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安倍晋三の「真摯」とは……

2018年10月22日 07:50

img_primeminister.jpg 「真摯」の真は“まこと”、「摯」には“まじめ”・“ひたむき”・“至る”といった意味がある。「真摯に受け止める」とは、“心をまっすぐに、まじめに受け止める”ということだ。国民から批判の声が上がる度、安倍晋三首相が口にしてきた言葉だが、一度として真摯な対応がなされたことはない。
 政権が総力を注いで敗れた沖縄知事選で示されたのは、「名護市辺野古での米軍基地建設反対」の民意。首相は、その結果を「真摯に受け止める」と発言した。しかし政府は17日、米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の辺野古への移設工事を進めるため、県が決めた埋め立て承認撤回への対抗措置として、行政不服審査法に基づく審査請求を国土交通相に提出した。安倍の言う「真摯」とは、何なのか――。

■知事選史上で最多得票 民意は「辺野古反対」
 下は、1990年から今年までに行われた8回の知事選の、自民党系の候補と非自民系候補の得票である。沖縄県知事選で玉城デニー知事が獲得したのは、歴代知事選での最多得票。「39万6,632票」の意味は重い。

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 4選を目指した自民系の西銘順二氏を基地反対派の大田昌秀氏が破り、知事に就任したのが1990年。1995年に起きた米軍兵士による少女暴行事件を契機に、沖縄の基地反対運動が激化する。1996年4月には、橋本龍太郎首相(当時)とモンデール米駐日大使が普天間基地返還に合意。1997年に辺野古が移転先として浮上する。

 曲折を経て、辺野古が移転先に決定したのは2010年。この間、2004年8月には普天間基地所属のヘリコプターが沖縄国際大学に墜落するという事件もあった。

 県民の反発をよそに、2013年12月に当時の仲井眞弘多知事が埋め立て申請を承認。沖縄の怒りを買った仲井眞氏は、翌年の知事選で惨敗する。しかし政府は移設工事を止めようとせず、昨年4月には辺野古沿岸部を埋め立てるため護岸建設工事に着手。今年8月には埋め立てに向けた土砂投入を予定していたが、翁長雄志前知事の死去を受けて工事を延期していた。

 県は、同月末に翁長氏の遺志でもあった埋め立て承認の撤回を決定。その後、翁長氏の後継指名を受けた玉城デニー氏が知事選で勝利する。沖縄県民は、知事選史上最大の得票で「辺野古移設反対」の意思を表明した形だ。(*下の写真は、キャンプ・シュワブゲート前) 

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■変わらぬ民意を無視する安倍
 辺野古移設を巡る政治的な動きをまとめたが、2014年1月の名護市長選以来、沖縄の民意は常に「辺野古移設反対」だった。

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 2014年は、名護市長選に続いて行われた9月の名護市議選で移設反対派が過半数を得て勝利。同年11月の沖縄知事選では、「オール沖縄」をバックにした翁長氏が、10万票の大差をつけて仲井眞弘多元知事を破った。直後の総選挙でも、自民党の公認候補4人が惨敗。2015年の参院選では、沖縄担当相を務めていた島尻安伊子氏が落選している。本土なら、この段階で移設工事が止まり、方針転換が図られるはずだ。だが、なんど沖縄県民が辺野古移設反対の意思を示しても、安倍政権は止まらない。安倍政権の根底にあるのは、「沖縄だからいいだろう」という差別意識である。

 沖縄は、先の大戦で本土の捨て石にされ、国内唯一の地上戦を経験した。戦後は“銃剣とブルドーザー”で土地を強奪され、どこへ行っても基地だらけという現状だ。沖縄の米軍施設は31。区域面積は184,961千m2にのぼり、県土全体の約1割を占める。ただし、沖縄本島に限れば15%が米軍基地というのがその実態。丘陵地や台地が県土の大部分であることを考えれば、異常な状態であることが分かる。米軍の31施設のうち13施設は「演習場」。暮らしに近接して、砲弾・銃弾が飛び交う。国土の0.6%の面積に、米軍基地の7割超が集中するのが沖縄。46都道府県のどこを探しても、これほど危険な自治体はあるまい。(*下の写真は、宜野湾市街地にある米軍普天間飛行場)

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 安倍政権は、沖縄の怒りを「カネと利権」でなだめようと躍起になってきた。本土の政治家が強調する「沖縄の振興」という言葉は、その象徴だ。県民所得が全国最下位の沖縄に対し、「沖縄の振興」や「基地負担の軽減」は、本土がやるべき最低限の贖罪だろう。その上で、「辺野古移設反対」の民意をどう受け止めるかかが問われている。

 《沖縄県民斯(か)く戦へり 県民に対し後世特別の御高配を賜らんことを》―玉砕直前、沖縄根拠地隊司令官だった大田実少将が海軍次官あてに発した電文の一説である。県民の4人にひとりが犠牲になったといわれる沖縄戦について、あるいは基地の70%以上が沖縄に集中する現実について、本土はあまりに無頓着であり続けてきた。戦後、「振興予算」という形で沖縄への予算面での手当てはなされたものの、本当の意味での《特別の御高配》など、ついぞ実現していない。

 先月の沖縄知事選で政権が総力を挙げて支援した佐喜眞淳氏が惨敗した。その直後、安倍首相は「選挙の結果は政府としては真摯に受け止め、今後、沖縄の振興、基地負担の軽減に努める」と語っている。しかし、岩屋毅防衛相は先週17日、辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回した県への対抗措置として、行政不服審査法に基づく審査請求を提出。撤回の効果を止める執行停止も申し立てた。この政府の対応の、どこが「真摯に受け止めた」結果なのか――。

 特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、安保法制、モリカケ疑惑――。政権への批判が高まる度に、安倍が口にしてきたのが「真摯」という言葉だ。一連の経過を見れば、この政治家が「不誠実」であり、「不真面目」であり、「横暴」であることが分かるだろう。安倍の「真摯」とは、つまりそういうことなのである。



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