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MBC南日本放送・産廃処分場報道への異議
問われるメディアの姿勢

2012年9月 3日 09:50

 役所の情報を垂れ流すメディアの報道姿勢に、懐疑的な見方が拡がっている。 
 先月公表された政府の「討論型世論調査」の結果では、原発に関するマスコミの情報への信頼度が10段階のうちの3.38ポイント程度しかなかったことが明らかとなっていたが、1日から2日にかけて、鹿児島県在住の方々から複数のご意見メールが送られてきた。
 いずれも、地元テレビ局のニュースに関するもので、薩摩川内市で産廃処分場建設を強行している鹿児島県の主張を一方的に報じた内容への疑問だった。
 確認したところ、県側の主張を補完した報道であることは明らか。地方分権が進む中、むしろ問題なのはローカルメディアの御用機関化のようだ。

(写真は、工事をめぐり違法・脱法行為の数々が明らかとなっている薩摩川内市の産廃処分場工事現場)

問題の報道の内容とは・・・
 問題視されたのは、8月31日に流されたMBC南日本放送のニュース。この日、鹿児島県が薩摩川内市川永野で建設中の管理型産業廃棄物最終処分場「エコパークかごしま」(仮称)の建設工事を監視する委員会視察が行われ、同行した報道陣に同工事現場が初公開されたことを受けての報道だった。

 MBCのニュースで、処分場工事現場の映像とともに報じられたのは次の原稿だ。
《県が薩摩川内市で工事を進める産業廃棄物の管理型最終処分場について、31日、工事を監視する委員会の視察が行われ、同行した報道陣に工事の様子が公開されました。
 安全監視委員会は県が去年設置したもので、建設に賛成する4つの自治会と専門家などからなっています。工事の様子が報道機関に公開されるのは初めてです。
 建設に反対する住民らが指摘する湧水=湧き水については、今年7月、大量の水が溜まり工事が出来ないなど影響が出ました。
 公社によりますと底の部分には、25mプール50杯分のコンクリートを流し込んで固める予定です。
 また工事の過程で出る濁った水が周辺の川などに流れ込む様子が目撃されていますが、公社側は水の浄化設備を増設して十分な対応をしていると説明しました。
 県によりますと工事の進捗率は7月末の段階で15%で、31日の視察では、委員の間から問題を指摘する声は聞かれませんでした》(MBCホームページから)。

 地元住民らの声を紹介してバランスをとった体裁だけは整えているが、役所や御用学者の主張を正当化した巧妙な情報操作と言わざるを得ない内容だ。

名ばかりの「安全監視委員会」
 報道にある「安全監視委員会」は、昨年県が設置した組織で、次の13名によって構成されている。

  • 建設に賛成した4つの地元自治会からそれぞれ2名の計6名
  • 大学教授ら4名の「専門家」
  • 薩摩川内市の環境課長

 このうち、処分場建設に賛成した地元自治会には、複数年で巨額な「地域振興費」がばら撒かれることになっており、その総額は実施分を含め3億円に上る。
 4つの自治会というが、戸数は合わせて百数十戸に過ぎず、カネと引きかえに環境汚染を容認した自治会関係者が工事に支障が出るようなことを言い出すはずがない。

 次に、大学教授ら4名の顔ぶれはといえば、同処分場工事の入札で、落札者を決めた「総合評価技術委員会」の委員である。
 自分たちが選んだ施行業者の工事手法に異論を唱えるとは思えず、はじめから監視役としての適性を欠いた方々なのである。

 つまり、「安全監視」を目的として設置されている組織だが、それは名前だけ。本当の狙いは、県側の行為を追認し、お墨付きを与えるという役割を担わせることにあるのではないだろうか。
 厳しい言い方ではあるが、御用学者と懐柔された住民の声から真実が見えてくることはない。原発と同じ構図がそこに在る。

報じられない“もうひとつの視察”
 gennpatu 1864410575.jpg鹿児島県という役所の姑息な手法は、この官製監視委員会の利用だけに止まらない。

 じつは、この安全監視委員会の処分場視察に先立つ28日、建設反対を貫いている自治会を含む地元住民向けのもうひとつの建設現場視察会が実施されていたのである。
 右はその案内文であるが、参加者を関係自治会の居住者に限定しているのが分かる。このため処分場建設に反対する他地区の住民は排除され、マスコミ関係者や議員もシャットアウトされたのだという。
 見られてはならない“地元住民向けのガス抜き”は、マスコミ取材の3日前に終わっていたということだ。
(右の文書参照、赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
 
 もちろん、MBCの処分場に関する報道では、この数日前の視察について一切触れられていない。
 大半のメディアは、28日の地元住民向け視察会について知らなかったのかもしれない。しかし、メディアが県側の周到な仕掛けに乗った形となったことで、処分場工事に関する隠された事実を県民に伝える機会を逸したのは事実だ。
 28日の視察の折、処分場建設に反対する自治会メンバーと県側とのやり取りから、新たな問題点が浮上していたからである(この点については後日改めて報道する)。
 なぜ、地元住民向けの工事現場視察をマスコミに知らせなかったのか、押して知るべしである。
 
報道内容のお粗末さ  
 MBCの報道は、内容そのものもお粗末だ。ニュース原稿には《工事の過程で出る濁った水が周辺の川などに流れ込む様子が目撃されていますが、公社側は水の浄化設備を増設して十分な対応をしていると説明しました》とある。
 
 その後には、安全監視委員会の委員長が「非常に丁寧に施行されている印象」、「安全委員会に問題が上がってくることはない」などと話す映像をテロップを入れて流し、とどめに《委員の間から問題を指摘する声は聞かれませんでした》と続けている。
 あたかも県の主張を補完しているかのような筋立てで、ニュースを見た視聴者は、建設反対派住民らの声が杞憂であるか、あるいは根拠のないものと感じてしまう仕掛けが施されている。

 HUNTERでは、処分場のそばを流れる阿茂瀬川の状況を度々取材しているが、下の写真でも明らかなように、隠された放水口から濁水を大量に放流していたのは事実で、川の汚染が心配される状態となっている。

 報道内容を見る限り、MBCの取材陣が実態についての現地確認を行っているとは思えない。つまり、検証不足のまま、役所や学者の主張を鵜呑みにしてニュースを配信しているということだ。これでは権力の監視という報道の使命は果たされない。

DSC01530.JPG  DSC01904.JPG

疑われる意図的な情報操作
 MBCのニュースのタチの悪さは、前述したとおり、巧妙に地元住民の声を否定し、あたかも県側の主張が正しいかのように錯覚させる作り方をしたところにある。
 整理すると次のような流れだ。

『工事の過程で出る濁った水が周辺の川などに流れ込む様子が目撃されている
下矢印
『公社側は水の浄化設備を増設して十分な対応をしていると説明』
下矢印
安全監視委員会の委員長が「非常に丁寧に施行されている印象」、
「安全委員会に問題が上がってくることはない」などと話す映像
下矢印
『委員の間から問題を指摘する声は聞かれませんでした』

 積極的に役所の主張を補完したとしか思えない組み立てだが、このどこが客観報道なのだろう?意図的にこうしたニュースを流しているのだとすれば、報道を名乗る資格などない。
 
 ここでMBCの報道に関する地元鹿児島の声を紹介しておく。
「南日本放送(MBC)の昨日のニュースには驚きました。『産廃工事現場が初めて報道陣に公開されました』。その事実だけを伝えるニュースには唖然とするより他ありませんでした。この人たちは、ただ県の言うことを垂れ流すだけの共犯者なのだと、つくづく思いました。自分たちの考えはなく、ただ説明されたことを疑いもせずに流すだけです。県とメディア側のただのアリバイ作りでしかありません。そもそも安全監視委員会自体、県が設置したものです。信用できないことは、原発に関する例を挙げずともわかるようなもの。そんなことにも気付いていない報道のあり方に、何も変わらないこの国のマスコミの現状が如実に現れています」(県庁職員)。

「記者クラブの人たちにとっては、地元住民の声なんか眼中にないんでしょう。たしかに、中立だの公平だの客観報道だのと言っていますが、いつも流されるのは役所の主張を正しいとするニュースばかりです。こんどのニュースもそう。地元住民はこう言っているが、県は次のように話しており、学者も県の主張が正しいと言ってます、という形ですよね。3.11を経ても、マスコミは何も変わっていないんですよ」(薩摩川内市在住、50代主婦)。

 マスコミ不信の原因が、中立・公平を装いながら権力側にへつらう各メディアの報道姿勢にあるのは言うまでもない。
 その傾向が地方の報道現場で顕著であることは明らかで、今回のMBCのニュースのような事例が、じつは各地で起きているのである。
 報道関係者の自省を促したい。


【参照記事】
「鹿児島・薩摩川内産廃処分場工事 環境破壊の証明」
「薩摩川内処分場工事で「汚水」垂れ流し」



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