個人情報の流出で注目が集まる佐賀県の教育情報システム「SEI-Net(セイネット)」。10代の少年らにやすやすと不正アクセスを許したことでセキュリティの脆弱さを指摘されているが、「先進的ICT利活用教育推進事業」の一環として構築された同システムは、導入段階から「不正」にまみれていた(昨日既報)。
背景にあるのは、県教委幹部と特定業者の癒着。先進的ICT利活用教育推進事業に関する調達には、“タブレット型PC”、“SEI-Net”、“電子黒板”という三つの大きな流れがあるが、個別の契約内容を時系列に従って並べていくと、特定業者が優遇される異常な状態になっていたことが分かる。これまでの取材を通じてまとめた事業の全体像をおさらいしておきたい。
先進的ICT利活用教育推進事業に50億円超
この事業をめぐる最大の問題は、裏に退職した県教委幹部と業者との癒着が横たわっていることだ。そのせいで、事業にかかる調達の業者選定が大きく歪められた可能性が高い。県教委への情報公開請求で入手した資料から、同委が先進的ICT利活用教育推進事業に着手した平成23年度~26年度までにどれだけの調達が行われたのかを確認。年度ごとの一覧表にまとめた。なお、一覧には本事業に関する県内市町村への交付金も加え、複数年契約は初年度分に全額を入れた。
26年度までの調達等に係る契約数は256件。調査時点の支出総額は50億円を超えており、27、28年度を合わせると、さらに多額の公費が投入されていることになる。
突出する「学映システム」との契約
ピンク色で示したように、「学映システム」(佐賀市)という会社に契約が集中しているのが分かる。これまで、この事業についての疑惑を報じるたびに登場してきた会社だ。同社は、県教委の事業だけでなく、数々のトラブルが明らかとなっている武雄市の小中学校向けのタブレット端末を使った教育事業にも絡んでいたことが明らかになっている。
凸版、ベネッセ、エデュアス……
「SEI-Net」を落札した凸版印刷の社名も散見されるが、他の業者に比べれば極端に少なく、システム開発関係の実績はゼロ。県教委関係者が「凸版が基幹システム(教育情報システムのこと)の入札に参加したことに驚いたが、落札したと聞いて二度驚いた」と話すのも無理はない。じつは、基幹システムの落札者として本命視されていたのは、凸版に入札で敗れたベネッセコーポレーションだった。
県教委は、基幹システム構築の前段階として平成23年にシステム構築に向けた研究開発及び教職員向けの研修支援業務をエデュアス(東京都)という会社に委託したが、エデュアスの共同提案者がベネッセコーポレーションだったのである。多くの関係者が、基幹システムの構築はベネッセが請負うものと思い込んでいたのはこのためだ。総合評価式入札の技術審査で、7名中4名がベネッセを一位にしたのは、実績に加え提案内容が目的に沿ったものだったからに他ならない。ちなみにエデュアスは、佐賀県武雄市が小・中学校で行っているタブレット型PCを使った教育事業で、不良品の山を築いた恵安社製の端末を納入していた企業。佐賀県のICT教育事業は、学映をはじめとする数社が牛耳っていると言っても過言ではない。
退任した県情報企画監の影
タブレット型PCの納入をはじめICT教育事業全般でうまみを独占した学映システム、大方の予想を覆し「SEI-Net」の仕事を得た凸版印刷――三つの大きな流れのうち、二つまでが県教委と業者の癒着が疑われる状況だ。注目すべきは、県情報企画監の職にあった韓国人・廉宗淳氏(昨年退任)が果たした役割。昨日報じたように廉氏の韓国系関連企業が「SEI-Net」の仕事の一部を受注していることが分かっているほか、「SEI-Net」自体が韓国で組まれたシステムを日本向けに仕立て直したとの情報もある。
三つの大きな流れのうち、残っているのは電子黒板だ。これまでタブレット型PCと「SEI-Net」の問題点を報じてきたが、疑惑まみれの先進的ICT利活用教育推進事業にあって、もっとも“あくどさ”が際立っているのが、電子黒板の調達である。詳細は次週の配信記事で述べるが、佐賀県教委が導入した電子黒板は「韓国製」。不具合が多く、修理依頼がある度に韓国から技術者が来て調整していたことが明らかとなっている。
佐賀県のICT教育事業は、前副教育長の福田孝義氏(今年3月で定年退職)と廉氏が中心となって推進されてきたもの。重要な調達の裏に福田氏と廉氏、そして韓国系企業の影がチラつく。