今月18日に投開票が行われる福岡市長選で、現職・髙島宗一郎氏(44)の選挙公約がネット上に見当たらない。HUNTERには、「立候補者の公約の検証を行いたいが、一体どこに書いてあるのか?」といった問い合わせが多数寄せられており、確認したところ、選挙戦も終盤に差しかかった11月12日現在、髙島氏の公式サイトやブログなどには今回の選挙における公約がまったく表記されていないことが明らかとなった。
「情報発信」を掲げて2010年の市長選で初当選した高島氏に心境の変化でもあったのか、それとも単なる“手抜き”なのか……。
◆ネット信奉者が一転して“手抜き”
選挙における立候補者のネット利用は、2013年4月の公職選挙法の改正で解禁となっている。髙島氏の公式サイトでは、各種メディアによる市政に関する髙島氏へのインタビューが多数掲載されており、熱心にネットを利用していたことは明らかだ。
これまで髙島氏は、フェイスブックやツイッター、ブログで市長として積極的に情報を発信してきた。ネット上に仮想行政区「カワイイ区」を立ち上げたとこもある。市長就任直後の2011年度には職員の希望者を集めて、SNSの利用について大々的な研修を行っていたほどだ。それが今回の選挙に限って、ネット上での「公約」発信が皆無。“手抜き”を咎められても仕方のない状況だろう。
ブログでは11月10日、「たくさん走って、たくさん聞いて、たくさん話してます! 全てがこの後4年間の糧です ありがとう」(原文ママ)として、白いジャージ姿で選挙運動を行う様子を伝える画像数点を掲載しただけだ。出陣式で「市民の声を拾っていく」と宣言した髙島氏だが、選挙初日に訪れた小呂島、玄海島に関する11月5日更新の記事では、「お魚くわえたどら猫を初めて見たけど、玄界島では猫が美味しそうな大きな切り身をくわえてた笑」(原文ママ)とコメント。市民の声から市政の課題を見出し、それをどう解決するかという姿勢は微塵も感じられない。
■これが「公約」?
福岡市選挙管理委員会が配布した選挙公報には、「福岡の成長を、さらに加速させる、これからのビジョン!」として、髙島氏が思い描く市政の“方向性”が書かれている。大まかにあげると、国際会議やスポーツ大会などの誘致や九州の玄関口としての機能強化、都心部渋滞緩和のためのロープウェイの導入、旧市街および農山漁村地域の活性化、起業支援、子育て支援、女性の活躍推進、医療的ケア児の受け入れ、人生100年時代への取り組み、自治協議会など地域活動の支援、持続可能な財政運営(長期的な市債残高削減)など。しかし、どのように実現していくのか、その具体的手法については書かれておらず、いま福岡市で社会的な課題としてあがっている事柄を並べたて「何とかします!」と言っているようなものだ。
これが果たして選挙公約と呼べるかどうかはさておき、同様の内容が髙島氏の選挙ビラにも書かれている。併記されているのは、2期8年の実績。市税の増収、人口増、市債残高削減、ノンステップバスの普及促進、全小中学校へのエアコン整備完了など。こちらは、結果が出ているとあって具体的数値も書かれているが、髙島氏個人の市長としての実績ととらえられるかは微妙。税収は企業の経済活動の結果であり、人口増は、都市部への人口流入という社会現象、市債残高削減は髙島氏の市長就任前から具体的な削減計画が決まっていた。小中学校のエアコン整備については、近年の猛暑を受けて国全体で導入が進んでいる。なお、髙島氏肝いりの施策としてさまざまなシーンで強調する起業支援については、その実績となる数値が一切示されていない。
その選挙ビラだが、多くの支持者が集った告示日の出陣式ですら配られておらず、選挙スタートから数日経って頒布され始めるという状況。髙島氏の選挙公約が何か、争点は何かを把握している市民は少ないのではないだろうか。
福岡市選挙管理委員会は、有権者に投票を呼びかける市長選の広報にウルトラマンを起用したり、選挙とは無縁と思える筋トレ動画を公開したりと啓発に躍起だ。しかし、4年に一度、市民が今後の市政について考える重要な機会であるにもかかわらず、現職候補者の公約発信は限定的だ。盛り上がらない市長選――。「投票率20%台」が懸念される状況を招いているのは誰か?