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僭越ながら:論

子育て世代との面会拒否 福岡市長につける薬は?
― 問われる「カワイイ区」との整合性 ―

2013年6月24日 10:50

 昔から「馬鹿につける薬はない」というが、福岡市長につける薬は見つかるのだろうか。
 商業施設を優先するため、同じ場所に併設されていた児童会館と保育園を分離して整備することを決めた高島宗一郎福岡市長。唐突な方針転換を受けて、市が新たに保育園移転用地として約9億円をかけて買収した土地は、ラブホテルやパチンコ店が立ち並ぶ風俗街の一角だった。
 移転地選定の過程に疑惑が浮上する中、市長はすべての説明責任を市職員に押し付け、在園児保護者らの面会要請を拒否した。芸能人と会うことは大好きだが、子育て世代と会う必要などないと思っているのだろう。
 高島市長の会見での発言を検証し、それが整合性のない幼稚な主張であることを明らかにしておきたい。
(写真は「中央保育園」の移転用地)

幼稚な言い訳
 今月18日、市内中央区にある中央保育園(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転計画撤回を訴える同園の保護者会が、高島市長に面会要請を行った。これに対し市長は、翌日の定例会見で面会拒否を表明、直接市長に会って心情を訴えたいとする保護者らの行動を、「フェアではない」とまで罵倒した。さらに、風俗街に保育園を建設することになった経緯について、屁理屈を並べ立て、自己弁護に終始している。市長の言い分を要約すると、次のようなものとなる。

  • 福岡市には約700人の待機児童がいる。
  • 天神地区での保育ニーズは高い。
  • 都心で働くお母さんを、しっかりと応援するための保育所を造りたい。
  • ニーズに応えるため、現在150人となっている中央保育園の定員を300人とするが、そのためには広い土地が必要。
  • 他に適地を見つけるのは困難だった。
  • 100点満点の場所を見つけるのは無理。
  • ラブホテル街での立地について、国や専門家が「風営法の趣旨に反しており常識では考えられないと指摘している」と報じた西日本新聞の記事は誤報。
  • 保育園整備の適否は、地方自治体が総合的に判断するものであるとした国の見解を文書でもらっている。ラブホテル街に保育園を整備することは違法ではない。
  • 他の都市にも風俗店近くに保育所、という同様のケースがある。
  • 風営法の趣旨に反するかどうかは分からない。

 追って詳細を報じていくが、ずいぶん幼稚な言い訳である。改めて整理しておくが、待機児童解消の必要性があることは、社会の共通認識だ。天神地区で保育ニーズが高いことも理解できる。しかし、それを盾に不正な土地取引やパチンコ店への便宜供与が認められるとは思えない(詳細は⇒「福岡市・保育園用地取得に重大疑惑 ― 土地選定は出来レース 」、「福岡市 保育園移転がらみでパチンコ店に便宜供与?」 )。
 19日の会見では、不動産取得の不透明さについての質問がなかったため救われた形となった。だが、これから高島氏が背負うのは、不動産業者やパチンコ店との癒着疑惑である。論点をずらして逃げを打つつもりだろうが、早晩それが難しくなることを予告しておきたい。

風営法について
 論点ずらしについては、もうひとつ述べておきたいことがある。高島氏は、ラブホテル街に保育園を造ることについて、「何が悪い」と開き直っている。しかし、これはとんでもない間違いだ。
 たしかに風俗街に保育園をつくることを禁じる法律はないが、保育園の近くで風俗営業を禁止する法律があるのは確か。幼稚な市長がこれ以上勘違いしないように、風営法について説明しておきたい。

 風営法(「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」)の第1条には、次のように謳っている。
《この法律は、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について、営業時間、営業区域等を制限し、及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに、風俗営業の健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的とする》

 風営法及び都道府県の条例が、ラブホテルやパチンコ店などの風俗営業を規制するにあたって、学校や病院、保育所などを「保護対象施設」と定めているのは、この目的を達成するためだ。

 ラブホテルの営業禁止区域については、「店舗型性風俗特殊営業の禁止区域等」の条文で、次のように規定している(用語の説明は省略)。
《店舗型性風俗特殊営業は、一団地の官公庁施設、学校、図書館若しくは児童福祉施設又はその他の施設でその周辺における善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する必要のあるものとして都道府県の条例で定めるものの敷地の周囲200メートルの区域内においては、これを営んではならない》。

 パチンコ店については、次の条文によって立地規制を受ける。
《公安委員会は、前条第一項の許可の申請に係る営業所につき次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、許可をしてはならない。

~ 中 略 ~

 営業所が、良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき》。

中央保育園地図と風俗店の位置関係 そして福岡県の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例」は、パチンコ店の出店について、保護対象施設の敷地から50メートル以内での許可を禁じている。

 中央保育園の移転予定地と各風俗店の位置関係については、右の図を見れば十分だろう(ピンク色は風俗店)。この意味が分からないというのであれば、即刻市長を辞めるべきである。待機児童解消を盾にした―いわば子どもの命を犠牲にしたゴネ得が許されるほど、世の中は甘くない。行政の脱法行為がまかり通れば、国の根幹が崩れるということを、市長はしっかりと認識すべきだろう。

危険な兆候
 高島市長が打ち出した来年4月時点での待機児童解消策の中心に、中央保育園の移転にともなう大幅な定員増があったのは言うまでもない。150人も定員を増やすのである。移転計画が延期されたことで、待機児童解消が困難になることは当然となるが、市側や一部のメディアは、この事態を移転反対を訴えてきた保護者らの責任にしようとしているフシがある。危険な兆候は、市長の発言やその後の一部報道で顕著となっている。

 高島市長は会見の中で、もともと児童会館と保育園を合築する方針であったのを、平成23年になって突然分離整備へと転換した理由について一切言及せず、保護者会側に混乱の責任を押し付ける姿勢を鮮明にしている。

  • 「新しく中央保育園に(子どもを)入所させたいが、もう造れなくなるのか」と心配して区役所を訪れたお母さんもいる
  • 「反対の方の意見に、完成を待っている人の意見がかき消されている」という声も寄せられている。
  • ラブホテル街であることを強調する報道で、地域が差別されており、傷ついている人もいる。

 一連の発言は、明らかに中央保育園の保護者会をはじめ、移転に反対する市民の声を牽制するためのものだろう。しかし、混乱を招いたのは、合築を止め商業施設誘致を優先した高島氏本人なのである。そのことを棚に上げ、保護者会側を悪者に仕立てる発言は、卑怯というものだ。

 市長は、「保育のニーズがある」、「早く保育園建設をといった声がある」と言う。たしかにあるだろう。しかし、そうした声が求めているのは、ラブホテル街での保育園建設ではあるまい。多くの市民が望むのは、子育て環境に適した場所での施設整備であり、子どもの命を守れる適正な定員数で運営される保育園なのだ。敷地の両端を、5メートル前後の一方通行道路で挟まれた場所に、0~5歳の児童を300人も押し込んで、安全が保障されるはずがない。

ここからが本論―相反する市長発言とカワイイ区との経緯
 ずいぶん前置きが長くなったが、ここからが本論である。会見における市長発言の中で、もっとも身勝手で、市民を愚弄しているとしか思えないのは、市長が中央保育園の保護者から出された面会要請を拒否した理由である。高島氏は、こう言っている。

  • 何かに反対しているので、面会して欲しいという人たちは今回に限らずたくさんいる。どう答えていくかは原局(事業の所管局)がやること。
  • マスコミで報道されたとか、声が大きいから、この人だけ飛び抜かして、私に直接会うというような場を設定することはフェアではない
  • 私が、ある一部分の話だけを聞いて、その時の感情・感覚、聞いた印象で何かを判断するというのでは、責任を持った回答ができない。今回の件に限らず、すべての件で同じ。
  • 手続きを踏んで来い。

 さて、福岡市は昨年8月、AKB48の篠田麻里子氏を初代区長に起用し、公費1,000万円をかけて「カワイイ区」という仮想行政区をスタートさせた。この時の経緯を振り返ってみたい。

 市側の説明によれば、平成24年に入って突然篠田氏側から市秘書課に、「高島市長に会いたい」という連絡があり、3月の日曜日に市役所内での会談が実現したという。高島市長と篠田氏の会話は弾み、福岡をファッションで盛り上げたいという話題から「カワイイ区」の実現が提案されたというが、公表されている通り、提案したのは篠田氏。そして、この後のカワイイ区をめぐる騒ぎについては、詳しく説明する必要もなかろう(参照記事⇒「AKB48の尻馬に乗ったタレント市長の愚行」)

 人気タレントには即座に会うが、多くの市民に支えられている保育園の保護者には会わないということだ。これは「アンフェア」ではないのか。さらに言うなら、AKBの尻馬にのってカワイイ区を始めたことは、市長自身が否定した『ある一部分の話だけを聞いて、その時の感情・感覚、聞いた印象で何かを判断した』ということに他なるまい。前述した高島市長の会見での言い訳とこのカワイイ区をめぐる経緯には、まったく整合性がない。市長発言は、ただの逃げ口上、しかも市民を見下した最低の部類に属する言い訳であることが分かる。

 タレント市長は、派手なパフォーマンスや芸能人との共演にはことのほか熱心である。一方で、面会して話を聞いてもらいたいという切実な願いを持つ、多くの子育て世代の市民には会わないという。市民と会うことを「フェアではない」とまで言っている。

 はてさて、この市長につける薬はないと思うのは、筆者だけだろうか・・・・。 



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