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突きつけられた公開質問

県営住宅問題に見る鹿児島・伊藤県政の現状(2)

2012年2月17日 09:50

 原発、産廃処分場といった迷惑施設の建設に狂奔する伊藤祐一郎鹿児島県知事。背後で蠢くのが、建設業界をはじめとする利権集団であることは間違いない。
 
 そうした実相を隠すつもりだったのか、県民向けに格好をつけた発言で、知事自身の言葉の軽重が問われる事態となった。
 
 薩摩川内市の産廃処分場建設計画と並び、住民無視を繰り返す伊藤県政の象徴となっている鹿児島市松陽台町の県営住宅建設計画をめぐって、住民側が知事の定例会見における発言に確認を求める公開質問状を突きつけたのである。
(写真は、県営住宅建設が計画される鹿児島市松陽台町の土地)

定例会見での知事発言
 ことの発端は、今年2月3日の知事の定例会見でのひとコマだった。会見の終盤、朝日新聞社の記者が、「松陽台団地の建設の件ですが、住民の中では一部反対の声がまだ根強く残っています。前回の県議会で反対陳情は不採択されましたが、この問題についての知事の見解はどうでしょうか」と質問した。

 これに対し伊藤知事は次のようにまくし立てた。「我々のプランをしっかりと見ていただければありがたいと思うのですが、あそこにこれから建てようとする県営住宅は、従来の団地型の住宅では全くありません。クラスターゾーニングに近いような形で、2~3階建ての施設を入れていきますので、非常にハイグレードの居住群になります。そしてそこに緑を入れ込んで、県営住宅でありますから、それは子どもたちを持った世代の方々が中心という事かと思いますが、原良団地との総体の問題もありますので全てがそういう事ではありませんが、そういう意味で新しいコミュニティーを作る。そして、しかも鹿児島市へのアクセスは極めて良いかと思いますので、そういう意味での新しい県営団地として造るとなると、戸数が足りている中での県営団地の計画というのは、一部はこれから当然に都心型ではなくて郊外型にシフトすると思うのです。従来からあるご老人のものはご老人のもので都心にキープしながら、周辺の郊外型に展開していくという、そういう過程をたどらざるを得ないと思いますのでそういう対応を住んでおられる方々にも一生懸命説明したいと思います」。

 じつはこの知事の発言内容は、県営住宅建設反対を唱える地元住民のこれまでの問いに対する答えにはなっていない。

 これまで報じてきたように、松陽台に戸建住宅を購入した住民たちが県側に問うているのは、唐突に浮上した計画変更の経緯と、不誠実な県側の対応についてである。
 知事が会見で話した内容は、住宅購入者にとっては建設計画を正当化するための屁理屈にしか聞こえておらず、無駄な公共事業の典型としか映らないのだ。

 しかし、これまで以上に踏み込んで「住んでおられる方々にも一生懸命説明したいと思います」と言ったことを、松陽台の住民たちは見逃さなかった。

知事に公開質問書
 gennpatu 1012.jpg右の文書は、15日に松陽台の町内会が知事に提出した公開質問状である。細かい内容についての質問は一切なく、「知事ご自身が地域住民と膝詰めで話し合う」機会を本当に設けるのかどうか、言い換えれば知事発言が嘘かまことかを問いただした形だ。

 県民向けに耳障りのいい言葉で締めくくり、記者からの質問をはぐらかしたつもりが、松陽台の住民にとっては「居住環境」という切実な問題に対する知事の誠意をはかる上での重要な一言だったということになる。知事がこの素朴な質問にどう答えるか注目となった。

不透明な松陽台県営住宅計画
 念のため、松陽台の県営住宅をめぐる疑問点について、鹿児島県に情報公開請求して入手した文書をもとに整理しておきたい。
 
 県住宅供給公社が松陽台に「ガーデンヒルズ松陽台」の分譲を開始したのは平成15年。「商業施設ができます」といった勧誘文句を並べて、約11haの予定地に戸建用地470区画を販売する計画だった。しかし、売却は思うように進まず、現在までに170区画程度しか捌ききれていない。
 
 そこで浮上した案が「店舗等用地」などと説明してきた3区画の土地に加え、ガーデンヒルズ松陽台で最大の面積を占める区画約5.6 haを「県営住宅」にしてしまおうというものだった(下の図面、赤いラインで囲んだ部分)。
 
matu.jpg

 寝耳に水の仰天プランに驚いたのはほかでもない、松陽台に終の棲家を購入した住民たちだった。なんと、方針発表まで県や公社からの相談は一切なかったのである。
 詳しい説明を求める地元住民らに対し、県側はのらりくらりと対応を引き延ばし、騒ぎが始まって1年以上経つ現在も満足な回答さえ寄こしていないという。
 たしかに、唐突な県営住宅建設計画には疑問点が多い。

gennpatu 1013.jpg
住民無視 
 県が開示した文書を確認したが、計画自体が住民無視で進められたことは歴然としている。
 
 松陽台町の住民向けの説明会が始められたのは昨年1月。しかし、前年の7月には県の外郭団体である鹿児島県住宅・建築センターに対し松陽台での県営住宅建設を前提に「県営住宅移転再配置基本構想策定業務」の委託契約を結んでいたのである。
 
 委託目的には次のように明記されている。「本業務委託は、旧鹿児島市内の県営住宅について、今後現在地での建替は行わず、郊外部へ移転することに伴い、移転先であるガーデンヒルズ松陽台における県営住宅団地の基本構想並びに建替中の原良団地及び柴原第二団地の建替中止による見直し計画を策定することを目的とする」。

 県の住宅政策を一変させる方針決定があったものと思われるが、決定したのが何時だったのか、どのような過程を経て最終結論が出されたのかは一切不明だ。
 事業を所管する県建築課住宅政策室に確認したが、方針決定にあたる公文書はないと明言している。適切な行政執行とは程遠い実態だ。

 トップダウンで物事が急速に進められた場合に特有の現象ではあるが、同県では薩摩川内市の産廃処分場建設計画など、手順を無視した同様の手法で事業を強行する事例が横行している。

 伊藤知事による独裁県政との批判が噴き出る中、自らの発言に対する県民の問いに知事がどう答えるか、見ものではある。

綻び見せる伊藤独裁県政
 ちなみに伊藤知事は、公開質問の発端となった2月3日の定例会見で、薩摩川内市の産廃処分場や松陽台県営住宅に関するHUNTERの情報公開請求を拒否した件についても聞かれている。
 
 知事は、「最終的に情報公開したのではないかと思います。若干時間がかかったり、ましてや産廃はあそこで最大限の事業展開をしていた時期でもありますので、それはそれであり得る事かと思いますね。なるべく情報公開すべきだというのは、こういう時代でもありますので。そしてまた実際に、ほとんどのデータが公開されていると思います」としたうえで、「特に問題があったとは思いませんね」とうそぶいた。真相をねじ曲げた虚言であることを改めて指摘しておきたい。
 
 情報公開請求に対する鹿児島県の対応は、昨年の「鹿児島県が情報公開請求を拒否」で詳述したとおりである。

 知事は《産廃はあそこ(注・薩摩川内市川永野のこと)で最大限の事業展開をしていた時期》と言うが、それと情報公開拒否とは何の関係もない。
 
 当時県側は、情報公開請求を受け付けてから2ヶ月以上も決定を引き延ばしたあげく、「開示・不開示の判断をしない」という前代未聞の結論を出している。
 信じられないことにHUNTER側から連絡するまでその決定さえ伝えてこなかったのである。
 複数の担当職員が、「電話連絡することも控えさせていただいた」とまで踏み込んだ発言を残しており、徹底的に黙殺する構えだったことは明らかである。
 
 さらに、松陽台問題の公文書については、ファイル一冊程度の分量でしかなく、時間がかかる必然性もない。ましてや産廃事業との関係など皆無だ。 

 所管のまったく違うふたつの事案で、情報公開請求に対する答えが「開示・不開示の判断をしない」という同じ文言だったことは、県政トップの意思が働いたと見るのが普通。つまり知事の意向で情報公開請求を拒否した可能性が高いのである。
 
 情報公開拒否問題が象徴するように、隠蔽と虚偽で成り立ってきた伊藤県政にも綻びが目立ち始めている。

 薩摩川内市の産廃処分場建設計画に絡んでは、なんとしても公共事業として処分場を建設したかった県が、民間企業の処分場設置許可申請を意図的に放置していことに対し、国から違法とする裁決を受けたことが明らかとなっている(記事参照)。
 
 松陽台の県営住宅建設と薩摩川内市の産廃処分場。どちらも伊藤知事の判断で決まった事業である。



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