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“人権より国家” ― 憲法改正草案に見る安倍自民党の正体

2016年2月23日 09:20

自民党が公表した「日本国憲法改正草案」 夏の参院選に向けて、憲法改正への意欲を剝き出しにする安倍晋三首相。今月2日の衆院予算委員会では、9条2項について「7割の憲法学者が自衛隊について憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきではないか、という考え方もある」と述べ改正の必要性に言及。22日には、出演したラジオ番組で憲法9条に自衛隊の存在が明記されていないとして、改正の必要性を強調している。
 首相が目指している新たな憲法とは、平成24年に自民党が公表した「日本国憲法改正草案」。緊急事態条項など戦前色の強い内容に批判がある危険な改正案だが、現行憲法と比較すれば、安倍自民党のとんでもない正体が浮き彫りになってくる。

自民党憲法改正草案の危険性
 自民党は平成24月4月、平成17年の同党憲法改正案に修正を加える形で「日本国憲法改正草案」を公表している。安倍首相が目指している「美しい国」とは、この改正憲法によってもたらされる社会ということになる。同党の改正草案については、度々その危険性を報じてきた。

自民党の憲法改正草案を知っていますか?≫(2013年5月7日配信)
安倍首相国会発言で見えた「国家総動員法」の時代 ≫(2015年11月12日配信)

 自民党の改正案は、「個人」より「国家」を優先する考え方に基づくもの。そのため、「緊急事態条項」などという戦前の国家総動員法をなぞった極めて危ないものも含まれている。

基本的人権の不可侵性を否定
 この危険な改正草案のなかで、自民党の正体が如実に示されている改正ポイントがある。現行憲法でいえは「第十章」、憲法が「最高法規」であることを明示した一連の条文だ。これが自民党案ではどう変えられているか――。

比較

 憲法が最高法規であるとの前提で、その憲法が規定する「基本的人権」の不可侵性を謳った97条が、自民党案では削除されている。自民党は、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」として認めていないのだ。“個人より国家”という考え方に立つ同党にとっては、憲法が国家の動きにブレーキをかける最高法規であってはならない。自民党が目指す憲法は、基本的人権を守るための最高法規ではなく、国家のための最高法規なのである。その方向性は、改正案にあるこの後の条文でより明らかとなる。

最優先は「国家」
 憲法優先を定めた現行憲法の98条とそれに該当する自民党案の101条に違いはない。だが、権力側に憲法擁護義務を課した99条はまったく異なる性格のものに変容する。現行の99条にあたる自民党案102条は、「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」として、国民への憲法尊重義務を課しているのだ。自民党が描く理想の憲法が、国家権力ではなく国民を縛るものである証左だ。

 そもそも憲法は、国家権力に縛りをかけることで国民の人権や自由を保障するもの。だからこそ現行憲法は、99条で公務に就く人にのみ憲法擁護義務を負わせている。権力側が定めた法律は国民が守るべきものだが、憲法は国家=権力側が守るべきものなのだ。しかし、自民党の考え方は逆。まず国民に憲法を尊重せよと言う。自民党の目指す憲法が“個人より国家”という全体主義に立脚したものである以上当然の帰結なのだが、この条文には不同意。基本的人権の不可侵性を否定するような憲法を尊重できるわけがなかろう。

 安倍首相が憲法改正にこだわっているのは、国際紛争を解決する手段として「戦争」を遂行できるようにするためであり、そこのことは9条改正を強調し始めた姿勢を見ても明らかだ。ストレートに言えば、安倍首相の目指すところは戦争のできる国家。憲法は、そのための道具に過ぎない。国民に、平和を否定する憲法を尊重しろと迫る自民党は、かつての寛容さを持った政党ではなくなっているのである。安倍自民党の正体が、そこにある。

自民党の憲法がもたらす「戦前」
 ところで、最高法規を謳った現行憲法第十章が、自民党案では第十一章になっている。ずれた理由は、自民党案に「新たな第九章」が加えられているからだ。その章こそが緊急事態条項。ここでもう一度、緊急事態条項のお手本となっている「国家総動員法」との比較をしておきたい。

「国家総動員法」との比較

 1938年(昭和13年)、日中戦争が泥沼化する状況で制定されたのが戦時法規である「国家総動員法」。国家の名において国民に塗炭の苦しみを与えた同法の第一条にある立法趣旨と、自民党憲法改正草案にある緊急事態条項の内容とは、国に権限の一切を委ねるという点でまったく同じもの。戦争遂行のためには、人も物も国の統制下に置かれるということだ。自民党の憲法改正草案が、いかに危険なものであるか、よくわかる事例であろう。

 夏の参院選に向けて、安倍首相は憲法改正を声高に叫ぶことだろう。自民党の憲法観に同意するかどうか ―― そのことが問われる選挙になるのは確かだ。



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