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注目の鹿児島県知事選挙 明日告示
~際立つ両陣営の違い~

2012年6月20日 10:30

鹿児島県庁 21日、鹿児島県知事選挙が告示される。国内54基の原発がすべて停止した後、原発立地県としては初めてとなる同知事選は、新人で出版社社長の向原祥隆氏(55)と現職で3期目を目指す伊藤祐一郎氏(64)による一騎打ちの構図となりそうだ。

 全国注視の戦いに臨む両陣営を取材したが、選挙に対する方向性の違いが鮮明となった。

向原陣営 ― 巨大利権組織への挑戦
 向原氏は日置市生まれの55歳。鶴丸高校から京都大学農学部に進み、東京の出版社勤務を経て35歳で郷里鹿児島にUターン。図書出版「南方新社」を設立し現在に至っている。  
 平成8年には「反原発・かごしまネット」を立ち上げ事務局長に就任。以来、原発の危険性を訴え続けてきた。
 川内原発(鹿児島県薩摩川内市)から放出される"温排水"をめぐって、事業者である九州電力がデータを改ざんしていた事実を突き止めたのは向原氏の功績である(参考記事→「原発『温排水』 知られざる脅威」)。

向原 祥隆 氏 取材日当日、事務所で取材を受けたのは向原氏本人(写真は後援会事務所前の向原氏)。長年、反原発を唱えて活動を続けてきた闘士だが、終始柔和な笑顔で目指すべき鹿児島県の姿を語った。

 向原氏の陣営が掲げたキャッチコピーは「変えよう!鹿児島」。脱原発、脱官僚を実現し県民本位の県政に変えることを訴えていくとしており、19日には111項目からなるマニフェストを発表した。人と自然をこよなく愛する向原氏と陣営の思いがつまったものだという(マニフェスト→)。

 「原発だけが県政の課題ではない」とする伊藤陣営や一部メディアの主張には、どう向き合うか。向原氏はこう話す。
「もちろん原発だけが争点ではないということは分かっています。しかし、原発を存続させるかどうかという判断は、立地自治体だけでなく県民全体で議論して下すべきではないでしょうか。知事選はその絶好の機会だと考えています。  
 もちろん、原発をなくすということは、県の経済構造を大きく変えることを意味しています。原発に頼らない地域社会を構築するためどうすべきか、その点もしっかり訴えていきます。例えば再生エネルギーを軸とした新産業を創出し、新たな雇用を生み出すことは可能で、国内の成功例もあります。原発抜きの成長戦略を提示し、ともに考える県政を実現したいと願っています。

 もうひとつ、ムダな公共事業が知事の独断で進められていく現状も変えなければなりません。薩摩川内市では県が主体となって産業廃棄物の最終処分場建設が強行されています。地元住民の反対の声を無視して力づくで進められている事業ですが、投じられる公金は100億円に上ります。民間なら20億円程度で建設が可能な施設ですよ。産廃を減らす努力もしないで、郷土の自然を犠牲にすることが許されていいはずがないんです。

 県政運営の主役は県民です。県民の暮らしや未来のため、いま何をなすべきか、そのことが問われているんです」。

 原発を取り巻く巨大な利権組織に挑む向原氏。「県政を変えようと訴えるのだから、第一声は県庁前でやりたいな」と表情を引き締めた。
 陣営は選挙期間中、街頭演説と集会で、多くの県民に訴えを行なっていくとしている。

伊藤陣営 ― 驕りの県政を象徴
 伊藤知事が多忙を理由に取材を断ってきたため、やむなく陣営の事務所関係者に話を聞いた。

伊藤 祐一郎 氏 事務所 取材に対応したのは選対の幹事を務めているという男性だったが、訴えの軸は何かと尋ねても「分からない」という。
 驚いたのは投票率アップについて陣営としてどう取り組むかという質問への回答だった。「それはマスコミと選管の仕事でしょう」。念のため"それは候補者の仕事ですよ"と反論してみたが、反応はなかった。

 伊藤陣営の選挙に対する姿勢を如実に示しているのは「街頭演説は行わない。市町村ごとに支持者を集めてじっくり話すことにしている」という選挙戦術である。
 組織重視の、いわば内向きの戦術としか言いようがない。それでは知事の訴えが県民全体に拡がらないのではと聞いてみたが、「何をもって内向きとするのか分かりませんね。知事が決めたことですから」という返事だった。傲岸不遜と評するしかない。
 選挙は、有権者に対し真摯に自らの主張を訴える場である。自分を支持する人間だけを集めて"勝ちさえすればよい"とする選挙の手法は、陣営の驕り以外のなにものでもない。

 18日にはマニフェストを公表したが(マニフェスト→)、相変わらず《子どもからお年寄りまですべての県民にとって優しく温もりのある社会》というコピーが使われていた。
 薩摩川内の産廃処分場建設現場で、県職員数百人を動員してお年寄りや地域住民らを弾圧した現場を見てきた記者としては、笑止と言うほかない(参考記事→「鹿児島・少数意見圧殺の狂った県政」)。

 鹿児島県知事選挙は21日告示、7月8日に投・開票が行われる。



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