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「恋するフォーチュンクッキー」自治体版動画の背景(下)
― 浮上した謎の人物 ―

2014年3月17日 08:30

恋するフォーチュンクッキー 昨年、多くの自治体に広がった「恋するフォーチュンクッキー」(AKB48)の動画作成。楽曲に合わせて踊る職員や市民の姿を編集した、いわゆる恋チュン動画は、またたく間にネット上の話題となり、多いところで370万回以上のアクセスを記録している。
 なぜこれほどまでに自治体の恋チュン動画が生まれたのか――。いくつかの自治体に対する情報公開請求を通じて調べる中、複数のケースに、佐賀県在住の人物が介在していたことが明らかとなった。
 恋チュン動画を作成したそれぞれの自治体に、この人物についての情報を求めたが、連絡先などは「個人情報」だとして非公開。税金を使った事業でありならが、不透明感ばかりが漂う状況となった。

官僚後輩に佐賀県知事が口利き
 HUNTERが注目したのは、鳥取県のケース。約120万円をかけて作成された鳥取県バージョンのアクセスは現在までに約42万回。動画作成の発端となったのは、佐賀県庁職員からの1通のメールだったことが、同県が開示した文書で明らかになっている。佐賀県職員のメールには次のように記されていた。

メールの現物コピー《AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」を企業、団体で踊りAKB公式Yuo tubeでアップするという動きが、はやっています。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、佐賀県verを古川知事も出演し、収録し、130万回を超える再生回数をカウントしています。
本日は、神奈川県verも公開され、黒岩知事も登場されておられます。
ついては、皆さんの県でも、恋するフォーチュンクッキーを踊りませんか???というのが今回のメールの趣旨です。
添付ファイルのとおり、佐賀県にあるリエゾンラボという会社が、画像編集、AKBとの交渉などを引き受けてくれます》(右がメールの現物コピー)

 このメールの最後にはこうある。
《つきましては、お手数ですが、別添のチラシを、知事さまにご高覧いただきますようご配慮いただければ幸いです。
なお、こうしたメールを各県へ送付することにつきましては、古川知事の了解を得ておりますので、ご理解のほど、よろしくお願います

 九電・やらせメール事件でいまだに疑念が持たれる古川康佐賀県知事が了承しているので、鳥取県知事に「別添のチラシ」を見せろと述べている。メールの文言は馬鹿丁寧だが、ずいぶん上から押さえつける感じだ。確認したところ、鳥取県の平井伸治知事は自治省(現・総務省)の昭和59年入省組。57年同省入省である古川知事の2期後輩だった。しかも二人とも東大法学部卒。なるほど、前後して東大⇒自治省と同じ道を歩んだ間柄。先輩からの口利きとあらば、断れなかったのだろう。

隠された「チラシ」
 それにしても、文脈からいって、「別添のチラシ」は恋チュン動画作成に関する何らかのお誘い。しかも、佐賀県側が紹介した「リエゾンラボ」という業者が作ったものである可能性が高い。一体どんなチラシか気になるところだ。しかし……ない!鳥取県が開示した文書の中には「別添のチラシ」などない!

 鳥取県に、開示された文書から「別添のチラシ」が抜けていることを指摘したが、「完結した情報公開なので、再度請求してもらいたい」という。決裁が終わり次第、改めて開示ということになったが、どう見ても「別添のチラシ」だけ意図的に外したとしか思えない。案の定、鳥取県の所管課は、“リエゾンラボについての情報を非開示にするがいいか”と言い出した。やはり「チラシ」にはリエゾンラボが関与していたのだ。

 鳥取県が恋チュン動画作成に至った発端は、前述した佐賀県庁職員からのメール。この点については鳥取県側が認めており、開示された文書の一番上にもメール文のコピーがある。問題のメールが公費支出に大きな役割を果たしたのなら、勧誘アイテムとして添付されたチラシの情報はオープンにすべきであろう。知事や県庁職員だけが見れて、情報公開請求で非開示というはいただけない。なにより、恋チュン動画鳥取県バージョンには、約120万円もの税金が投入されている。動画作成に踏み切った過程を示す文書を請求された場合、開示する段階で「別添のチラシ」を省くことは不適切。チラシにある業者の情報を非開示にすることも、また不適切というほかない。“隠した”と言われてもおかしくない格好だ。

「動画作成は他県の勝手」 ― 開きおなる佐賀県職員
 佐賀県職員からのメールは、どう見ても恋チュン動画作成の勧め。しかも、特定の県内業者を売り込んだ形となっており、便宜供与さえ疑われる。なぜリエゾンラボだけを特別扱いしたのか――。

 改めて「リエゾンラボ」について調べてみたが、佐賀県職員のメールにある「会社」としての登記(法人登記)が見つからない。メールを発信した佐賀県政策監グループの職員に、直接話を聞くことにした。

 ―― 「リエゾンラボ」を鳥取県に紹介しているが、そこは法人登記しているのか?
 佐賀県職員 登記しているかどうか分からない。

 ―― よく分からないようなところを、他県に紹介したのか?
 佐賀県職員 危機管理・広報課という部署があり、そこから紹介を頼まれた。同課の係長に聞いてもらいたい。

 どうも要領を得ない。自分が他県の知事にまで勧めた動画作成と業者について、この職員は「よく知らない」と言うのだ。

 やむなく、佐賀県統括本部の中にある危機管理・広報課の係長に、リエゾンラボを紹介した理由と法人登記の有無を尋ねてみたところ、「部下がやっていたことなので、詳細を調べて電話する」という。歯切れの悪いことこの上ない。しかも、典型的なたらい回しだ。

 数時間後、係長から連絡がきたが、部下に聞いたところリエゾンラボは「個人商店」の屋号なのだという。本当に知らなかったとすれば、ずいぶんいい加減な紹介の仕方だ。他県への紹介を政策監グループに頼んだ理由についても、明快な説明はなかった。

 そればかりではない。係長はこう言い放ったのである。
動画を作成するかどうかは他県さんが決めたこと
 聞いた瞬間、あ然となってしまった。勧めておいて“そちらの勝手”はないだろう。無責任極まりない言葉だ。公費支出についての認識が欠如しているだけでなく、強弁ともいうべき言い訳。後ろめたいことでもあるのかと、余計な勘繰りをしなければばらない状況となってしまった。佐賀県は、知事も職員もどうかしている。

浮かび上がる一人の人物
 ここで、佐賀県からの怪しい誘いに乗った鳥取県側に、動画作成までの過程を確認してみた。

 ―― 佐賀県職員からのメールで紹介された「リエゾンラボ」は、鳥取県バージョンの動画作成にかかわっているのか?
 鳥取県職員 じつは、佐賀県さんの紹介で、リエゾンラボに動画作成の相談をしていた。

 ―― しかし、鳥取県の支出関連文書には、リエゾンラボという名称は出てこない。そこは法人登記していないが……。
 鳥取県職員 リエゾンラボは○○さん(以下T氏と表記)という個人の方が使われている名称だと思う。動画作成までをそのT氏にお願いした。

 ―― しかし、鳥取県の契約相手先は、東京のホープスという会社になっている。リエゾンラボもT氏も出てこない。
 鳥取県職員 じつは、リエゾンラボをやっているT氏が、ホープスの社員ということで、随契になった

 とんでもない話だ。鳥取県の恋チュン動画担当は、佐賀県側が「会社」だとして紹介したリエゾンラボが、じつは個人商店に過ぎないことを知っていたということになる。しかも、リエゾンラボと称するT氏の言葉を鵜呑みにして、特命随契という手法で東京の業者に業務を発注していたのだ。決裁文書に記された業者選定理由―《この度の動画は、AKB48を運営している(株)AKSから公式動画の認定を得ることをひとつの目的にしていることから、(株)AKSにコネクションのある当該法人のほかにできる者はいない。なお、神奈川県、佐賀県における「恋するフォーチュンクッキー」公式認定動画も当該法人が制作・支援を行っている》は、はなから虚偽だった可能性さえある。そうなると、なおさら不適切な公費支出ということになる。

 ―― 佐賀県や神奈川県から、ホープスが動画の作成・支援を行った事実はないと聞いている。決裁文書にある《神奈川県、佐賀県における「恋するフォーチュンクッキー」公式認定動画も当該法人が制作・支援を行っている》という記述は虚偽ではないのか?
 鳥取県職員 その話が事実ならば、そういうことになるかもしれない。ただ、リエゾンラボのT氏からは、佐賀や神奈川の動画作成を、ホープスがやったと聞かされていた

 いやはや、次から次へと驚かされる話ばかりだ。鳥取県職員の説明が事実なら、リエゾンラボの代表者T氏は、実態と違うことを申し向け、ホープスに仕事をもらたしたことになる。不適切な営業手法であることは言うまでもないが、一連の流れが恋チュンという楽曲の爽やかさを吹き飛ばしてしまいそうだ。

神奈川でもT氏の影
 ここで改めて神奈川県に話を聞いてみた。『リエゾンラボのT氏からは、佐賀や神奈川の動画作成を、ホープスがやったと聞かされていた』という鳥取県側の説明を確認するためである。

 ―― リエゾンラボという名称を知っているか?
 神奈川県職員 聞いたことがある。T氏のことだと思う。

 ―― 神奈川県が恋するフォーチュンクッキーの動画を作成した過程で、T氏はどう関わったのか?
 神奈川県職員 T氏の方から、動画作成をやってみないかという誘いがあったと思う。T氏に相談していたことは事実だ。

 ―― 神奈川県バージョンを作成する過程に、ホープスという会社が関わっているか?
 神奈川県職員 神奈川県バージョンの動画作成は、業務を発注した観光協会によると「KRK」という会社に頼んでいる。ホープスではない。

正体不明
 佐賀、神奈川、そして鳥取の恋チュン動画自治体バージョンにリエゾンラボのTという人物が深くかかわったのは事実のようだ。しかし、前述したように「リエゾンラボ」という名称での法人登記はなく、リエゾンラボを鳥取県に紹介した佐賀県庁でさえ、その実態について詳しい説明ができない状況。しかも、どの自治体も、リエゾンラボとT氏のことについては「個人情報」だとして、連絡先などを教えることを拒んだ。不透明なこと極まりない。ネット上でリエゾンラボについて検索したところ、佐賀県内に該当すると思われる人物がいるにはいるが、連絡先などは分からず、話を聞くことすらできていない。何県もの恋チュン動画作成に関わりながら、T氏は正体不明なのである。

 T氏は、少なくとも3県の恋チュン動画に関わり、そのうち鳥取県のケースでは、業務実態のない会社を、あたかもあったかのように申し向けて、仕事を受注させていた。恋チュン動画を作成した自治体の公文書には、地域おこしだの、文化の醸成だのとご立派な謳い文句が並んでいるが、よくよく調べてみれば、AKB48人気にあやかって一仕事している方々の影がチラつく。一仕事するのは自由だが、役所の事業は税金が原資となっていることを認識すべきだろう。繰り返し述べるが、東北はいまだに東日本大震災からの復興途中。20万人を超える人たちが、故郷を離れて避難生活をおくっているのだ。なにが“AKBの歌に合わせて踊りませんか”だ!

AKB48利用の問題点
 各自治体が開示した公文書によれば、恋チュン動画自治体バージョンが広がった理由のひとつに、AKB48の国民的人気があることは間違いない。芸能人の人気にあやかって地域起こしを行うことが、悪いというつもりはない。しかし、税金を使って、このグループの宣伝をするようなマネが、はたして妥当と言えるのかどうか疑問だ。

 今回の取材で明るみになったように、AKB側が恋チュン動画を「公式認定」するという行為を通して、どこかの企業や個人が儲かっているという現実は、決して好ましいものではあるまい。そもそも、何を基準に「公式」、「非公式」を決めているのか、さっぱり分からない。よもや、AKB48 の運営会社である(株)AKSやAKB48の仕掛け屋といわれる「電通」が、税金を使った楽曲の宣伝を意図的に行ってなどということはあるまいが、形としては恋チュンの自治体バージョンが次々に作成され、曲が話題を集めたのは事実。「公式認定」になんらかのカラクリがあったと見られてもおかしくはありまい。商売がうまいと言ってしまえばそれまでだが、AKB48がらみの役所の事業には、胡散臭さもつきまとう。

福岡市の事業ではAKB側が「電通」を指名
 一昨年8月、福岡市はネット上の仮想行政区として「カワイイ区」を創設した。初代区長に起用されたのは、市長にカワイイ区をやろうと言い出した、当時AKB48のメンバーだった篠田麻里子氏。篠田氏側は、カワイイ区事業の実務を委託する先に「電通」を指名し、結果、電通は福岡市から987万円の仕事を受注していた。電通が提出した「見積書」の金額も987万円。電通側の“言い値”で契約が交わされていた。タレントの尻馬に乗った幼稚な市長に呆れてしまったが、AKB48と電通の行儀の悪さが際立つケースだった。
(参照記事⇒「AKB48の尻馬に乗ったタレント市長の愚行」)

「公費支出ゼロ」 ― 秋田県横手市のケースから
 調べるほどに不愉快になった恋チュン動画自治体バージョン。その中で、唯一好感が持てる自治体のケースがあった。秋田県横手市の恋チュン動画への取り組み方である。同市への情報公開請求で出てきた文書には、公費支出に関するものはない。恋チュン動画を担当した職員の話によれば、「公費支出ゼロ」で、動画を作成したのだという。
「多くの市職員から、『恋チュン動画で横手のことを知ってもらおう』という声があがり、『よしやろう』ということになりました。やるなら“公費支出ゼロ”があたりまえ。職員が手分けして、市民に協力をお願いし、市民も『それなら』と、積極的に力を貸してくれました。出来上がった動画は私たちの誇りです」(横手市職員)

 素人集団の手作りだという恋チュン動画横手市バージョンを何度も見たが、佐賀、神奈川、鳥取の各県が作成した「プロ」の動画と比べ、なんら遜色はない。それどころか、多額の税金を費消した動画以上に、躍動感に満ちているようにも見える。明るく自信に満ちた横手市職員の声が、3県の職員たちの重苦しさとは対照的だった。

 ところで、恋チュン動画横手市バージョンは、AKB48の「公式認定」。すると、横手市は、「タダ」で公式認定を受けたことになる。
 一方、鳥取県は、特命随契による業者選定において《この度の動画は、AKB48を運営している(株)AKSから公式動画の認定を得ることをひとつの目的にしていることから、(株)AKSにコネクションのある当該法人のほかにできる者はいない》という理由を挙げ、公費支出を行っている。

 公費支出ゼロで、見事な恋チュン動画を作成した横手市のことを考えると、いかに鳥取県における税金の使い方が杜撰なのか分かる。これは佐賀県や神奈川県にも言えることだ。横手市の例は、職員のやる気と知恵の出し方次第で、芸能人利用の在り方が大きく変わることを示しているともいえよう。横手の市職員と市民には、思わず拍手を送りたくなった。

恋チュン動画自治体バージョンの胡散臭さ
 今回の取材は、たまたまHUNTERの記者が恋チュン動画“西日本新聞バージョン”を見たことがきっかけだった。そして、ネット上には数々の自治体バージョン……。
「役所がこんなことしてていいんですかね?」
 税金の無駄遣いを確信した記者が、動画作成過程について、いくつかの自治体に情報公開請求を行ったのは言うまでもない。

 出てきたのは、自治体動画の背後で動く業界人T氏。仕事をともにしながら、役所側が正体を明かそうとせぬ人物だ。T氏は、複数の自治体で恋チュン動画作成に関わり、なにがしかの報酬を得た可能性もある。AKB48側と、一定の関係がある人物とみて差し支えなさそうだが、自治体に「事業」を持ち掛けた時点で、税金投入を想定するのは当然。その結果がT氏の利益につながったとすれば、胡散臭い動画の広がり方だったということになろう。

 恋チュン動画自治体バージョンの背景には、まだ何かがある。佐賀県とリエゾンラボの関係も未解明だ。この連載、2回では終わらないかもしれない。


◀ 「恋するフォーチュンクッキー」自治体版動画の背景(上)



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