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「修学旅行」への疑問 

2011年12月21日 06:25

 子ども達にとっては、一生の思い出となる「修学旅行」。福岡市内の市立中学が実施した平成20年度から22年度までの旅行について、残された公文書をもとに2度にわたって問題提起を行なってきた。(記事参照
 
 テーマパークやスキーが「修学」と言えるのかどうかについては議論の分かれるところだが、旅行先選定過程を検証するための業者の「見積書」が保存されていないことは、極めて不適切と言わざるを得ない。
 
 修学旅行が時代と共に変化することに異を唱えるつもりはないが、そのあり方については、議論の必要があるだろう。
 
 福岡市教育委員会が開示した一連の文書からは、旅行の形骸化を示す事実も見つかっている。

各校の「旅行目的」、なぜか同一文章
 市教委が開示した公文書の中に、各校が提出した修学旅行の「実施届け」がある。こちらは修学旅行を実施したすべての中学の書類が揃っていたが、問題はその内容。

 「実施届け」には"目的"、"旅行地・宿泊地"、"実施期日"、"参加人員"などが記載されているのだが、"目的"に記された文章を見ていくと奇妙なことに気付く。

 旅行先選定は各校ごとの判断に委ねられており、学校独自に旅行目的や日程を決めているはずなのに、「実施届け」の旅行の"目的"に、まったく同じ文章を使っているケースがあるのだ。

 例えば、平成20年から22年までの3年間で、もっとも多く使われていたのが次のような文章である。
《平素と異なる生活環境の中で、教師と生徒、生徒相互の人間的ふれあいを通じて、自主的、実践的態度を育て、集団生活の向上を図ると共に、学年・学級の集団づくりをより一層推進する》。
《平素と異なる生活環境にあって、見聞を広め、自然や文化に親しむとともに、集団生活のあり方や公衆道徳などについての望ましい体験を積むことができるような活動を行なう》。
 多少前後の表現を変えたものもあるが、まったく同じ文章を使用したケースが少なくない。

 修学旅行でスキーを実施している中学では、平成20年・21年の両年、4~5校が《大自然の中での冬の野外活動、特に九州では体験することのできないスキーを体験させることにより、自然に親しませ、楽しみながらスキーの初歩的な技術を身につけさせる。
 また、身体を鍛え忍耐力を養わせると共に集団行動を通じて、責任・規律・協力などを学ばせることで、活力ある学級・学年の集団づくりへと深化させる》という文章を使用していた。
 どれも句読点の場所まで同じで、同一の文章が出回っていることが分かる。
 
 こうして見ていくと、各校の旅行目的は、いくつかの文例に大別される。独自の文章を記しているのはごくわずかで、「ひな形」があって、各校がそれを使い回しているという状況なのだ。

 学校独自の教育理念に基づいた修学旅行が影を潜め、ある意味、形骸化しつつある証左とも言えよう。

背景
 市教委は、HUNTERが指摘するまでこうした実態について気付いていなかったとしており、「ひな形」が旅行業者によるものか、他校の真似をするうち広がっていったものかは分からない。

 取材の過程では、現場の教員から引率の苦労話も聞いたが、修学旅行実施届けの目的欄に、「ひな形」が多用されている現実には疑問を感じる。
 それではなぜ、このような状況になったのだろう。

 市教委の話によれば、旅行業者の「見積書」がないことや、旅行目的に同一文章が使用されていることの背景には、旅行代金支払い方法の変化があるという。
 
 かつて学校側が徴収していた修学旅行の費用は、現在、旅行業者側に直接支払うようになっており、関係者の間で「公費」への意識が薄くなっているのではないか、というのだ。
 仮にそれが事実だとしても、杜撰な事務処理は許されるものではなく、旅行の形骸化は「修学」の意図から外れることにつながる。

旅行業者の寡占化
中学校修学旅行 取扱業者一覧表(H20~H22) 業者の寡占化が顕著なことにも、疑問がある。平成20年度から22年度までの3年間で、福岡市立中学校69校が実施した修学旅行は延べ204回(不実施が計3回あるため)。
 これだけの回数の旅行を、ほぼ5社で分け合っているのだ。受注回数の多い順に並べると、次のような数字となる。
・東武トラベル 49回
・JTB 47回
・近畿日本ツーリスト 47回
・西鉄観光 31回
・日本旅行 22回
 ほかに社名と受注回数が確認できるのは、名鉄観光5回、TOP TOUR2回、JR九州1回に過ぎない。

 大手業者には、学校側希望の日程で要求水準を満たす宿舎を押さえられるなどの安心感があるのだろうが、わずか5社で大半の修学旅行を分け合う構図には違和感を禁じ得ない。

 福岡での実績がものを言う、いわば前例主義の結果とも考えられるが、業者の固定化が修学旅行の形骸化につながっている可能性は高い。

 修学旅行について、様々な角度から議論することが必要ではないだろうか。



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