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都市計画の「意見書」にねつ造の可能性
揺らぐ旧直方駅舎解体の根拠

2012年5月22日 09:25

 直方市が平成18年に実施した、JR直方駅周辺の整備事業に関する都市計画案の縦覧にともなう住民の意見書が、ねつ造されていた可能性が高まった。
 
 同市に対するHUNTERの情報公開請求で入手した文書によって、事業推進の根拠となった「賛成意見」のうち、少なくとも17人分が同一人物の筆跡である可能性が浮上。その他にも別の人物の筆跡で複数枚の意見書が提出されているケースや、まったく同じ文言を連ねたものなどが確認された。
 特定の団体か仲間内で意見書の記述内容が指示され、"市民の声"を無理やり形成した疑いもある。

 事務処理にあたった直方市は、指摘を受けるまで気付かなかったとしているが、JR旧直方駅舎解体の根拠とされる都市計画決定の過程に疑惑が生じたことで、直方市の主張が揺らぐ形となった。
(写真は直方市役所)

都市計画法の規定
 「都市計画法」は、まちづくりに一定の制約を設け適正な開発を進めるため、都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めている。
 また、都市計画案の内容を広く市民に周知するため、2週間の縦覧期間を義務付けており、この間、関係市町村の住民および利害関係人は、縦覧に供された都市計画の案について、『意見書』を提出することができる。
 
 都道府県が都市計画を決定する場合、《関係市町村の意見を聴き、かつ、都道府県都市計画審議会の議を経て、都市計画を決定するものとする》との過程を経るが、都市計画の案を都道府県都市計画審議会に付議しようとする時には、前述『意見書』の要旨を都道府県都市計画審議会に提出しなければならない。
 『意見書』が持つ意味は大きい。都市計画審議会における審議の過程では、住民意見が重要視されるからだ。
 万が一、市民の声が恣意的に操作されていたとすれば、事務手続き上の違法性が問われるだけでなく、決定された都市計画そのものが根拠を失うことになる。

旧直方駅舎解体の根拠となった都市計画案
 直方市は、JR直方駅周辺の開発計画を含む10件の都市計画案について、平成18年7月5日から19日までの2週間を縦覧期間として告示。最終的に計89件にのぼる「住民の意見」を受け付けたとされる。
 この結果を受けて進められてきたのがJR直方駅の新築を含む周辺整備事業。換言すれば、旧JR直方駅舎の解体・"がれき化"を方向付けたのは、この時の『住民の意見』だったことになる。
 もちろん、解体した駅舎を保存するか否かの判断は後年のこととされているが、駅舎解体を含む都市計画案が決定したことで旧駅舎の現地保存が困難になったことは確かなのだ。

同一人物の筆跡が17枚 
 意見書.JPG HUNTERは、駅舎解体に関する情報公開が不十分であると判断し、再度直方市へ関連文書の開示を請求していたが、今月18日、これまで示されていなかった新たな文書を入手した。
 そのうちのひとつが、平成18年に実施された都市計画決定に関する一連の公文書である。
 
 この中にあった、89件分すべての「都市計画案に対する意見書」を精査したところ、筆跡が同じと見られる意見書が多数あることを確認。専門家に意見を求めたところ、17件分は同一人物の筆跡である可能性が高いという回答を得た。
 そのほか、問題の17枚とは別に、同一人物が複数枚の意見書を書いたケースが数件あったことも分かっている。
 
 右の文書は、17枚のうちの1枚だ(赤いアンダーラインと文字はHUNTER編集部。氏名、住所、電話番号については直方市側が黒塗りしているため判読できない)。
 
 17枚の意見書から(意見の要旨)の部分だけを切り取って並べたものが下。専門家の判断を待つまでもなく、ひと目で同じ筆跡であることがわかる。

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回答に詰まる直方市
 21日朝、同一人物の筆跡で17枚もの意見書が書かれていることについて、直方市側の見解を聞いたが、都市計画を所管する同市建設部都市計画課は、思わぬ事態に戸惑いを隠せない。
 縦覧の手順や意見書の提出状況などについての説明はできるが、同じ筆跡の意見書が大量に存在することについて、整合性のある回答をすることはできなかった。
 正式なコメントを求めていたところ、午後になって、「氏名、住所、電話番号」欄の筆跡はそれぞれ違っており、(意見の要旨)欄の筆跡とも違っているようだ、と伝えてきた。  

縦覧期間の最終2日間に67件が集中―「やらせ」への疑念
 「氏名、住所、電話番号」欄を記入した人物と、(意見の要旨)欄を記入した人物が違うということになれば、縦覧にあたって寄せられた意見は本人の意思とは違うものだった可能性が高くなる。あるいは、他人をかたって都市計画案に賛同する意見を水増ししたかだ。
 問題の17枚の意見書記載内容と同じ文面のものが、そのほかに多数存在しており、組織的に意見書の内容や件数が操作されたとの推測も成り立つ。
 
 同一人物の手による17枚の意見書は、縦覧最終日の平成18年7月19日に一括して提出されており、これだけでも不自然。担当職員が気付かなかったとは思えず、市側の演出による「やらせ」への疑いが生じる。意見書の受付日と記された内容を照らし合わせると、疑念はさらに深まる。
  
 意見書を受付印の日付順に整理すると、縦覧期間最終日の前日18日に20件、最終日には47件の意見書提出が集中しており、この大半が都市計画の早期実現やエスカレーター等の設置を望むものだった。意見書89件の7割以上を占める賛同意見は、駆け込み的に提出されていたのである。組織的な動きであったことは疑う余地がない。
 直方市側は、この不自然な状況を把握していたわけだが、制度上、県の都市計画審議会には寄せられた意見書の要約だけを提出することになっている。この仕組みをついた巧妙な操作だったということだ。

縦覧の告知も不十分―市民から批判の声
 そもそも、縦覧期間の設定と告知にはかなり無理があった。
 直方市によれば、同年4月1日に「市報 のおがた」に都市計画案を公表。7月5日に縦覧を告示し、インターネットや市報でも告知したという。
 しかし、「市報 のおがた」は配布対象を自治会加入世帯だけとしているため、約25,000世帯のうち20,000世帯にしか配布されておらず、インターネット利用者はさらに限定される。告示文が張り出されたのは市役所前の掲示板であり、縦覧の事実を知る市民は少なかったと思われる。
 さらに、もっとも広く告知が可能な市報については、縦覧告示日の5日を過ぎて配布された世帯も多く、市側の対応が不十分だったことは否めない。
 直方市に住む60代男性は次のように話している。「都市計画案の縦覧なんて、まったく知りませんでした。私の周りに聞いて見ましたが、ほとんどの人が気付いていなかった。不十分な広報で、どうして計画案への賛同意見ばかりが数多く集まったのか疑問に思っていましたが、これでやっとカラクリが分った。これはタチの悪い"やらせ"ですね」。
 
 歪められた"住民の声"が都市計画決定に影響を与えたという事実は否定できず、市側が示してきた駅舎解体の根拠が、またひとつ崩れた形だ。

 旧直方駅舎解体の経緯については、「直方市、駅舎解体方針決定に重大瑕疵」、「東京と直方 明暗わける旧駅舎への対応」、「破たんした旧直方駅舎解体の理由」の中で、その実態を詳細に報じている。

【訂正】
 意見書提出件数について、初稿で「縦覧期間の最終2日間に62件」と配信しましたが、縦覧最終日に提出されたものが他に5件存在しました。
 従って、「縦覧期間の最終2日間に67件」に、文中の「縦覧期間最終日の前日18日に20件、最終日には42件の意見書提出が集中」を「縦覧期間最終日の前日18日に20件、最終日には47件の意見書提出が集中」と訂正いたします。(18時38分)



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