先週、日本経済新聞社が、英国の有力経済紙フィナンシャル・タイムズを発行するフィナンシャル・タイムズ・グループを買収すると発表した。
背景にあるのはデジタル端末の急速な普及。インターネット上で必要なニュースだけを検索する人が増える一方で、新聞各紙の購読者が減るといった状況がある。ネットを軸にした情報発信への転換を迫られるメディア界の動きは顕著だが、こうした時代の流れに真っ向から逆らおうという政治家がいる。
福岡市の高島宗一郎市長が、自らが原告となった裁判の法廷で、「インターネットのニュースは黙殺してきた」と証言。ICT利活用という自らの施策を否定する形となっている。
法廷で明言
問題の発言は、今月17日に開かれた民事訴訟の法廷で飛び出した。裁判は、HUNTERが報じた市長の疑惑を、自社の新聞に転載・配布した地元メディア「データ・マックス」に対し、市長が名誉棄損にあたるとして損害賠償を求めたもの。代理人弁護士から訴訟を起こした理由を問われた市長は、新聞発行が40万部にのぼったことを挙げ、「インターネットのニュースは黙殺してきた」と明言した。紙媒体以外の報道は眼中にないとの姿勢だが、これは自らの施策を否定したに等しい。
ネット活用促進の矛盾
2013年5月19日付の市長のブログには、「福岡市のLINE友達1万人突破」と題して次のような一文が綴られている。
福岡市LINE@の友だちの数が自治体として初めて1万人を突破しました!このアカウントでは、市政情報や観光情報、PM2.5の予報など、みなさんに役立つ情報と思われる情報を発信しています。
先日は人口150万人突破の報告をしましたが、ソーシャルメディアの分野でも福岡市は成長し続けています!
私は、これからは自治体も発信力を高めていくことが大切だと思い、いろんな場所で私自身がプレゼンをするのはもちろんのこと、様々なソーシャルメディアの活用も進めてきました。
twitterをはじめ、政令指定都市として初めてgoogle+ページ、tumblr、pinterest、フォト蔵、intely、ニコニコチャンネル、LINE@の公式アカウントの運用開始。
市の様々なfacebookページを含めたソーシャルメディア全体では、6万を超えるフォロワーを獲得、そのフォロワーの数はなお増え続けています。
では、なぜ、福岡市のソーシャルメディアは成長し続けているのか?
そして、福岡市LINE@アカウントは、自治体として初めて1万人の友だちを獲得出来たのか?
それは、行政の発信力を高め、より多くの人に伝えるために、時期を逃さず、直接新鮮な情報を届けようと、チャンネルを増やしてきたからだと思います。
(中略)
今後も、ソーシャルメディアやそれ以外のメディアも活用し、行政の新たな情報発信の姿を目指して、チャレンジを続けて行きます!過去のやり方にとらわれず、社会の変化に対応していく力こそ、若い市長の強みと思うから!
高島市長は就任当初、Facebookやtwitterの利用を奨励するため、大々的な部内研修まで行っていたほど。インターネットの活用促進を呼びかけるとともに、無料公衆無線LANサービス「Fukuoka City Wi-Fi」の整備を行ってきた。ネットのニュースは「黙殺」というのでは、明らかな自己矛盾だろう。
続く部内の閲覧制限
都合が悪くなると無視、さらに事態が悪化すれば権力にモノをいわせて「制限」――これが高島流だ。市長がブログで《ソーシャルメディアやそれ以外のメディアも活用し、行政の新たな情報発信の姿を目指して、チャレンジを続けて行きます》と宣言した1か月後(2013年8月)、市は職員が使用するパソコンの閲覧制限を強化し、事実上の検閲に踏み切っている(下が閲覧制限を示す画面)。
閲覧制限の対象はブログ、金融・投資情報から芸能、スポーツ、映画・演劇、グルメへと拡大され、はては市政記者クラブ加盟社以外のメディアによる報道や、市長が奨励していたはずのFacebook、twitterといったSNSまで――。市関係者の話によれば、閲覧制限を言い出したのは市長。HUNTERの市政批判に業を煮やした結果だったという。
閲覧制限に踏み切る前、市長が幹部会議の席上、県警OBの副市長に対し、県警を動かしてHUNTERの動きを封じるよう相談を持ちかけていたことも明らかとなっている。「インターネットのニュースは黙殺してきた」との証言自体、真っ赤な嘘なのである。
暴言代議士との共通点
高島氏の市長就任後、市が記者クラブ加盟社に支出する広報・宣伝費が4,000万円台から最高で9,000万円台にまで急増。その過程で、市長が「広告を出しておけば、(報道を)抑えることができる。民間だってやってるでしょう」などと発言していたことがHUNTERの調べで分かっている。広告費のご利益はたしかで、高島市政を追及する大手メディアの調査報道はここ数年皆無。連日、大本営発表ばかりが垂れ流される現状だが、広告とは無関係のHUNTERを止める術はない。「インターネットのニュースは黙殺してきた」と強がるしかないのかもしれない。
ちなみに、自民党若手の勉強会で、「マスコミを叩くには、広告料収入と、テレビの提供スポンサーにならないこと。日本全体でやらないといけない。一番こたえるだろう」と発言したのは井上貴博衆院議員(福岡1区)。昨年暮れの総選挙で、市長が米国出張を取り止めてまで応援した人物だ。カネの力で報道をコントロールしようという考え方は市長と同じ。“類は友を呼ぶ”とはよく言ったものである。政党交付金1300万円の使途を巡る疑惑が報じられた後、地元メディアの前から姿を消した同議員だが、都合の悪い話になると逃げだすところも、市長とよく似ている。