新聞の見出しが社会に与える影響は大きい。記事を読まなくても、その内容を凝縮した1行がストレートに読者を揺さぶるからだ。
そうした意味で、新聞の見出しが世論を誘導する重要なアイテムになっていることに気付いている人は少なくないだろう。
福島第一原発の事故以降、見出しが原発報道という舞台における新聞各紙の立ち位置を示すケースが増えた。
原発そのものに対する社としての考え方がある一方、電力会社との距離が一定の方向性を持たせていることは確かだ。
最近の新聞各紙の見出しを、改めて見比べてみた。
(写真は、「西日本新聞」5月14日夕刊と同15日朝刊)
危機感煽る西日本新聞
玄海(佐賀県玄海町)と川内(鹿児島県薩摩川内市)、ふたつの原発を有する九州電力だが、原発説明番組をめぐる「やらせメール事件」で大きくつまづいた。
その後も国に提出した耐震安全性評価報告書に、26箇所の記載ミスがあったことなどが発覚。社会性を欠いた同社の姿勢に批判が集中し、九州財界トップの威光は地に堕ちてしまった。
もはや九電の公表内容を信用する国民は少ないはずだが、地元紙である西日本新聞は今月14日の夕刊、翌15日の朝刊のそれぞれ1面のトップを使って、電力不足を印象付けてみせた。政府が策定した節電計画に基づく記事だが、「計画停電」の文字に驚いた読者も多いことだろう。
電力不足に陥るという危機感を煽る意図が露わとなっており、早期の原発再稼働を目指す九電にとっては願ったりかなったりの見出しの付け方である。
さらに18日の朝刊(右の写真)では、1面と社会面を使って「計画停電」を強調。実施された場合のシミュレーションを図表を用いて詳細に報じるという念の入れようだ。
記事にある停電計画の資料は、九電側から提供されたか、内容を示唆されたとしか思えないもので、独自検証の結果というには無理があろう。
同紙の記事は九電と政府の主張を丸呑みにしたものとしか思えない。
HUNTERでは昨年6月に「西日本新聞への警鐘」、10月には「西日本新聞と九電」、今年3月には「佐賀県玄海町交際費 報じられない『支局長送別会』」を配信し、同紙の九電や玄海町との関係について警鐘を鳴らしてきた。しかし、経済部重視の同社の姿勢は、ここに来てますます顕著になったと言わざるを得ない。
詳細なデータや根拠が乏しい国や電力会社の需給予測を、独自に検証することなく垂れ流すことは危険だ。「日本の原発は安全」とする虚構がまかり通ってきたのは、こうした報道機関の無定見な姿勢に起因しており、その反省の上に立たねば報道が信頼を取り戻すことなどできないだろう。
西日本新聞社幹部の子弟が少なからず九電に入社している事実からもわかるのだが、同紙は地元福岡を中心とする九州経済界との関係が深い。九電は同紙の株主でもある。
他方、多くの読者が原発への恐怖を共有しており、政府や電力会社の発表を懐疑的な目で見ている状況。当然、読者を無視することができないため、世論誘導の手法も巧妙になる。同紙の一連の記事は、報道機関としての矩を超えていると思うが・・・。
原発擁護―明確な読売新聞の立ち位置
今月13日の読売、朝日、それぞれの紙面に原発再稼働を巡る自治体首長の賛否をめぐる記事が掲載された。同じ日の、しかも原発再稼働という同じ課題についての報道だったが、見事に両紙の立ち位置を表している。(下は読売、朝日の13日朝刊)
読売新聞は原発立地自治体の知事や市長村長に対するアンケート結果をまとめており、6人が再稼働に前向きで、慎重もしくは否定的なのが7割程度なのだという。
しかし、一面の大見出しには「原発再稼働 6首長前向き」。この新聞社の原発推進の姿勢がうかがい知れる。
記事の中で反対する首長の声をある程度紹介しているものの、結局何を言いたいのか判然とせず、見出しにすべてを委ねた形だ。
戦後、同新聞社のオーナーであった正力松太郎氏は、読売新聞を使って原子力礼賛の一大キャンペーンを展開。地震大国日本に54基もの原発を乱造するという、およそ狂気の沙汰としか言いようのない現状を生み出すきっかけを作った。「原子力の父」とは正力氏に与えられた称号である。
同紙は、渡邉恒雄という希代のカリスマが支配する現在となっても、原発推進という社是を守り続けており、立ち位置は変わっていない。
13日の同紙の記事についてさらに述べるなら、原発立地自治体の首長に再稼働の是非を問うこと自体がナンセンスだ。フクシマの悲劇を知る東北以外の立地自治体は、依然として原発マネーに頼る状況を脱する方策を見出しておらず、「原発は不要」と言えるはずがない。
報道に求められているのは、立地自治体以外の住民の声をきちんと汲み上げることではないのだろうか。
中途半端な朝日新聞
一方、朝日新聞は、社会面の肩という地味な扱いながら、大飯原発から30キロ圏内に位置する自治体の首長に、賛否を問うた結果を報じている。
あたり前のことだろうが、原発再稼働に賛成した首長は「ゼロ」。原発への厳しい視線を意識した記事なのだろうが、今ひとつ迫力に欠けるというのが実感だ。
もともと同紙は原発に対して慎重な姿勢をとっていたのだが、ある時期から方針転換して"原発推進"に舵を切っている。地球温暖化防止に原子力を利用することの意義を見出したということらしいが、福島第一原発の事故を受けて方針が揺らぎ出した。
政府や電力会社を厳しく批判する記事があるのは確かだが、立ち位置が定まらぬためスッキリしない。原発をどうするのか、社としての主張を明確に打ち出してもらいたいものだ。
報道に求められるもの
原発を含めたエネルギー政策の転換は、待ったなしで進めるべき課題である。そうしたなか、脱原発の姿勢を鮮明に打ち出した「東京新聞」が販売部数を伸ばしていることで証明されるように、新聞に求められているのが"立ち位置"を示した上での報道であることは言うまでもない。
ただし、いずれの立ち位置にあろうとも、独自の検証を欠いた記事に価値がないということを忘れてはなるまい。忌むべきは、記事の内容をぼかしながら"見出し"で世論を誘導する手法である。
最後になったが、HUNTERは一貫して「脱原発」であることを明記しておく。