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西日本新聞と九電

佐賀知事・県議へ献金の元支店長が堂々の紙面評価

2011年10月17日 07:30

 表でファイティングポーズをとりながらも、裏ではしっかりと繋がっている。これが電力会社に対する地元紙上層部の姿勢なのかもしれない。

 10月14日、西日本新聞朝刊に掲載された「頼りになる新聞目指せ」と題する同紙モニター氏の一文に目を疑った。

 顔写真付きで、同紙の在り様に注文をつけているのは、原発立地県である佐賀の知事や県議に献金していた九州電力の元幹部だったのである。

 記事で不適切事案を指摘した相手から、紙面の評価を下されるという滑稽な事態だが、時宜を得ぬ紙面構成の背景には何があるのだろう。
(写真は九電本社が入る「電気ビル」)

筆者は元九電佐賀支店長
 この日新聞各紙は、前日に九州電力が「やらせメール」など一連の不祥事に関し国へ提出した報告書の内容や、辞任・更迭といった幹部社員への処分を拒否した同社経営陣の暴走に、そろって厳しい批判を展開した。

 西日本新聞も例外ではなく、1面および社会面の多くを使って、九電の報告書や役員会の決定を詳しく報じた上で、同社の姿勢を論難している。

 その同じ朝刊で、8面の最上段に掲載されたのが下の記事である。(クリックで拡大)

西日本新聞

 西日本新聞のモニターとして、「紙面評価」の一文を寄せているのは、NPO法人「九州・アジア経営塾」の副塾長だ。
 
 同法人は、《九州経済の自立および日本経済ひいてはアジア経済圏の近未来を支える次世代リーダーを輩出することにより、経済活動の活性化を図り、もって社会全体の利益の増進に貢献する》という目的を掲げて、平成16年に福岡県の認可を受けた特定非営利活動法人(NPO)である。

 同法人の設立を目指す動きが顕在化した平成13年の時点で、福岡県や福岡市、九大といった官・学に加え、経済界を代表して動いていたのが九電である。

 また、同法人の住所は、準備段階から福岡市中央区渡辺通2丁目1番82号となっており、これは九電本社がある電気ビルの中になる。
 つまり、「九州・アジア経営塾」は、九電と密接な関係にあるNPO法人なのである。

 そして、問題の「頼りになる新聞目指せ」という紙面評価を執筆した「九州・アジア経営塾」の副塾長は、平成19年から21年まで九州電力佐賀支店の支店長を務めていた人物だ。
 
佐賀県議、知事らに献金
 元支店長に絡んでは、平成21年2月、佐賀市選出で当選5回の自民党県議・木原奉文氏の資金管理団体「きはら奉文後援会」に対し、プルサーマル発電に関する佐賀県議らとのやり取りを記録した文書の廃棄を社内に指示していたとされる中村明・原子力発電本部副本部長(上席執行役員)らと並んで、10,000円を献金していたことがわかっている(『佐賀県 原発扱う委員長に九電側の寄附』』8月23日既報)。

 また、古川康佐賀県知事の支援団体「古川康後援会」に対しては、平成19年、20年の両年に、それぞれ30,000円を献金していた。
 
(注:左から「きはら奉文後援会」、「古川康後援会」の政治資金収支報告書。黒塗り、赤いアンダーラインはハンター編集部)

収支報告書2  寄付の内訳

 九電側から献金を受けていた事実を報じられた木原氏は、県議会「原子力安全対策等特別委員会」の委員長を辞任。古川知事も厳しい批判にさらされ、九電関係者からの献金を自粛する方針を示していた。

 西日本新聞も、九電幹部らによる木原県議・古川知事への献金問題を報じており、献金者のひとりが九電佐賀支店の元支店長であることを知っていたはずだ。

 倫理的、道義的に不適切なカネのやり取りは、もらった方はもちろん、提供した側にも責任が生じる。献金問題を報じたということは、元佐賀支店長の責任についても問うた形となるのだ。

 元佐賀支店長が行なった紙面評価は、そうした報道を含むすべての記事への評価ということになるが、これは即ち不適切さを指摘した取材対象から、自社が報じた内容に点を付けられたに等しい。

 報道機関としての姿勢にまるで整合性がないばかりか、読者を裏切る背信行為ともとれる。

モニター会議
 西日本新聞は毎年、有識者らの意見を紙面に活かすため「モニター会議」なるものを開催しているという。同紙は8月8日朝刊で、7月27日に開催された会議の内容を詳報していた。
 
 驚いたことに九電の元佐賀支店長は、第27期「モニター会議」の座長に就いており、これまで行なわれた3回の会議のうち、2回までは参加していたとされる。
 
 3回目となった7月27日は「書面参加」」というよく分からない形での「参加」だが、とても直接的な議論に加わることはできなかったはず。なにせ、この日のテーマは「東日本大震災報道」と「原発事故報道」。九電関係者が客観的に話せる場ではなかったのである。

 事実、会議の中では参加した7委員(座長も含めた委員の数は9名。この日は座長が書面参加、別の委員が欠席と記されている)のうちの1人が、《九電という九州を代表する大きな企業と西日本新聞とはいろんな関わりがあると思う。私は少し甘いんじゃないか、と評価している》と明言。同紙の九電に関する報道の内容に疑問を呈している。
 
 福岡を本社とする西日本新聞が原発事故報道のあり方を問われるということは、玄海原発(佐賀県玄海町)と川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の事業者である九電と、どのように向き合っているかを検証されるということに他ならない。

 《私は少し甘いんじゃないかと、と評価している》との前述の評価に対し、編集局長は《地元の電力会社ということで筆を緩めたりすることはない》と反論しているが、筆を緩めるどころか、九電の言い分ばかりを報じた記事が続いていたことは事実。この点は今年6月2日に、「西日本新聞への警鐘」で述べた通りなのだ。

背景
 それでは西日本新聞は何故、九電の暴走に対する厳しい報道が予想された当日に、問題の当事者とも言える人物の紙面評価を掲載するという愚行を犯したのだろうか。
 考えられる理由は2つしかない。

 まず1つは、自社の報道内容とモニター委員の経歴をチェックせず、何も考慮せずに元佐賀支店長の一文を掲載したというものだが、これはお粗末過ぎる結論だ。
 
 同社の記事チェック態勢がどのようなものか分からないが、九州を代表する報道機関である以上、「知らなかった」ということはまず考えられない。
 確信犯的な記事であったと考えるのが妥当だろうが、そうなると事は深刻である。
 
 最も忌むべき理由ではあるが、問題の献金を行なった元九電幹部の紙面評価をあえて掲載し、社内への警告として利用したとする見方である。

 同紙は、前述したように九電との密接な関係を疑われるような経済記事を連発した後、大幅に軌道修正して九電や原発への厳しい報道を続けていた。

 九電・松尾新吾会長の親族企業が、九電関連の仕事を受注していたことをスクープするなど、「西日本は腹を括った」(地元経済関係者)とまで言われるほどだったが、こうした方向性に一定の歯止めをかけ、九電との関係を修復しようとする上層部の思惑が働きはじめているのではないだろうか。
 つまりは、社内での「揺りもどし」が起きているということになる。

 不適切献金を指弾した相手に紙面の評価をお願いするなど、報道機関としては信じられない見境のない行為だが、これが周到に計算された結果だったとしたら、極めてたちが悪い。

 そうして見ると、元佐賀支店長による原稿も意味深である。論より証拠と言う。ぜひ一読していただきたい。
 
 ちなみに同紙は、同日の社会面で、「原発再稼動」についての読者の意見を集めて、賛否が五分五分とする記事を掲載しているが、どう考えてもこのタイミングで出すべき内容とは思えない。

 世論を原発再稼動容認へと誘導し、結果的に九電を助けるための布石ではないのかと疑いたくもなる。

 西日本新聞が向いているのは読者なのか財界なのか、これからの報道で見極めるしかないが、表の報道姿勢と異なる記事が掲載されたという事実からすれば、上層部が九電におもねったと見られてもおかしくない。

 九電と同紙の間に、報じられることのない深い関係が存在するのは事実なのだが・・・。



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