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AKB48の尻馬に乗ったタレント市長の愚行
-福岡市「カワイイ区」の問題点-

2012年9月12日 09:05

 AKB48の篠田麻里子氏を初代区長に起用し、福岡市が今年8月から始めた「福岡市カワイイ区」事業。区民登録が3万人を超えたとおおはしゃぎの高島宗一郎市長だが、ネット上の仮想の区であるため税収などが見込めるわけではない。趣旨や今後の展開もハッキリしておらず、唐突に始まった同事業を疑問視する声は少なくない。
 事業の発端となったのは、高島市長と会談した篠田氏の“思いつき”だったことが公表されていたが、福岡市への情報公開請求で入手した文書から、タレントの尻馬に乗って事業を展開した高島市政の幼稚な実態が浮き彫りとなった。
 篠田氏側の指定という異例の形で同事業の業務を請け負ったのは広告代理店最大手の「電通」。随意契約の金額は約1,000万円に上っていた。
 人気タレントとパフォーマンス好きの市長のお遊びに、市民の税金が利用された形だ。

「カワイイ区」の問題点
 「カワイイ区」とは、福岡が持つ多彩な魅力や特性を、新たな都市イメージで発信していくとして、同市が首都圏を主なターゲットに始めたシティプロモーション事業の一環だ。
 「カワイイ区」を、現在福岡市にある東、博多、南、中央、城南、西、早良の7区に次ぐ、8番目の仮想の「区」と位置付け、AKB48の篠田麻里子氏を初代区長に事業展開を図るという計画になっている。

 福岡市のホームページ上での説明によれば、「カワイイ」とは、《容姿だけではなく、感情表現が豊か、明るく人なつっこい、いきいきと輝いている、情に厚いなど、考え方、話し方、振る舞いすべての要素に用いられるもので、人をいとおしい気持ちにさせるすべての魅力・センス》なのだという。カワイイの解釈までは理解できるのだが、このあとの事業の説明は理解不能だ。

 《カワイイ区の概要》には、『女子がカワイイとよ~』、『都市がカワイイ』、『食がカワイイ』、『文化・産業がカワイイ』、『歴史・風土がカワイイ』としてこまごまと理屈が並べられているが、前述した「カワイイ」を福岡市の現状に無理やりこじつけた安っぽい言葉の羅列でしかない。

 例えば、『文化・産業がカワイイ』には次のように記されている。
《福岡は、日本の大都市ではめずらしく、工場がほとんどない「商業の街」です。ゲーム関連会社などのカワイイ=コンテンツ関連産業が充実しており、日本が世界に誇るカワイイ文化を世界に発信する、最も相応しい都市になる可能性を秘めています。集積規模が大きすぎないのも、これまたカワイイ》。

 産業の集積規模が小さいのは都市の弱点なのだが、これをカワイイで片付けることは容認できない。集積規模を拡大させる努力をしなければならない行政機関が言うことではないからだ。

 疑問はまだある。区政の運営方針として、ホームページから登録した「カワイイ区民」にメルマガの配信や特別住民票を発行(希望者のみ1枚300円)し、ファッション産業の振興や「福岡=カワイイ」を国内外に発信するとしているが、若者を中心とした「カワイイ区民」だけに行政サービスを提供することに問題はないのだろうか。

 当然ながら行政の行為には公費支出が伴う。原資は税金である。「カワイイ区」のぼやけた目的やチャラチャラした内容から言えば、行政機関が実施する事業というより“お遊び”に近い。しかも、「カワイイ区」の区民の内訳は公表されておらず、その動向を掴むことも難しい。
 行政サービスを提供するにあたっては、「受益者負担」の原則があるはずだが、この事業にはそうした思想が反映されていないのだ。

 なぜこのような“愚行”がまかり通ったのか、事の経緯を検証した。

話を持ちかけたのはAKB・篠田氏
 市側の説明によれば、今年に入って篠田氏側から市秘書課に、「高島市長に会いたい」という連絡があり、3月18日の日曜日に市役所内での会談が実現したという。
 出席したのは篠田氏とそのマネージャー、高島市長、市広報戦略室長(当時。現市長室長)、市長秘書の5人だった。

 高島市長と篠田氏の会話は弾み、福岡をファッションで盛り上げたいという話題から「カワイイ区」の実現が提案されたという。提案したのは公表された通り篠田氏であることを市側も認めている。

 会談のあと、高島市長は“ファッション関係”ということで経済振興局(現・経済観光文化局)に事業実施の指示を出したが、5月からは市長室広報戦略室の所管へと変わっている。ただし、4月から5月にかけて市内部で作成された事業の概要案には、いずれも区長として篠田氏が就任することが明記されていた。

 その後、市役所職員の不祥事が続発し、問題となった禁酒令へと進む過程で計画実施が遅れたものの、禁酒期間が終了した直後の6月26日に篠田氏の所属事務所宛てに「カワイイ区」の区長就任を依頼するメールを送信。同日、篠田氏のマネージャーと連絡を取り、翌27日には「カワイイ区事業」の方針決済を行っていた。

 経過を見る限り、カワイイ区の事業化を持ちかけたのはAKB48の篠田麻里子氏。人気タレントの話に飛びついたのが、いまだにタレント気分が抜けない高島市長だったということになる。

 AKB48の人気はとどまるところを知らぬ勢いだが、社会現象ともなった「総選挙」に象徴される通り、メンバーどうしのファン獲得競争は熾烈だ。
 芸能界に詳しい雑誌記者に聞いたところ、AKB48のメンバーは、個々の所属事務所自体が違っており、活動の場を拡げることができるかどうかが、AKB48内でのポジション争いに大きく影響するのだという。目立った者勝ちということのようだ。

 篠田氏側から高島市長に会談を申し入れ、彼女自身が「カワイイ区」構想を持ち出したという経緯は、目的が“売名”にあることを疑われてもおかしくはあるまい。
 市側の説明によれば、篠田氏は1円も受けとらないことになっているというが、「カワイイ区」の新設と区長就任のニュースは、NHKを除くすべてのキー局の8つのテレビ番組で紹介されたほか、読売、朝日、毎日、日経など主要紙を含む67もの媒体によって取り上げられていた。
 露出の多さが生命線となるタレントとしては、十分過ぎるほどの宣伝になっているのである。

 その後の展開を考えれば、一人のタレントの売り込みに乗って、公費支出を伴う事業を市内部の議論や議会への説明もなく市長の専決で決めたという構図が浮かび上がる。
 お調子者市長の面目躍如たる仕事ぶりだが、度を越えているという批判が市内外から上がっていることは事実だ。

篠田氏側の指示で「電通」と約1,000万円の随意契約
 AKB何様かと言いたくもなるのは、カワイイ区事業の実務を委託された「電通」との契約過程だ。

 下は市側と篠田氏のマネージャーが7月3日に交わした電話の記録と、電通との契約にあたって市内部で作成されたチェックリストだが、「電通」を指定したのは篠田氏が所属する事務所だったことが分かる。
(青塗りと赤いアンダーラインはHUNTER 編集部)

メモ  チェック項目

 この結果どうなったか。下の文書左は市が作成した事業費の設計見積りだが、合計金額は消費税を入れて987万円となっている。
 一方、右の文書にあるように、電通が提出した「見積書」の金額も同額の987万円。つまり電通側の“言い値”で契約を交わしたことになる。

委託設計図書   随意契約伺い

 公費支出の重要性も考えず、行政機関の契約相手まで指定するタレント事務所の傲慢さとそれを唯々諾々と受け入れた福岡市。市民不在のまま、下らない事業に税金支出が決められていく過程は高島市政の特徴でもある。

 市役所1階の改装、二階建てバスの購入といった喫緊の課題ではなかった事業に、いずれも億単位の税金が“市長の一存”で投じられてきたのだ。
 暴走を止められない市幹部はもちろん、チェック機能を果たせていない市議会にも問題がある。

先行き見えぬ電通主導の事業展開
 情けないのは、行政が行う事業であるにもかかわらず、すべてを広告代理店に丸投げしたことだ。 
 8月29日に東京都内で行なわれた「カワイイ区」の辞令交付式では、電通側によってシナリオまで用意されていた(下がその一部)。タレントアナ出身の市長だけに、セリフを読むのはお手のものだったろうが、一連の流れはただの番組制作だ。

辞令交付式

 こうしてスタートした「カワイイ区」だが、福岡市にとってのメリットが何なのか判然としない。
 市の担当に聞いたところ、首都圏の若い世代に福岡の魅力をアピールすることを狙った事業なのだと言うが、具体的な内容と効果は明示されていない。
 そもそも、電通との契約は来年の3月までとなっており、その後もカワイイ区を続けるかどうかさえ正式決定していないのだという。
 AKB48の篠田氏が、いつまで人気を保ち続けるのか分からないが、一時的なタレント人気にすがらなければならないほど、福岡の魅力が乏しいとは思えない。
 トップダウンで始まった「カワイイ区」は、公費を投入して行政のやる事業としてはあまりに計画性がなさ過ぎる。また、内容が幼稚であることは述べてきた通りだ。

 目立つことばかりに税金を使いたがる高島市長だが、就任以来の2年間で、この市政トップが子育て世代やお年寄りのための施策で目立った情報発信をしたという記憶はない。
 市民の暮らしには見向きもせず、観光だのバーチャルだのではしゃぎ回る高島市長。もはや“若い”ということで許される状況ではなくなってきたようだ。



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