佐賀県が推進してきた「先進的ICT利活用教育推進事業」の一環として開発された教育情報システムから、県立高校の生徒など延べ1万5000人以上の個人情報が流出していたことが判明。佐賀市内に住む17歳の少年が、不正アクセス禁止法違反容疑で警視庁に逮捕された。
不正アクセスを許したのは、平成25年4月から県教員が運用を開始していた佐賀県教育情報システム「SEI-Net(セイネット)」。セキュリティの脆弱さを衝かれた形だが、このシステムの導入時に実施された業者選定で、不正が行われていた可能性が極めて高いことが分かった。
SEI-Net導入で疑惑の選定
「SEI-Net(セイネット)」とは、佐賀県教委と凸版印刷が開発したとされる教育情報システム。同社のホームページでは次のように紹介されている。
≪佐賀県全体における、学力向上のための環境整備の1つ。具体的には、小学校や中学校、高等学校に通う児童・生徒について、教職員が出欠管理や成績管理、保健管理などの情報をシステムに入力して専用のセキュリティサーバに蓄積。情報の授受は専用回線を通じて行うことで県教育委員会と市町教育委員会が連携し、児童・生徒一人ひとりの情報を、小学校から高等学校にいたるまで一括して参照できるため、個人の進捗状況に合わせた、より的確な指導が可能になります。≫
県教委は、先進的ICT利活用教育推進事業の一環として基幹システムの構築を目指し、平成23年に民間企業への業務委託という形で研究開発に着手。24年5月に基幹システムの詳細設計や運用を担う業者を選定するため総合評価方式の入札を行い、凸版印刷が落札していた。不正の疑いが持たれているのは、この時の入札。もっとも重要な技術点の評価で、意図的な操作が行われた可能性がある。
下は、佐賀県教委への情報公開請求で入手した資料を基に、総合評価における選定委員ごとの技術評価点を表にしたものだ。
ベネッセコーポレーションに最高点を付けた委員が4人いるのに対し、凸版印刷に最高点を付けた委員は3人しかない。この2社に絞って確認してみると、ベネッセの入札価格は「6億1,660万円」、凸版は「6億3,460万8,000円」。どう見てもベネッセ有利のはずだが、結果は凸版の勝利だった。何故か――。次の表は、上掲の委員別評価点を入札業者ごとに足し、平均点を出したものだ。凸版が1位になっている。
7人中4人が最高評価を付けたベネッセが外され、3人の支持しか得られなかった凸版が選ばれたのは、凸版を推した3人の委員の点数が異常に高かったせいだ。満点は1600点。渡辺委員、廉委員の2人が満点に近い点数で、福田委員も高い評価。ベネッセに大きく差をつけた採点を行っていた。
・渡辺委員: ベネッセ=1004点 凸版=1556点 552点差
・福田委員: ベネッセ=1068点 凸版=1492点 424点差
・ 廉 委員: ベネッセ= 980点 凸版=1580点 600点差
一方、ベネッセを選んだ4人の委員は、こう採点している。
・志岐委員: ベネッセ=1312点 凸版=1248点 64点差
・森本委員: ベネッセ=1472点 凸版=1088点 384点差
・中村委員: ベネッセ=1340点 凸版=1220点 120点差
・古川委員: ベネッセ=1416点 凸版=1144点 272点差
いかに偏った採点だったかは、凸版派3人で1576点もの差をつけているのに対し、ベネッセ派の点差が840点でしかなかったことでも分かる。入札価格の点数は、『800点-{(入札価格×1.05/予定価格)×800点}』で計算しており、ベネッセは22.82点、凸版は0.12点。技術評価で105点開いてしまえば、逆転は不可能。技術点ですべてが決まる入札だった。渡辺、福田、廉3委員の偏った採点は、凸版を勝たせるための意図的なものだった疑いがある。
チラつく韓国系企業の影
凸版を支持した3人の委員は、当時の県教育庁にあって先進的ICT利活用教育推進事業を強力に推進した中心人物ばかり。このうち、福田委員とは教育情報化推進室長から副教育長になった福田孝義氏(今年3月で定年退職)。廉委員とは、県教育庁教育情報化推進室で情報企画監に就任していた廉宗淳氏(昨年退任)のことである。
関係者の話によれば、3人のうち福田、廉両委員が総合評価での議論をリード。入札直後から、それまで基幹システムの研究開発にほとんど関係のなかった凸版が選ばれるという予想外の事態に疑問を呈する声が上がっていたという。総合評価の採点を巡って、事実上の責任者だった福田氏に詰め寄った委員がいたとの証言もある。
不正が行われたと疑うに足る事実もある。凸版の下請けには廉氏の関係企業(以下「K社」とする」が入っているのだ。K社は、廉氏が代表を務める会社が出資して設立された韓国系との合弁企業。情報通信機器の販売やシステム開発を主業務としており、佐賀県の先進的ICT利活用教育推進事業にも深く食い込んでいることが分かっている。大半の業者選定に福田 ― 廉ラインの意向が働いていたとの証言もあり、特定企業との癒着が疑われる状況となっている。
佐賀県教委の先進的ICT利活用教育推進事業は、県立高校の新入生全員に購入させているタブレット型パソコン、電子黒板、そして問題の「SEI-Net」が大きな軸。凸版を推した3人の委員はそのすべての業者選定に関与し、とりわけ福田、廉両氏は主導的役割を果たしていたことが分かっている。
佐賀県教委は昨年、知事の意向を受けた形で「ICT利活用教育の推進に関する事業改善検討委員会」を設置。11月に開かれた7回目の会議で前出の福田副教育長(当時)が突然打ち切りを宣言し、批判を受けて再開。今年3月までに9回の会議を開いたが、事業の実態解明には至っていない。
HUNTERは、佐賀県教委が「先進的ICT利活用教育推進事業」の一環として、新年度に入学する全県立高校の生徒全員にパソコン購入を義務付けた平成26年から同事業の問題点を追及してきた。改善検討委の議論を見守ってきたが、お手盛り会議に終わったことを受け、事業の闇に迫る検証を再スタートさせる。