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福岡市 保育園移転がらみでパチンコ店に便宜供与?

2013年6月21日 11:00

 疑惑まみれの様相を呈している福岡市中央区にある中央保育園(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転に絡み、市が保育園の建築確認申請提出を遅らせるように仕向けていたことが分かった。移転用地に隣接する場所に新築されたパチンコ店に、営業許可を受けさせるためだった可能性がある。
 風営法は、学校や保育園などを「保護対象施設」と定めて一定距離内での風俗営業を禁止している。当初予定通りに確認申請が行われていれば、隣接するパチンコ店の営業許可はおりなかったとみられ、保育園建設の時期をずらすことで市がパチンコ店の利益を図った形。市側の事業の進め方に瑕疵があったことを証明する事実だ。

保育園隣のパチンコ店―今年4月に開業
 中央保育園移転用地の隣りは、旧岩田屋体育館があった土地である。平成11年に県内の学校法人が買収した後は所有権が転々とし、昨年3月になって糟屋郡内のパチンコ業者が取得していた。

 業者側は、4月にパチンコ店の建築確認申請を行なったが、設計変更のため9月に再申請。10月の確認済証交付を経て、今年2月に建屋を完成させた。営業を開始したのが4月26日であることから、建屋完成の2月から4月までの間に営業許可を受けたものとみられる。許可の正確な時期について、パチンコ店を運営する糟屋郡内の業者に確認を求めたが、出稿までに回答は得られていない。

本来ならパチンコ店は営業できなかった
 問題は、パチンコ店の建築工事が遅れたため、保育園移転計画とパチンコ店の営業許可が絡み合う形となったことだ。
 風営法は、風俗業を営むにあたって、都道府県公安委員会の許可を受けるよう定めており、その際は学校や保育園、病院などの「保護対象施設」から一定の距離内での営業を禁止している。福岡県の場合、商業地域にある保育園から50メートル以内でのパチンコ店の営業は許可を受けることができない。
 つまり、今年2月の段階で問題の土地に保育園ができることが明確になっていれば、パチンコ店の営業許可はおりなかったことになる。

保育園建築予定標識 設置時期への疑問
保育園建築予定標識 一方、右の写真は、中高層建築やマンションなどの建築をめぐる紛争予防のために定められた「福岡市建築紛争の予防と調整に関する条例」に従って設置された、中央保育園の建築計画の概要を記載した標識である。標識は、建築確認申請を提出する30日前から工事着手までの期間、設置しておかなければならない。標識が設置されたということは、パチンコ店の真横に保育園が建てられることを意味する。

 当然ながら、2月中に標識が設置されていれば、パチンコ店が営業許可を受けることは困難になっていたはずだ。しかし、写真の赤い矢印とアンダーラインで示した通り、標識設置は今年の「3月26日」。パチンコ店側が2月の建屋完成直後に営業許可申請を出していれば、ぎりぎり間に合った計算になる。福岡県の場合、営業許可申請から県公安委員会の許可まで、およそ1
か月とされるからだ。

 下に示したのは、福岡市が作成した中央児童会館と中央保育園の再整備スケジュールだ。

福岡市が作成した中央児童会館と中央保育園の再整備スケジュール

 この計画通りに両施設の再整備を進めるためには、中央保育園の建設工事を今年4月に始める必要があった。それには建築確認済証が3月末には交付されていなければならない。逆算すれば、赤い矢印で示した2月の初旬には、建築確認申請の30日前と規定された前述の建築計画の概要を記載した標識の設置が必要だったことになる。だが、設置はなぜか「3月26日」。パチンコ店の営業許可を待っていたかのような動きだ。

一方的な便宜供与の可能性
中央保育園移転の動き2.JPG ここで、改めて保育園移転の動きとパチンコ店側の動きを時系列で整理してみた。
 パチンコ店の建設は昨年5月に始まっており、市側は保育園移転先の隣がパチンコ店になり、風営法上の問題が生じることを知っていたはずだ。同店の建設工事が遅れたことで、保育園の存在と営業許可との絡みが生じることも分かっていたことになる。
 そこで市側が考えたのが、保育園の建設工事を遅らせることで、パチンコ店の営業許可を可能にし、「もともとあったパチンコ店」に仕立て上げることだった。

 その事実を裏付ける証言はいくらでもある。20日までのHUNTERの取材によれば、福岡市側は施主である社会福祉法人福岡市保育協会が設計を依頼した業者に、建築確認申請を行う30日前に義務付けられている建築予定標識の設置を遅らせるよう指導。理由は「在園児の保護者らに説明を尽くすため」(市側の説明)だったとされるが、看板設置を行う設計業者には、パチンコ店の営業許可との絡みがあることを漏らしていたという。
 設計業者への取材も行ったが、パチンコ店の話も含めた一連の市側の指導内容について、否定していない。

 中央保育園の園長は、市側が建築予定標識の設置を遅らせるよう設計業者を指導したことを認めた上で、「建設計画については設計業者に任せていたが、準備はすべて終わっていた。それに市が待ったをかけた。詳しいことは設計業者に聞いてもらいたい」と話している。

 市側は、標識設置を遅らせるよう指導したことを認めているが、「保護者に対する説明会を開いてから事業を進めるためだった」として、市職員がパチンコ店の営業許可との絡みについて明かしたとする複数の証言を否定している。だが、この説明は信用できない。

 在園児保護者らは、移転の経緯を聞くための保護者説明会を1月の段階から何度も要求していたとされ、これに対し市側は、のらりくらりと説明会開催を引き延ばし、ようやく実現したのは3月18日のことだったという。それでも市側は標識設置を認めず、ようやく設置のゴーサインが出たのは同月26日になってからだった。パチンコ店の営業許可を待っていたとしか思えない動きであり、事実なら中央保育園関係者だけでなく、市民への重大な背信行為となる。断っておくが、パチンコ店側に落度はない。パチンコ店が開業することを知っていながら、何の策も講じなかった市側の不作為が招いた結果だからだ。

 事業計画の綻びを糊塗するための一方的な便宜供与ではなかったのか―市の行為が厳しく問われる事態だが、園児や保護者たちが置き去りにされていることだけは確かだ。



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