伊藤祐一郎鹿児島県知事が建設を強行した産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」をめぐり、事業主体である県の外郭団体「公益財団法人 鹿児島県環境整備公社」が、公金を餌に自らが被告となっている裁判をつぶそうと画策していた。
同公社は県の100%出資団体で、理事長は副知事。職員の大半も県からの出向だ。カネと力で原告の住民を黙らせようとしたのは、伊藤祐一郎知事をトップとした「鹿児島県」なのである。
それではなぜ、県は司法制度を否定する暴挙に及んだのか――背景をさぐった。
注目される裁判の行方
「エコパークかごしま」をめぐっては、公金支出差止請求など3件の訴訟が進行中。県がどうしてもつぶしたかったのは、地元自治会関係者ら224名が原告となって鹿児島県環境整備公社を訴えた「産業廃棄物処分場建設差止請求事件」だとみられる。平成25年8月、鹿児島地裁に提起されたこの裁判で、原告側が処分場の建設中止と操業停止を求めた理由は以下の通りだ。
請求の趣旨は、まともな大人なら十分理解できる内容だ。全国にある管理型処分場で、遮水シートが破れたケースは枚挙に暇がない。仮にエコパークかごしまで漏出事故が起きれば、汚染水が場内直下の「阿茂瀬川」に流れ出し、その後は県内一の河川で水道水にも利用されている「川内川」に達する。また、エコパークかごしまがある地元の霊峰・冠嶽の山麓は、豊富な地下水に恵まれているため、周辺地域の貴重な水源地となってきた場所。地下への汚染水漏出は、周辺住民の死活問題にもなりかねないのである。下は、処分場に接する山の裏側の状況。山肌を削り法面(のりめん)となっているところに、現在も大量の地下水が噴き出しているのが分かる。同じ現象が、処分場側にも起きているということだ。
そもそも、エコパークが「絶対安全」とは言えないことを、県や公社が認めている。処分場工事が始まる数年前の住民説明会の記録には、次のような記述があった。
住民:飲用をはじめ全ての水を地下水で対応しているが、地下水への影響はないのか。県側:処分場においては、遮水工により浸出水の地下水への汚染を防止することとしており、遮水工については、2重の遮水シートによる遮水構造とすることを基本としている。また、この遮水工に加え、万が一に備え、漏水感知システム及び自己修復機能をバックアップ機能として備えることとしている。
《万が一》とは漏出事故のこと。だからこそ、漏水感知システムや自己修復機能といったバックアップ機能が必要になるのだ。鹿児島県は、事故が起きる可能性を十分認識していたことを示している。砂防指定地や急斜面崩壊危険箇所については、≪鹿児島・薩摩川内処分場に重大欠陥 隠蔽された「砂防指定」≫(2012年5月21日配信)、≪だまされた鹿児島県民 薩摩川内産廃処分場は「急傾斜地崩壊危険箇所」≫(2012年6月13日配信)に詳しい。冠嶽の霊山性については、別稿で報じる予定だ。
公社暴走の背景
県側にとっては極めて分が悪い裁判。それでも伊藤県政は全面的に争う構えを崩しておらず、これまで次の6回の審理が行われている。
第1回期日:平成25年11月12日
第2回期日:平成26年 2月4日
第3回期日: 同年 4月14日
第4回期日: 同年 6月30日
第5回期日: 同年 9月16日
第6回期日: 同年 12月15日
注目は第6回公判の日付である「12月15日」だ。裁判潰しに動いた公社は、なんとしてもこれ以前に自治会を揺さぶり、訴訟取り下げを実現したかった。エコパークかごしまの竣工式を「12月20日」に控えていたからである。15日の公判に訴訟取り下げを間に合わせるには、事務手続き上、少なくとも2日程度の時間が必要。自治会の臨時総会が12日だったため、翌13日の取り下げ申し出が絶対条件だった。焦っていたことは、公社側が作成して自治会役員らに渡した『臨時総会 提案議題(案)』の記述を見ても明らか。そこには、訴訟取り下げの申し出期日を、わざわざ「総会承認の翌日」と明記していた(下がその箇所。赤いアンダーラインと矢印はHUNTER編集部)。
臨時総会に先立って行われた自治会役員会は12月5日。公社側は、3日に自治会会長と副会長に『議案の提案理由説明(案)』と3枚つづりの『臨時総会 提案議題(案)』を渡していた。その後、役員会で訴訟取り下げの話が出なかったことから、他の役員にも同じ文書を届け、臨時総会で議論するよう依頼していた。竣工式を前に、訴訟を取り下げさせることができれば万々歳。竣工式には、処分場建設反対を唱えてきた地元自治会も参加するよう呼びかけていた。一連の動きを時系列で整理すると、次のようになる。
・12月3日 自治会会長・副会長に訴訟取り下げの議案文書を手交
・12月5日 自治会役員会
・12月12日 自治会臨時総会
・12月15日 第6回公判
・12月20日 エコパークかごしま竣工式
念のため、自治会役員らに届けられた公社側作成の文書を再掲しておく。
裁判の被告である公社の役人が、訴訟取り下げの議案を原告側に届けるという暴挙。しかも、「餌」にしたのは3億円の「自治会活動等支援金」だった。“薄汚ない小役人の発想”としか言いようがない。
シラを切る公社
なぜ、こうした愚行で住民を振り回すのか――今月5日の午後、薩摩川内市川永野の「エコパークかごしま」内にある県環境整備公社を訪ね、真意をただした。最初に聞いたのは、訴訟取り下げの議案を作成し、自治会側に配布した事実があったのかという点。これに対し、応対した公社の幹部は頭から否定。文書を作成し、自治会側に届けたとされる専務理事(事務局長兼任)は不在で、問題の文書については、何度確認しても「見たことがない」と言う。専務理事は5時頃には戻るというので、出直して話を聞くことになった。
地元自治会に訴訟取り下げの働きかけをしたのは、公社の専務理事である。直接専務理事と話したという関係者の証言からも、それは明らかだ。約束の5時に公社を再訪したところ、専務理事は用件が長引き帰ってこないという。やむなく、幹部職員に問題の文書を提示し、公社としての見解を求めることとなった。ところが……。