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総裁選「地方票」が示す安倍政治の終焉

2018年9月25日 09:05

e0374d10d7decdd98da30a68cd4e663fb7b2910e-thumb-160 xauto-20605.jpg 自民党の総裁選が終わった。下馬評通りに安倍晋三の3選となったが、「553票対254票」という数字は、石破茂元幹事長の“善戦”を示すものだった。とくに地方票は「224票対181票」。国会議員の8割が安倍になびく中、地方の党員は「安倍ではダメ」という明確な意思表示をした形だ。
 総裁選の過程でハッキリと見えたのは、安倍政治の実相。石破派の閣僚や地方議員を恫喝するという手法を、安倍は確かに容認した。「嘘とごまかし」で国民を欺いてきた安倍自民党が、ついに暴力団並みの組織に成り下がった証左だろう。
 危険な安倍政治が、ようやく終焉を迎えつつある。

■「恫喝」が安倍の選挙手法
 「石破さんを応援するんだったら辞表を書いてからやれ」と言われたのは石破派の斎藤健農相。露骨な恫喝だったが、首相は脅した自陣営の人間を庇った。

 石破氏とのテレビ討論で首相は、「調べたが、そんなことを言った人はいない」と色をなして反論。しかし、それ以前のテレビ討論では「選挙はそんなものでしょう」と、事実上農相への恫喝を容認している。安倍の選挙には恫喝がつきものということだ。

■かつては「ニッカ、サントリー、オールドパー」
 1964年の自民党総裁選は、現金が飛び交う酷いものだった。その凄まじさから「ニッカ、サントリー、オールドパー」という隠語が生まれたほど。池田派の領袖である池田勇人、佐藤派の佐藤栄作、藤山派の藤山愛一郎の3氏が立候補したため、2派から現金をもらった議員を“ニッカ”、3派からの議員を“サントリー”、どこからでももらう議員を“オールドパー”と呼び、票読みに生かしたという。

 ただし、この頃の総裁選は「恫喝」なし。現在のように権力の集中がなかったため、実弾攻勢かポストの約束手形を切るのが主で、ひたすらお願いするしかなかった。恫喝は、今のように脅す側の力が抜きんでているからこそ可能なのである。

 特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、安全保障法制、改正公選法(参議院6増)、カジノ法――。国民の反対を押し切って強行採決を繰り返してきた安倍政権の専売特許は“嘘とごまかし”だ。「真摯」「丁寧」という口先だけの言葉でその場をしのぎ、あとは時間の経過とともに問題が風化するのを待つ。総裁選で、嘘とごまかしに加わったのが「恫喝」。ヤクザ業界そっくりの構図だが、これこそが「一強」の正体である。

■地方票の実態
 安倍政権の実態に気付いている自民党員は少なくない。下は、自民党の総裁選挙管理委員会が所属議員に配布した地方党員の投票結果だが、47都道府県のうち10県で石破票が安倍票を上回る結果。安倍が圧倒的な強さを見せたのは地元の山口県と二階俊博幹事長の和歌山県くらいで、あとはほぼ互角の数字だった。

地方票.png

 政権の要・菅義偉官房長官の地元神奈川は、所属議員20人の内19人が安倍支持だったが(小泉進次郎は党員票の投票終了後に石破支持を表明)、安倍に投票した県内の党員は有効投票数の約6割。安倍の盟友麻生太郎のお膝元福岡県も、国会議員全員が麻生支持で動きながら6割ちょっとの表しか取れていない。

 党員全体の数と比較すれば、状況はさらに厳しい。自民党員は104万人。安倍の得票は34%を占めるにとどまる。石破票は27%。有効投票数での比較「55%対45%」より、差は縮まる。自己保身しか考えていない国会議員より、一般党員の方がまともな判断ができるということだろう。

 地方の党員は、地元選出の国会議員が集めるものだ。329人もの議員が安倍を支持した以上、地方票も圧倒的に安倍が抑えると考えるのが普通だが、結果は224対181(355,487票対286,003票)の算定。65%~70%の党員票を獲得目標にしていた安倍陣営にとっては、石破の45%獲得は大変なショックだったに違いない。しかし、安倍とその周辺は現実と向き合おうとしない。

■無責任内閣
 石破の善戦をムキになって否定したのは麻生太郎財務相。この人の辞書に、「反省」や「真摯」という言葉はない。財務事務次官のセクハラを、最後まで擁護した時の姿勢そのままだ。麻生だけでなく、安倍の周辺は皆、責任を取らない卑怯者ばかりである。

 今年になって起きた役所絡みの“事件”を振り返ってみる。公文書の隠蔽、改ざん、廃棄、虚偽答弁、収賄と霞が関はまるで犯罪者の集まりだ。官僚の処分が相次ぐ状況だが、政治家=大臣は、だれ一人責任を取っていない。

 2014年、安倍政権は内閣官房に「内閣人事局」を設置し、官僚主導で行われてきた役所の人事権を内閣人事局で一元管理するようになった。官邸主導で審議官級以上の幹部人事を決定することを目的とするもので、任命責任は政治にあるはずだが、度重なる官庁の不祥事で辞任した大臣は一人もいない。居直り組の筆頭が麻生であることは、誰の目にも明らかだろう。

■「一強」の終焉
 安倍は、都合が悪くなると逃げるか、開き直って怒り出すかのどちらか。森友学園や加計学園の問題は、じつに象徴的だ。疑惑の中心人物である安倍昭恵首相夫人と手をつないで政府専用機のタラップを昇り降りする首相夫妻を見るたびに、不愉快になる国民は少なくあるまい。

 自民党員の半数近くが安倍政治にダメ出ししたのは事実であり、報道で「終わりの始まり」という言葉が頻出する状況だ。今月30日に投開票が行われる沖縄県知事選挙では、政権が総力戦を展開しているにもかかわらず、自民・公明が推す候補は苦戦している。ちなみに、沖縄の自民党員の投票率は38.94%。総裁選の結果が、知事選の終盤戦に影響を及ぼすのが必至の状況だ。沖縄で与党系の候補が敗れるようなことになれば、安倍政権はダッチロール状態に陥る可能性がある。

 来年は統一地方選と参院選。「安倍で勝てるかどうか」という問いへの答えは、もう出ていると思うが……。



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