福岡県直方市(向野敏昭市長)が、JR旧直方駅舎の解体を決めた過程の不透明さが浮き彫りとなってきた。
市民の反対の声を無視して「解体ありき」で突っ走った向野市政だが、残された公文書と市側の主張には、食い違いばかりが目立つ。
杜撰な政策決定過程の裏に、公共事業創出を急ぐ市側の思惑があったとしか思えず、市民らの駅舎保存の願いに対し真剣に向き合った形跡すらない。
(写真は直方市役所)
次々に崩れる市側の主張
右は、HUNTERの旧駅舎解体に関する情報公開請求に対し、直方市側が開示にあたって提供してきた「開示目録」である。(赤および青のラインはHUNTER編集部)
HUNTERが請求したのは、市民などから寄せられた駅舎保存に関する要望や陳情のほか、2点について確認するための文書だった。
まず、確認したかったのは「駅舎保存に関して検討した折の文書」である。これに対し市側が対象文書として示したのは、前回報じた「直方駅舎移転構想策定業務」。旧駅舎保存の可否を検討するため、平成18年に市がコンサル業者に発注し、翌年2月までに作成させた報告書のことだ。
つまり、市として駅舎保存について検討したのは、民間企業に委託して作成させた報告書の中だけの話だったということになる。事実、この報告書のほかには駅舎保存について市内部で検討したという会議の議事録などの証拠書類は一切存在していない。
次に求めたのが「駅舎解体を決定した折の文書」だったのだが、対象となる公文書として市側が開示したのは、直方市とJR九州との「移転補償契約」にともなって補償金を支払った時の「支出負担行為表」。
同市とJR九州との移転補償契約は、平成20年11月25日に結ばれており、この契約にともなう支出を、市として駅舎解体を正式決定した時の証拠だというのである。
同契約書には、たしかに旧駅舎の移転にともなう補償金額(具体的な数字は非開示だったが)と、駅舎解体の時期を明記しており、契約にともなう公費支出を決めたということは即「解体」を意味する。
しかし、これでは直方市の公費支出には、積み上げた議論という裏づけがなかったことになる。
理由は簡単で、前稿で報じた通り、直方市が駅舎保存を正式に断念することを方針決定(つまり"がれき"にするということ)したのは、平成22年11月5日で、JR九州との補償契約より2年も後のことなのだ。
念のためその方針決定文書を再掲しておくが(右の文書参照。黒塗りと赤いアンダーラインはHUNTER編集部)、同市とJR九州との移転補償契約に関する公費支出をもって「駅舎解体の正式決定」とするという直方市の主張には無理があることが分かるだろう。
これまで述べてきたように、平成18年から平成22年11月までの間には、直方市が駅舎保存を断念するという方針を正式に決済した文書は存在していない。
直方市は、市民の声を無視して、勝手に移転補償金を支払っていたわけだが、保存はもちろん、「解体」の方針決済文書さえ満足に残していなかったことになる。
平成18年12月に直方市がJR九州系列のコンサル会社と契約した、「直方駅前広場実施設計および測量地質調査業務委託」の仕様書には、「あるいは既設直方駅の保存等を考慮することを考える」と指示しておきながら、成果品(設計図書および報告書)のどこを見てもこの指示に応じた記述がなかった。、
これに対し直方市は、「結果として、既設直方駅の保存について、計画案策定での配慮は不要となったため、成果品に含まれていません」と答えている。
成果品の提出は平成20年3月21日であり、この時の直方市の回答も虚偽だった可能性が高い。
根拠なかった「駅舎保存に莫大な費用」
一連の市側の対応に齟齬が生じたのは、情報公開請求や直接取材の度に場当たり的に対応したため主張がぶれたためと見られる。その原因が、平成18年の段階における駅舎解体の方針決定が、議論を経ぬまま決められたことにあるのは言うまでもない。
意思決定における肝心の公文書が存在しないという事実が、そのことを如実に表している。
直方市の政策決定過程が杜撰であることを証明するもう一枚の文書がある(右の文書参照)。
HUNTERは先月、前掲した平成22年11月5日付の方針決定文書にあった「莫大な費用がかかる」とした根拠となる文書の開示を求めていたのだが、6日に送られた来たのがこの「不存在」の通知。
「直方駅舎移転構想策定業務」の報告書では、駅舎保存にかかる費用を「2億円~4億円」と、じつに大雑把に決め込んでいるが、市がいう「莫大な費用」の根拠は何か改めて確認したところ、その主張に「根拠がない」という結果になった。
直方・向野市政の特徴は、公文書管理がお粗末な上、政策決定や事務執行にあたっての裏づけがないまま、恣意的に行政を動かしていることだ。
市民無視
平成18年4月に直方市が駅舎解体の方針を公表して以来、市民団体などから市に寄せられた駅舎保存についての要望や陳情は次の13件だ。
しかし、これまでの経過を見ても明らかな通り、市側がこれらの切実な願いに誠実に対応したことはない。
昨年の取材時における市側の回答がすべてを物語っていた。
記者 : 解体差し止めを求める仮処分申請の高裁決定を待たずに、解体工事を急ぐ 理由は何か?
職員 : 駅前広場の整備を急いでいる。
記者 : 理由になっていない。解体を決めた経緯を示す公文書は残っているか?
職員 : 駅周辺の整備は、都市計画で定めたもので・・・。
記者 : 都市計画に旧駅舎を解体すると明記してあるのか?そんなはずはない。
職員 : たしかに都市計画には書いていないが、水路改修、自由通路の確保、病院建設の障害になるので解体せざるを得ない。
記者 : だから、解体を決めたのはどの時点で、どのような理由によるものかを示す文書があるのかどうかを聞いている。
職員 : 探してみる。
記者 : 解体に反対する市民の意見は何時頃から市に届いていたのか。
職員 : 平成18年くらいから、建物を残してもらいたいという意見があった。
記者 : 市長はきちんと向き合ってきたのか。
職員 : 1回だけ(解体に反対する市民らと)会ったと聞いている。
記者 : それだけか?
職員 : ・・・・・。
政策決定過程についての説明責任が果せないというのなら、関連する公費支出に違法性が問われる。さらに市民と向き合うことのない市政は、最終的に市民の首を絞めることにもつながる。
その証明をするため、HUNTERは1年以上にわたって直方市に関する取材を続けてきた。次回から、市財政をひっ迫させ、駅舎保存のための費用さえ捻出できないという事態を招いた同市歴代市長の失政について報じていく。