークの建設現場)。

 県内に最終処分場が一箇所もないという大義名分を掲げて強行されたこの事業、スタート時点から疑惑まみれだった。
 用地決定の過程は不透明極まりない。県内29箇所の対象地については、満足な調査が行われておらず、知事の指示で薩摩川内市川永野の一箇所に絞っていたことが明らかになっている。

高野山真言宗「冠嶽山鎭國寺頂峯院」から見た冠嶽山頂 処分場建設が進められているのは、霊峰「冠嶽」の裾野。薩摩藩以来、信仰の対象となってきた山の一角を、産廃で汚そうという計画なのだ(写真は高野山真言宗「冠嶽山鎭國寺頂峯院」から見た冠嶽山頂)。
 特別にこの地が最終処分場に適していたわけではなく、むしろ不適。冠嶽は、近隣の水源になってきたほど湧水が豊富で、後々深刻な被害をもたらす可能性が指摘されている。

 そんな場所になぜ産廃処分場を造るのか―背景にあるのは植村組と県の癒着だ。処分場用地は、地場ゼネコン「植村組」のグループ企業「ガイアテック」が所有する採石場跡地。HUNTERの取材で、植村組グループが早い時期にこの場所で処分場建設を計画し、資金難から断念していたことが明らかとなっている。県はこの計画を受け継いだだけ。着工前の住民説明会でも、植村組グループによる地質調査結果を使用していた。
 県側も、植村組グループが県に土地の売り込みを行っていたことを認めており、「植村組ありき」だったことは明白。知事が他の場所を見向きもしなったのは、その必要がなかったからなのである。癒着以外のなにものでもない。

植村組 県がガイアテックに支払った土地代は5億円。ほとんどが砕石プラントへの補償となっている。多額の負債に苦しんでいた植村組は、二束三文の土地を5億円で売ったも同然だ。その上、77億7,000万円にのぼる建設工事は、同社が参加した特定建設工事共同企業体(JV:「大成・植村・田島・クボタ」)が受注している。何をかいわんやである。

 処分場をめぐっては、豊富な湧水の影響で工事が難航、今年になって追加工事を18億7,920万円も積み上げ、総工費は96億4,920万円にまで膨らんでいる。設計ミスの原因は、前述した湧水と事前調査の不足。この責任は伊藤知事にあるはずだが、彼は県民に対して謝罪さえしていない。

 処分場における最大の問題は、事業試算の杜撰さだ。コンサル業者が作成した処分場の事業収支は、産廃1トンあたりの処分料を他の処分場より極端に高く設定しており、産廃業界の実情はまったく反映されていない。
 九州における産廃処分料の相場をはるかに上回る「1トンあたり1万7,000円」という料金設定でも、事業としては成り立たないことが明かされているのだ。高額な処分料を嫌う建設業者は、おそらくエコパークを利用しない。その先にあるのは“経営破たん”。建設ありきでことを進めたツケが県民に回されるのは必至の状況となっている。工事費が20億円近く増えているのだから、県民の負担はより大きなものとなるはずだ。(参照記事⇒「破綻必至! 薩摩川内100億円産廃処分場の虚構」)

誰も望まぬ松陽台の県営住宅増設
ガーデンヒルズ松陽台 鹿児島市松陽台町の県営住宅建設計画は、平成15年から鹿児島県住宅供給公社が販売している分譲住宅地「ガーデンヒルズ松陽台」の土地を鹿児島県が取得し、新たに県営住宅330戸を建設するというものだ。

 もともと、約11haの予定地に戸建用地470区画を販売する計画だったが、170区画程度(平成23年2月までの実績)を売却したところで、県が方針を大きく変える。
 ガーデンヒルズ松陽台で最大の面積を占める戸建用区画約5.6 haを、すべて「県営住宅」にすると伊藤祐一郎知事が発表したのだ。
 周辺環境が激変することなどを憂慮した松陽台町の住民は、県営住宅増設を白紙に戻すよう運動を続けてきた。しかし、県や鹿児島市はこうした声を無視して強引に計画を進めてきたという経緯がある。

 県営住宅建設は県の単独事業だ。HUNTERは今年2月、松陽台における県営住宅増設が事業として成り立つのかどうかを確認するため、鹿児島県に対し、県営住宅建設にともなう収支の試算に関する文書を情報公開請求した。結果は不存在。県建築課住宅政策室に確認を求めたところ、事業収支の試算は一切行っていないと明言している(⇒「鹿児島・県営住宅増設 なかった事業収支の試算」)。

 土地取得費が明確になっているだけで、総事業費や維持費、さらには賃料の予測さえ存在しないという。つまりは、赤字になるのか黒字になるのかまるで分からないまま、計画だけが進んでいるということになる。これほど無責任な施策は聞いたことがない。

 松陽台に県営住宅を建設することを待ち望む声は皆無だ。既存の県営住宅は鹿児島市の中心部近くにあり、市街地まで2駅の松陽台に引っ越すことを希望する入居者は少ない。松陽台では、戸建住宅はもちろん、公営住宅の住民までが計画に反対している。

 ガーデンヒルズ松陽台で売れ残りそうな土地を税金で購入し、経営が苦しい県住宅供給公社の救済を図ることが目的の事業に、賛同する県民などいるはずがない。県営住宅建設を待ち望んでいるのは、建設業者だけなのだ。
 結果、入居者不足で収支が合わず、ここでも事業失敗のツケが県民に回されることになる。

問われる経営感覚
 薩摩川内の処分場、そして松陽台の県営住宅。いずれも事業収支の見通しも立てないまま、巨額な公費を投入するというお粗末な施策だ。民間企業なら、到底認められる計画ではあるまい。

 伊藤県政の特徴は、公共事業であることを盾に、収支を度外視して強引に事業を進めるところにある。上海研修や体育施設建設も、まったく同じ思考の上に成り立っていることが分かるだろう。経営感覚の欠如した首長には、辞めてもらうしかあるまい。県民は納税者ではあるが、狂った知事の尻拭い役ではない。

許されぬ「県民無視」の姿勢
 薩摩川内と松陽台、さらには上海研修に体育施設。すべてに共通していることがもうひとつある。いずれの事案でも「県民の声」が黙殺されてきたという事実だ。

 松陽台町の陳情は無視。薩摩川内市の処分場周辺の住民に対しては、県庁職員を動員して数の力で弾圧を加えるという暴挙に及んでいる。
 HUNTERは、薩摩川内の惨状を初めて伝えた平成23年の配信記事(⇒「鹿児島・少数意見圧殺の狂った県政」)で、次のように記した。「少数意見を圧殺する政治や行政の下で民主主義が熟成することはない」。

 それから約2年。状況はより悪化した。昨年の知事選を挟んで、3期目となった伊藤県政は、より独裁の色を濃くしている。県議会は無力。民主主義が機能していないと言っても過言ではない状態だ。もはや歪んだ県政を正せるのは県民のみとなった。

 24日、知事のリコールを求める市民団体「県知事リコール組ネバーギブアップ」が、鹿児島市名山町に署名活動の拠点となるテントを開いた。
 来月20日には、知事が回避したかった「リコール」に向けての署名集めが開始される予定だ。



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