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「恋するフォーチュンクッキー」自治体版動画の背景(上)

2014年3月14日 07:00

AKB48「恋するフォーチュンクッキー」 昨年ヒットしたAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」。職場の仲間などが曲に合わせて踊る動画が数多く作られ、ネット上で公開されたことでも話題を呼んだ。
 動画作成は、民間だけでなく多くの自治体でも広がったが、取り組み方は様々。百万円単位で公費をつぎ込んだところがある一方、市民と共同して支出ゼロで成果を上げた自治体もある。
 それにしても、不可解なのは動画の広がり方。そもそも、何故この曲だけが多くの自治体で注目されたのか?自治体ごとの動画作成過程を調べてみると、次から次へと意外な事実が浮かび上がった。

広がった恋チュン動画
 全国の自治体で、真っ先に「恋するフォーチュンクッキー」の動画を作成したのは佐賀県。県庁職員らが部署ごとに踊りを披露する様子は、ネット上で公開直後から話題となり、アクセスが急上昇した。現在までのアクセス数は約210万。続いたのが神奈川県。こちらは知事も登場し、現在までに370万ものアクセスを達成。佐賀県の記録をあっさり塗り変えた。相前後して、鳥取県はじめ、多くの地方自治体が動画発信に参入、文科省まで恋チュンの替え歌バージョン動画を作成していた。

 ここで、どうしても腑に落ちないことがある。なぜ「恋するフォーチュンクッキー」なのか――?他の楽曲ではいけなかったのか――?そもそも、恋チュン動画作成を拡大させた発端は何か――?ネット上で話題を呼んだ自治体動画の中から、いくつかを選び、動画の制作過程を示す公文書を情報公開請求してみた。

先陣切った「佐賀県」
 まず佐賀県。開示された文書によれば、動画作成の目的は次のようなものとなっている。
《全国的にも知名度の高いアイドル(AKB48)というサブカルチャーを活用し、佐賀県庁職員自らが出演することで、文化に親しむ機運醸成を図るとともに、県民が文化に親しむ風土づくりを行う。また、動画を通して、県内外に文化による情報発信を行い、佐賀県をPRすることを目的として、「恋するフォーチュンクッキー」の動画を作成する》

 恋チュン動画の佐賀県庁バージョンは、200万アクセスを達成し、話題にもなった。しかし、《文化に親しむ機運醸成》や《県民が文化に親しむ風土づくり》、《県内外に文化による情報発信を行い、佐賀県をPRすること》といった目的は達成されたとは思えない。他の自治体が次々に恋チュン動画を作成し、ネット上で公開するに及んだ時点で、佐賀県の独自性は失われているからだ。

動画作成過程は不透明
 そもそも、佐賀県の動画作成までの過程が、極めて不透明だ。公文書として残されているのは、見積もりに関するものや支出命令書だけ。前述した動画作成の「目的」は、動画作成業務を委託するにあたっての「仕様書」に記されていたもので、方針決定について裁可を仰いだ形跡はゼロ。だれが、いつ、恋チュン動画を作成しようと言い出したのか、公文書上で確認することができず、唐突に業者選定と契約が行われていた。

 一体、なぜ佐賀県が恋チュン動画なのか――所管課に聞いてみたところ、「県庁内部で、ぜひやろうということになった」――税金を使ってやる事業とも思えず、いまひとつ説得力に欠ける答え。ちなみに、動画作成にかかった公費は52万5,000円。見積もり合わせの結果、東京都にあるデザイン制作会社「株式会社東京ピストル」が受注していた。

神奈川県バージョン
 神奈川県は、公益財団法人神奈川県観光協会と協同する形で、恋チュン動画を作成していた。協会への負担金は20万6,000円。残りは協会が支出したというが、こちらも動画作成過程は不透明。改めて県の所管課に聞いたところ、ここで、ある人物の名前が浮上した。詳しいことは後述するが、恋チュン動画自治体バージョンの背後で動いていた佐賀県在住の人物なのである。

 神奈川県バージョンは370万回ものアクセスを獲得しており、佐賀県同様「話題」を集めることには成功している。しかし、動画作成の過程はこちらも不透明。県都・横浜のほか、鎌倉、湘南といった名だたる観光地を抱える同県が、AKB人気に便乗しなければならない必要性があったのか……。疑問は残った。

鳥取県バージョンの発端は佐賀県職員からのメール
 鳥取県バージョンへのアクセスは約42万回。動画作成にかかった費用は、佐賀や神奈川を上回る約120万円。動画制作と振り付けに対する支援業務2件の委託金額の合計だ。かかった費用に比べると、広がりはいまひとつといえよう。ただし、鳥取県の場合は、動画作成の経緯がハッキリしており、そこはかなり興味深い。

 鳥取県が開示した資料に、佐賀県庁職員からの1通のメールがあった。これが動画作成の発端なのだという。佐賀県職員のメールには次のように記されていた。

《AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」を企業、団体で踊りAKB公式Yuo tubeでアップするという動きが、はやっています。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、佐賀県verを古川知事も出演し、収録し、130万回を超える再生回数をカウントしています。
本日は、神奈川県verも公開され、黒岩知事も登場されておられます。
ついては、皆さんの県でも、恋するフォーチュンクッキーを踊りませんか???というのが今回のメールの趣旨です。
添付ファイルのとおり、佐賀県にあるリエゾンラボという会社が、画像編集、AKBとの交渉などを引き受けてくれます》(下がメールの現物コピー)

メールの現物コピー

 どう見ても、恋チュン動画作成の勧めであり、特定業者への便宜供与ともとれる。自分の県をPRするために動画を作成したはずの佐賀県が、他県にまで同じ行為を広める必要はあるまい。加えて、特定業者を売り込んだ形となっており、不適切なメールとしか思えない。東北地方は、東日本大震災からの復興途中。税金を使って、“AKBの歌に合わせて踊りませんか”などと、西はずいぶんと平和なものである。恥ずかしくないのかと聞きたくもなる。

決済文書の業者選定理由 ところが、問題のメールが古川康佐賀県知事の了解に基づき発信されたものだったことで気を遣ったのか、鳥取県は佐賀県の勧めに従い、動画作成に踏み切っている。

 不可解なのはこの後。鳥取県は、動画作成にあたっての業務委託を、特命随契で東京の「株式会社ホープス」という会社に発注するのだが、その折の決済文書には業者選定理由について、次のように記されていた。(右の文書参照。赤い矢印とアンダーラインはHUNTER編集部)

《この度の動画は、AKB48を運営している(株)AKSから公式動画の認定を得ることをひとつの目的にしていることから、(株)AKSにコネクションのある当該法人のほかにできる者はいない
なお、神奈川県、佐賀県における「恋するフォーチュンクッキー」公式認定動画も当該法人が制作・支援を行っている

 えっ?ホープス?佐賀の公文書には、そんな社名はない。佐賀県が動画作成業務を委託したのは「東京ピストル」だ。確認したところ、佐賀県側は東京ピストル以外の業者は使っていないと明言。念のため神奈川県にも聞いてみたが、ホープスという企業の名前には心当たりがないという。公文書上は出てこないが、神奈川県の観光協会が動画作成で業務を委託したのは「KRK」という会社だとしており、こちらもホープスという社名は出てこない。

 さらに、AKB48を管理・運営しているAKSから公式動画の認定を得ることができるのは、ホープスだけではなく、《当該法人のほかにできる者はいない》という記述は、特命随契の理由としては成り立たない。《神奈川、佐賀県における「恋するフォーチュンクッキー」公式認定動画も当該法人が制作・支援を行っている》という記述に至っては、虚偽と言っても過言ではあるまい。おかしな話になってきた――。

つづく

▶ 「恋するフォーチュンクッキー」自治体版動画の背景(下)



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