アベノミクスとは、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、そして成長戦略という「3本の矢」による総合的な経済政策である。このうち、政権や自民党が打ち出す機動的な財政出動とは、すなわち「国土強靭化」という名の公共事業ばら撒き策。事実上の土建国家復活宣言でもある。
災害に強い国にするためと称し、10年間でつぎ込まれる税金は200兆円。1,000兆に及ぶ借金を抱えたこの国に、そんなカネがあるはずもなく、つまりはまた国債発行で賄うということになる。
繰り返される次代への借金押し付け。旧態依然の政治手法に呆れるしかないが、こうした動きの裏で、ほくそ笑む人間たちがいる。いわゆる「族議員」である。自民一党支配ともいえる現状の中、復活を遂げた「族」の一例を報じていく。
さんそう会
「さんそう会」という政治団体が存在する。今は事実上活動停止状態となっている同団体の旧名は「港栄会」。名は体を表すというが、港がらみの工事、それも港湾土木で利益を上げる「マリコン」各社が集まって設立した政治団体だ。設立は1976年。歴代代表や会計責任者は、大手マリコンの役員や業界OBなどが勤めてきた。団体設立の目的が、族議員への合法的な政治資金提供にあったことは言うまでもない。旧運輸省OBの参院議員や衆院議員らに、毎年数千万単位の寄附を行っていたことが、政治資金収支報告書で確認されている。ちなみに「さんそう会」とは、『湊』という漢字を分けたもの、「氵」と「奏」で“さんそう”なのだという。
特筆すべきは、国土強靭化の言いだしっぺで、自民党の国土強靭化総合調査会の会長である二階俊博総務会長代行が率いてきた派閥「新しい波」(平成21年に『志帥会』に合流)への献金だ。平成19年、20年にそれぞれ1,000万円、さんそう会の活動が縮小された21年にも500万円が寄附されていた。二階氏は、運輸大臣経験者。分かりやすい構図だ。
業界・団体が政治家にカネを出すのは、仕事を貰うためにほかならない。「コンクリートから人へ」の民主党政権下では意気消沈していた建設業界だったが、自民党の復活で我が世の春を迎えている。東日本大震災の復興に加え、全国にばら撒かれる公共工事のおかげで、人手も資材も不足するという活況ぶりだ。その上、むこう20年間は「国土強靭化」の仕事がひっきりなしに入ってくる。畢竟、自民党議員への政治献金が増すだけの話となる。
利権の継承
さて、前出のさんそう会が多額の政治資金を提供していた政治家の一人に、福岡4区から4回の当選を重ね、平成23年に引退した渡辺具能元衆院議員がいる。渡辺氏は、旧運輸省第4港湾建設局長から政界に転身した経歴が示す通り、マリコン業界に多大の影響力を持つ人物だった。
同氏の自民支部や関連政治団体には、さんそう会から毎年数千万円の寄附が行われていたことが確認されている。そして、同氏の引退後、その議席を継承したのが、渡辺氏の元秘書・宮内秀樹代議士である。当然、マリコン利権も引き継いでいる。
宮内氏をめぐっては昨年、建設会社2社から報酬を受け取っていながら、意図的に選挙向けの経歴から省いていたことが発覚(右が同氏のHP上の経歴)、HUNTERで詳細を報じた⇒(「自民・福岡4区支部長がひた隠す建設会社からの闇報酬」、「闇報酬発覚! 自民・福岡4区支部長との一問一答」 )。
業界との関係を意図的に隠したことも問題だが、建設会社からの給与が、政治資金規正法が禁じる“企業献金”だった可能性もある。
その宮内代議士に関する追跡取材で、同氏サイドが闇報酬をもらうに至った経緯が明らかになった。闇報酬を支払っていたのは広島と神奈川の業者。一方は大手マリコンの子会社で、もう片方は羽田の滑走路建設で大手企業の下請となった建設業者である。背景にあるのが「利権」であることは言うまでもない。「族」の実態を知るため、次稿から取材結果を報じていく。