全国の自治体で政務活動費の不正使用が相次ぎ、すっかり信用を失っている地方議会。２元代表制を揺るがす事態だというのに、いずこの議会も危機感が薄い。
いまこそ存在意義を示すべきだと思うのだが、議員の質が著しく低下しているのは確かで、関西では国会議員と不倫したあげく政務活動費の詐取で辞職する愚かな市議まで現れた。
HUNTERが拠点を置く福岡市も例外ではない。本会議で決したことを、こともあろうに議長経験者がひっくり返し、自ら議会の権威を否定するという愚行を犯している。
（左は、森英鷹元福岡市議会議長。同市のHPより）
■請願審査の流れ
福岡市議会で、１件の請願を巡る動きが物議を醸している。「請願」は、憲法16条に規定する≪何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない≫という趣旨に基づき国民に保障された権利。国や地方公共団体に対して、自由に希望を申し述べるもので、提出にあたっては議員の紹介が必要となる。
受理された請願は、本会議で議題として取り上げられ、請願事案を所管する常任委員会等に審査を付託。委員会で審査された請願は、その内容を委員長が本会議に報告し、採択・不採択の結論を議決するという仕組みだ。地方議会で採択された請願は首長に送付され、趣旨の実現を求めることになっている。福岡市でも毎年多数の請願が提出され、採択・不採択を決めているのが現状だ。
■元議長の暴走―本会議の議決無視
昨年12月の平成28年第５回定例会最終日、「博多駅前道路陥没事故等の情報開示について」という請願の閉会中審査が本会議で議決された。内容は、博多駅前道路陥没事故に関する、さらなる情報の開示を求めるもの。請願審査を付託する委員会を、住宅都市局、消防局、交通局を所管し、住宅、建築、都市計画、公園、消防、地下鉄などについて議論する「第４委員会」にすることも決められていた。
閉会中審査が始まったのは先月末。ここで、自民党福岡市議団の会長で議長経験者でもある森英鷹市議が、第４委員会での審査に異議を唱えたという。“博多駅前道路陥没事故等の情報開示について”の「事故等」の中に、他の委員会で審議すべきことが含まれているという主張。なぜ、この請願が第４委員会に付託されたのかと難癖をつけ、議会事務局を呼んで経緯を説明させたという。バカげた話だが、同委のメンバーもこれを了承、議会運営委員会に差し戻すことになったという。
■身内に見放された市議団会長
異例の差し戻しを受けた議運だったが、なんと森元議長が会長を務める自民党市議団が原案通り「第４委員会での審査」にすることに賛成。民進党系会派が持ち帰ったことで結論を持ち越しているが、本会議での決定通り、第４委員会での請願審査に落ち着く見通しだという。元議長の暴走に、彼の所属会派である自民党が待ったをかけた形だ。
事情を探ってみると、自民党市議団の多くが会長である森氏に冷淡。ある自民党関係者は、こう突き放す。
「バカなことをやったもんだ。一度本会議で決めたことを、議長経験者が覆すなんて聞いたことがない。請願の内容は、どう見ても第４委員会で審査すべきもの。情報隠しをやったのは交通局なんだから、あたりまえの話だろう。結局、森さんが恥をかいただけ。自民党の中でも、孤立する格好になっている。議長経験者が、議会の権威を否定したようなもの。あの人（森氏）は、議会の重要性が分かっていない」
■議長経験者が失墜させた「議会の権威」
自民党関係者が呆れるのは当然だ。森氏は、議長まで経験したベテラン議員。請願審査の流れを知らないはずがない。受理された請願の付託先を決めるにあたっては議会運営委員会を通す形になっているが、福岡市議会では議会事務局が請願内容に関係する部局に連絡をとり、所管を確認した上で付託する委員会を確定させるのが普通。付託先を第４委員会にすることは、本会議の前に議長や第４委員会の委員長も了解していたはずなのだ。しかも、議長と第４委員会の委員長はともに自民党所属。異論があれば、昨年12月の本会議前にいくらでも述べる機会があった。本会議の決定事項を覆し、議会の権威を失墜させた森氏の行動は、批判されて当然なのである。議長経験者が本会議の議決事項を平気で覆すことの愚を、森氏はまるで分っていない。
森元議長を巡っては、2014年に政治とカネの問題が発覚。買収の疑いがあるとして、HUNTERが取材結果を配信していた。
【参照記事】
・「森英鷹福岡市議会議長の後援団体に「差額買収」の疑い」
・「森福岡市議会議長 資金管理団体に供応接待の疑い
