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福岡市・保育園用地取得に重大疑惑 ― 土地選定は出来レース
― 揺れる中央保育園移転計画(下) ―

2013年6月13日 10:10

 福岡市中央区にある「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転先として約9億円をかけて市が取得した用地の選定過程に、重大な疑惑が浮上した。
 HUNTERが福岡市への情報公開請求によって入手した文書と取材から、問題の保育園用地が、じつは平成23年7月の時点で事実上の市長決済を受ける形で取得予定地と決められていたことが判明。用地選定過程は不透明で、複数の候補地について、土地の所有者に接触もせぬまま対象から除外したり、最終的に残った2箇所のうちの一方についても、「形だけのものだった」(市側の説明)として、まともな比較さえ行っていなかったことも分かった。
 移転先決定から約1か月後、問題の土地の所有権が、北九州の会社から福岡市内の不動産会社に移っている。

移転先決定は「平成23年7月」
 福岡市への情報公開請求で入手した一連の文書には、移転予定地決定までの詳しい経緯を示す文書が欠落しており、計画の進み具合を正確に掴むことが困難な状況だ。これは土地の選定方法が杜撰だったか、単なるアリバイ作りで書類だけを作成したかのどちらかということ。しかし、残された資料と市側の説明から、土地選定の不透明さが浮き彫りとなってくる。

 福岡市立中央児童会館と同じ敷地内に併設された中央保育園の整備計画について、方針が決められたのは平成23年7月26日の「市政運営会議」。この時の議事概要に、中央保育園については『現地近隣』、児童会館は『現地』と整備方針が明記されていた(昨日既報⇒「揺れる福岡市の保育園移転計画 不可解な土地取得経過(上)」 )
 そして、この日の市政運営会議のために所管局であるこども未来局が作成した資料が、下に示した建替え整備についての「総括シート」である。 

総括シート

 市政運営会議が追認したのは、この「総括シート」の内容だ。ところが、赤いアンダーラインと矢印で示したように、この段階で、移転先を「候補地1」に決めていたことが分かる。高島市長は、事実上「候補地1」を移転先に決めていたということになる。

土地選定過程の記録は不存在―出来レースの証明
 それでは候補地は何箇所あったのか?――総括シートに添付された資料(「中央保育園及び中央児童会館整備スキームについて」)には、一応「候補地2」が存在したことが確認できる。だが、総括シートにも市政運営会議の議事概要にも、二つの候補地を比較したことを示す記述はない。
 この点について市側に尋ねたところ、「候補地2」の記載自体が、「形だけのものだった」と明言。移転用地が、最初から「候補地1」に絞られていたことを認めている。出来レースだったということだ。

 総括シートには《定員の拡充が可能である候補地1にて整備する方向》と明記しており、市政運営会議の議事概要にも《早急に現地近隣に定員拡充が可能である用地にて整備する方向》と決定したことが記されている。キーワードは「定員の拡充」。これを可能とするのは「候補地1」しかなかったとするため、添付資料に比較対照としての「候補地2」を持ってきたと見られる。「候補地2」は、所有権者が複数である上、用地が狭くて定員拡充が難しいという理屈だ。

 下が、前述した総括シートの添付資料(文書はA3版。その左側だけを掲載)。あたかも比較したかのように装うための、いわば“アリバイ作り”のためのペーパーである。

総括シートの添付資料

 この添付文書が、アリバイ作りのための道具だったことは容易に説明がつく。じつは市が保育園の移転候補地として検討対象にしていたのは、「候補地1」、「候補地2」の他に、3箇所あったことが開示された文書によってハッキリしている。

地図

 上記の地図に示された候補地は5箇所もある(注:前出「候補地1」はそのまま①でよいが、「候補地2」は、この図では⑤となっている。なお⑤と⑥は所有権者の組み合わせで分けたもので、1箇所と判断した)。
 それでは、総括シートの添付資料に記された「候補地1」と「候補地2」以外の3箇所は、いつ、どのような形で候補対象から外されたのか?―――市側に確認したところ、「所有権者が多かったり、会社の駐車場などで使用されていたため、買収は無理だと考えた」という。土地所有者との交渉はおろか、接触さえしていなかったというのである。おかしな話だ。これでは「候補地1」以外のすべてが、選定の体裁を整えるための道具だったとしか思えない。しかも、土地選定過程について確認できる公文書は1枚もないのだという。これほどいい加減な土地選定が許されるものだろうか。

 事前の交渉について、「候補地2」と、最終的に選定された「候補地1」ではどうだったのか?―――市側はこの2箇所についても、所有権者との事前交渉は「一切なかった」と断言しており、一層おかしな話となる。買収可能かどうか定かでない「候補地1」を、移転予定地として勝手に決め込んだことになってしまうからだ。市長を交えた最終決定の場で、買収できるかどうか分からない土地を候補地として挙げることなどできるわけがない。これまでの市の様々な政策決定過程において、そんな非常識な検討が行われた例もない。

事業費見込みの算出根拠も不存在
 疑問はまだある。前掲した「中央保育園及び中央児童会館整備スキームについて」の中に、赤いアンダーラインで示した土地の予定価格がある。土地の取得費について(見込み)として『812百万円』と記してある。一方、今年4月に結ばれた保育園用地の売買契約の金額は『8億9,900万円』。平成23年の時点で、どうして正式な契約金額に近い数字を事業費として記載できたのか?―――市側に見込み額『812百万円』の積算根拠を求めたところ、該当する文書はないということが明らかとなった。市側は「路線価から算出した」というが、根拠となる文書が残っていない以上、“怪しい話”でしかない。こども病院の人工島移転にからむ不透明な土地選定や現地建替えの工事費水増しと同じ、いやそれ以上のデタラメさだ。

疑われる情報漏洩―「仕組まれた買収」の指摘も
 最大の問題は、平成23年7月の移転方針決定から約1か月後に、問題の土地の所有権者が変っていたことだ。市政運営会議が開かれたのは7月26日。「候補地1」の土地は、登記簿上、同年9月1日に北九州の会社から福岡市内の不動産業者に売却され、所有権移転がなされていた。
 
 方針決定から1か月間、市側が土地の持ち主に接触しなかったはずがない。前掲の総括シートには、「9月議会」で報告の必要性があることが記されている上、《保育園用地の確保について、早期に目途をつける必要がある》とも述べられている。
 
 土地所有者である北九州の会社に、すぐさま土地売却についての打診を行うのが普通で、1ヶ月も交渉を放置するとは考えにくい。しかし、市側は「行ってみたら、所有者が変っていて驚いた」という。わざわざ所有権が移転するのを待っていた形だ。

 情報漏れはなかったのか?この疑問に対し、ある市関係者は次のように話す。「仕組まれた買収劇だよ。情報漏れじゃなくて、“はじめに土地ありき”なんだよ。移転先は決っていたんだ。方針決定から1か月も放置する話ではないからね。土地の持ち主が変わるのを待って交渉に入ったんだね。土地を売った不動産業者に罪はないよ。正当な商行為だもんね。ただ、高島(市長)君が子どもや保護者のことなど、これっぽっちも考えていなかった証拠ではあるね。派手な箱モノを民間企業と一緒に造って、はしゃぎたかっただけだよ。そのためには保育園は邪魔だった。すぐそばに手ごろな土地があった。それだけの話。ふざけた市政だな」。

 疑惑の土地選定の犠牲になるのは、保育園利用者と、9億円の土地代の原資を出している福岡市民である。



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