日本の地方自治体は、首長と議会の議員を住民が直接選挙で選ぶ、いわゆる二元代表制だ。この制度の下では、住民を代表する首長と議会が緊張関係の中で対峙し、首長が決めた自治体の施策や方針を議会がチェックする。当然、監視する側の議会とされる側の首長が癒着すれば、住民本位の行政が歪み、一部の権力者のみが利益を享受することになる。
どこの自治体でも首長と議会は一定の距離を置くものだが、鹿児島県は別世界。なんと自民党所属の県議会議長が、改選を迎える現職知事の推薦獲得に狂奔し、多くの関係者を呆れさせている。
(右が外薗勝蔵県議会議長。県議会HPより)
■「政治とカネ」で真っ黒
鹿児島県議会で議長の重職に就いているのは外薗勝蔵氏。薩摩川内市を地盤に当選6回を数えるベテラン議員だが、同氏の政治資金には疑惑がつきまとってきた。
HUNTERが、初めて外薗氏の政治資金について報じたのは2011年8月だった。この年4月の鹿児島県議会議員選挙で4期目の当選を決めた外薗氏が、鹿児島県北薩地域振興局と請負契約中だった自身のファミリー企業「外薗建設工業」に、県議選で使用する車2台を無償提供させていたことが判明。配信記事で、地方自治体と請負その他特別の利益を伴う契約を結んだ者に、当該自治体の首長や地方議員の選挙に関する寄附(特定寄附)を禁じている公職選挙法の規定に抵触する行為だとして追及していた。
(参照記事⇒「薩摩川内選出県議に公選法違反の疑い」)
同年9月には西日本新聞が、電源立地地域対策交付金を財源とする公共事業を受注した2社から、外薗氏側に政治献金や相談役報酬などの名目で約500万円が流れていたことを報じている。
「政治とカネ」で度々問題を起こしてきた外薗氏だったが、まったく懲りていないことが、昨年になって明らかとなる。
今度は外薗氏本人が、統一地方選挙が行われた平成27年の2月から4月にかけて、自身が代表を務める「自由民主党鹿児島県薩摩川内市区第二支部」に多額の寄附をし、その大半を別の後援団体「外薗勝蔵後援会」に寄附していたことが分かったのである。
自民支部を迂回させてはいるが、外薗氏のカネが後援団体に流れたのは確か。公選法は、任期満了を迎える政治家が選挙前後の一定期間内に後援団体に対して寄附することを禁じており、HUNTERは外薗議長の資金処理がこの規定に抵触していた可能性があるとみて、記事の中で厳しく指摘していた。
(参照記事⇒鹿児島県議会議長に「政治とカネ」の問題)
鹿児島県議会は昨年5月、政治とカネの疑惑にまみれたブラック議員・外薗氏を、あろうことか「議長」に選任している。
■立場かまわず知事支援
その外薗氏、自分の立場を理解できていないらしく、議長でありながら三反園訓知事の支援に動いてきた。県政界関係者によると、外薗氏は昨年来、池畑憲一元議長らと派手に自民党県議団への多数派工作を展開するなど、周囲が顔をしかめるほどの熱の入れようだという。
先月18日には、鹿児島市で開かれた県町村議会議長会の総会で県知事選に言及。議論途中であるにもかかわらず「現職の三反園知事を自民党県議団として推薦する」と発言し、二元代表制の趣旨を逸脱する愚行であるとして批判を浴びた。
県議会の議会運営委員会では、他会派の県議が「議長が公の場で特定の人物の支持を表明するのはいかがなものか」と批判。外薗氏は、謝罪の言葉を口にした上で「自民党の議員としての発言で、議長としての発言ではない」と釈明したが、町村議会議長会での発言は「県議会議長」だからこそできたもの。お粗末な言い訳を、関係者から冷笑される状況となっていた。
もっとも、外薗氏の議長会での暴走は、確信犯的に行われた可能性が高い。三反園知事の推薦願提出から2か月。三反園派と反三反園派に“分裂”していた自民党県議団は、立候補表明した伊藤祐一郎前知事(72)、塩田康一前九州経済産業局長(54)、有川博幸氏鹿児島大学特任助教(61)らから次々に出される推薦願を前に、揺れる状況だった。焦った外薗氏が“三反園推薦”の既成事実化を狙ったという見立ても存在する。
事実、「県議団として推薦する」発言から10日後の2月28日、急遽開かれた自民党の議員団総会で外薗氏ら三反園派の県議たちが大騒ぎ。恫喝と屁理屈で反三反園派の議員らを押さえつけ、現職の推薦を決めている。そこで何があったのか――。次の配信記事で詳しく報じる予定だ。