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原発「温排水」 知られざる脅威

川内原発では九電のインチキが露呈

2012年3月12日 10:30

 前稿「原発 放射能たれ流しの証明」で、全国の原発から大気中と海に常時放射能がたれ流されていることを、九州電力が国に提出した「原子炉設置変更許可申請書」をもとに報じた。
 
 大気中への放射能放出も問題だが、意外と知られていないのが原発から放出される「温排水」のことである。

 環境を汚染し、母なる海を死に追いやる可能性が高い「温排水」について、改めてその実態を検証する。

(写真は川内原発「放水口」そばに打ち上げられたサメ。奥に川内原発。撮影は中野行男氏)


「温排水」とは
 原発の炉内を循環した冷却水は高温となるため、さらにパイプを通して海水で冷やす。この海水を吸い込むのが「取水口」で、役目を終えた海水を再び海に出すのが「放水口」である。
 そして、原発から放出される海水を「温排水」という。"温められた海水"ということだが、ただ温められたというだけではない。原発内で発生した放射能まみれの「液体廃棄物」を混ぜてたれ流しているからである。

 下の文書は九州電力が国に提出した玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)に関する「原子炉設置変更許可申請書」の添付文書だが、そのことが明記してある。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

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 ところで、電力各社で組織された電気事業連合会(電事連)のホームページには、温排水について次のように説明されている。
《原子力発電所でタービンを回したあとの蒸気は、冷却水として取水した海水で冷やされて、もとの水に戻ります。この蒸気を冷やしたあとの海水は、取水したときの温度より約7度程度上昇して海に戻されます。これを「温排水」といいます。発電所を立地する際に、電気事業者は温排水の拡散実態を調査し対策を講じています。

温排水の拡散実態を調査し、対策として以下のことを実施します。

・発電所計画予定地および周辺の環境調査
・必要に応じて放水口の位置をできるだけ漁場から遠ざける
・取水口は温排水が再循環しないような位置に設ける
・深層取水方式を用いる

電気事業者は、以上の基本的な対策を踏まえ、最も適切な取水方法、放水方法を採用します》

 残念ながら、この記述が"嘘"だと断定できる原発の例が存在する。九州電力川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)である。

川内原子力発電所
 pres_chii_nucl_onha_inde01_l.png鹿児島県薩摩川内市にある川内原発は、1号機が昭和59年に、2号機が同60年に営業運転を開始した、九電管内では玄海原発より新しい施設だ。

 前述の電事連の温排水に関する記述には、《取水口は温排水が再循環しないような位置に設ける》と明記しており、その説明に右のような図を使っている。
 たしかに、この図のとおりなら、取水口と放水口がまったく異なる海面に面しており、温排水を再び取水するいわゆる『再循環』は起こらない。

 このあたりが原子力ムラの姑息なところなのだが、川内原発の取水口と放水口の位置関係を見ると、電力会社の説明が嘘であることが一目瞭然となる。

 下の写真(九電ホームページより)と図を見ると分かるが、同原発の取水口と放水口は近接しており、どう見ても「再循環」しなければ成り立たない施設なのだ。

10.jpg  kou .jpg

 ただ、九電は「再循環」を否定しており、その根拠を取水する海水が深層部分だからと主張するが、水深4メートルほどの海の水が「深層水」であるはずがない。まさに原子力ムラによる虚構である。

判明した「再循環」
 この点について、川内原発について、綿密な調査と研究に基づきその危険性を訴え続けてきた鹿児島市の出版社『南方新社』代表の向原祥隆氏は、かつて自らが発表した一文をもとに次のように解説する。
 
 「私は、『反原発・かごしまネット』の一員として平成19年2月から、毎月1回の海水温調査に参加しました。
 九電はかねてより「発電所から出る温排水の温度上昇は7度以下」とか「海水温度が1度以上上昇する範囲は、ほとんどが沖合い2km内外」とホームページ等で発表していましたが、調査の結果、驚くべき事実が分かったのです。

 nannpou.jpg1点目は、『温排水の水温上昇は7度以下』と言いながら、実は周辺環境より平均8.5度、最高10度も高温化した温排水を放出していたこと。

 2点目は、取水口の温度が高かったことです。周辺環境より平均2.5度も高く、これで、"温排水の再循環"の実態が浮かび上がったわけです。

 『温排水の再循環』は、電力会社にとって初歩的なミスです。自分の出した温排水を、また取水口から吸い込むという実に間抜けな欠陥構造なのに、これを認めていません。
 ちなみに、ここ10年で日本沿岸の海水温は1度上昇したと言われますが、。魚の保育所ともいわれる藻場が磯焼けで消え、獲れる魚種が変わったという、各地で頻発する海の異変は、温排水が原因だと見られています。川内原発周辺の高温域は、"再循環"によってそれにさらに上乗せされているんです」。

根拠に乏しい「7度」という数字
 そもそも、なぜ「7度」なのか。各電力会社や電事連の公表資料には、うなずける説明などどこにもない。福島第一原発の事故発生以来、多くの国民が気付いているように、原発に関して公表された数字はいずれも裏づけのない一方的な基準なのだ。

 川内原発の取水口と放水口の位置関係を見ても分かるように、ここでは「再循環」によって、周辺海域の海水温度が「7度」を超えていると指摘する関係者は少なくない。 

 南方新社・向原氏の話が裏付けているように、少なくとも川内原発について言えば、電事連が温排水について説明している
・取水口は温排水が再循環しないような位置に設ける
・深層取水方式を用いる
という2点は誤りだということになる。

懸念される生態系への影響
  100418_1400~01.JPGのサムネール画像川内原発(写真)について注目すべきは、前述・電事連による《蒸気を冷やしたあとの海水は、取水したときの温度より約7度程度上昇して海に戻されます》との記述である。
 
 取水口から取り込まれた海水は高温となった冷却水の温度を下げるわけで、海水そのものの温度は当然取水時より高くなる。その上昇は7度以内とされているのだが、自宅の風呂の温度で考えても分かるとおり、人間にとって「7度」の差はかなりのものだ。ましてや、海で生きる小さな生物にとっては、大変な影響をもたらす数字となる。周辺の生態系に及ぼす影響は計り知れない。
 
 前出の向原氏も次のように話す。
「冬場、川内原発の温排水の放水口周辺は、釣り人の間では有名な釣り場となっていおり、釣り雑誌にもたびたび紹介されるほど。大型のクーラーを覗くと満タン。すごい釣果に驚いたことがあります。どこから来たかを尋ねると、遠く熊本からという。
 他所では釣ることのできないカスミアジ、ロウニンアジなどが大量に釣れる。これらの魚は南方系で、夏に日本周辺まで北上し冬場に海水温が低下すると死んでしまう死滅回遊魚や、水温の高いところを好む魚たち。原発周辺が高温化して冬場も集まっているんです。
 素潜りをする近くの漁師は、川内の海に潜ると色とりどりの熱帯魚だらけだと、諦めたように口にします。いないはずの魚が、うようよいる。これが環境破壊でなくて何なのでしょうか。

 100418_1451~02.JPG異変は、それだけではありません。サーファーは、格好の波が立つ海辺であるにもかかわらず(川内原発の近くの)寄田海岸では波を待ちません。サメが回遊する海だと知っているからです。
 温かいところが好きなのか、餌となる南方系のアジを追ってきたのか、そのいずれかでしょうが、現地の寄田町に住むウミガメ監視員の中野さんが記録しているサメの死亡漂着(冒頭の写真参照)の数には驚かされました。
 
 平成21年の1年間だけで、29匹も死んで打ち上げられたんです。エイやダツ(写真)の死亡漂着の数にも限りがありません。
 釣り人がひっ掛けて放置しているのだと、九電の人間が話していると聞いたことがありますが、あるメディアの記者が8匹のダツを埋葬した後、振り返るとまた1匹打ち上げられていたそうです。そして、その日釣り人は1人もいなかったと言うんです」。

川内川の流量に匹敵する「温排水」
 100418_1453~04.JPG川内原発の特異性は、その位置が筑後川に次ぐ九州第二の規模を誇る「川内川」の河口にあたることである。
 
 川内原発1・2号機の温排水は、その川内川の流量に匹敵するといわれ、3号機が増設されると、その2倍の海水が「温排水」として放出されることになるとされる。

 河口から川の少し上流にかけては淡水と海水が混在した「汽水域」と呼ばれ、様々な生物を育む環境にあるが、川内原発の取水口は、ここに生息するプランクトンをはじめゴカイや小魚などの様々な生物を大量に吸い込む形となる。まさに「環境破壊」なのだ。

 温排水について説明した電事連のホームぺージには、《環境への影響については、発電所の建設計画時に行う環境影響評価法、電気事業法に基づく環境影響評価の中で調査、予測、評価を行います。結果については、経済産業省が厳正な環境審査を実施することになっています》とあるが、原発を推進してきた経済産業省が、《厳正な環境審査》を行った詳細な結果など、見たことも聞いたこともない。
(写真は川内原発の放出口)

放射能に加え「塩素」もたれ流し
 原発「温排水」にからむ環境破壊はこれだけにとどまらない。電力会社は、取水口から吸い込んだフジツボなどが冷却管等へ付着するのを防ぐため、次亜塩素酸ソーダ(つまり「塩素」)を大量に注入し続けなければならない。

 電力会社は、注入した次亜塩素酸ソーダが、時間の経過とともに分解して海水に戻るため、放出時には水道水の殺菌に必要な濃度(0.1ミリグラム/リットル)の10分の1以下になるか、ら周辺海域の魚などの海生生物への影響は少ないとしている。しかし、もともと海水に含まれていない塩素をのべつ温排水とともに放出しているわけで、長期にわたる影響が皆無とは言い切れないはずだ。これも立派(?)な環境破壊なのである。

 電力会社側は、「温排水も塩素の注入も、火力発電所と同じだ」と反論したいところだろうが、決して「同じ」とは言い切れない。熱効率が悪く、エネルギーの多くを温排水として放出する原発は、火力発電所以上にタチの悪い量の温排水を放出しているからだ。
 しかし、何と言っても火力との最大の違いは、「放射能」をたれ流していることに尽きる。

 その恐ろしさについて、前出の向原氏は言う。
 「食物連鎖を通じて、海に流した毒が濃縮されるという生体濃縮は、水俣病で初めて注目されました。プランクトンが放射能を取り込み、小魚が食べる。大きい魚が食べて、サメがまた食べる。放射能は食物連鎖の頂点に行くほど濃縮されていきます。すでに被害は始まっているかもしれないんです」。

九電の体質示す「温排水」にからむ捏造
 温排水をめぐっては、九電の体質を示す「捏造」の事実が存在する。電力各社は温排水によって温度が上昇する海域の実態を調査し、原発立地県に報告する義務があるのだが、平成22年、九電の海域モニタリングの調査結果に虚偽が見つかり、新聞報道されていたのである。

 温排水の危険性を独自に追跡していた向原氏は、九電のデータを詳しく分析したという。 
 「九電は毎年4回、調査を実施しているのですが、そこには温度データと等温線が書いてあり、いずれも1度上昇を示す等温線は"2km"以内となっていました。だが、よく見ると、等温線の外側にも海水温上昇を示す数字がある。次の2枚の資料を見てもらえば、一目瞭然です。(注:色づけ部分が広がった高温域)

甲9号証.JPGのサムネール画像別18.jpg
 
 何のことはない、温排水の拡散範囲を意図的に小さく見せかけ、九電がかねがね公表している『温排水の1度上昇範囲は2km内外』に無理やり当てはめようとしたものだったんです。
 出るは、出るは、私が確認した平成12年以降、なんと17枚ものインチキがありました。
 
 等温線の意図的な操作は恒常的になされていて、とても悪質です。このデータから私たちが指摘してきた"温排水の再循環"も再確認できたのですが、さらに問題が拡がりました。

 九電の調査結果が、正式に鹿児島県に報告されたものである以上、次の三つの問題点が浮上するのです。
 
①3号機増設計画での九電の説明は、1.2号機の温排水の拡散範囲は「2km内外」だった。虚偽の事実に基づく説明は、違法な環境影響評価書の手続きを示す。
②実際は恒常的に「2km」を超えている。はるか7km南まで拡散した事例もある。
③温排水の温度上昇の原因は、温排水の再循環である。再循環は3号機の環境影響評価には考慮されていない」。

居直った伊藤県政と九電
 gennpatu 039.jpgこうした事態に九電の社長以下が平謝りをし、知事が九電社長を呼んで叱り飛ばす図を想定していた向原氏だったが、ことは意外な方向に進んだ。
 
 なんと九電は、『県の海域モニタリング技術委員会で確認されているから問題ない』と居直り、一方の県も『九電から塩分や深度の違う温度データを取り寄せて検討したが、総合的に判断して、温排水の影響範囲としては問題ない』と九電擁護に走ったというのである。
 
 伊藤県政と九電の蜜月を示す分かりやすい隠蔽のケースだが、原発をめぐる向原氏らの戦いは法廷へと持ち込まれ、現在も係争中である。
 
 原発は事故が起きるまで安全ということではない。事故が起きなくても、四六時中放射能をたれ流しているという現実を踏まえたうえで、原発の是非を論じるべきなのである。まともな神経なら、答えはひとつしかないと思うが・・・。

 

 



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