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僭越ながら:論

相乗り知事候補よ驕るなかれ
マニフェストも街頭演説もなく
~福岡知事選~ 

2011年3月31日 10:50

  告示から1週間、4月10日投・開票の福岡県知事選挙の低調さは深刻だ。原因は東日本大震災ではなく、相乗りで担がれた候補者側による有権者無視の姿勢にある。
 
電力トップが選挙運動
 福岡県知事選挙には、民主、自民、公明、国民新、社民の主要政党や農政連などが支持するいわゆる「相乗り」候補と、共産党推薦候補の2名が立候補。相乗り候補陣営の中核は経済界で、松尾新吾九電会長が後援会長、選対本部長を兼任している。選挙戦初日の出陣式では松尾会長が「(候補者を)物心両面にわたって支援することが我々の務め」と挨拶したほどだ。
 九電本体が「物心両面」で知事候補を応援することについては、公職選挙法上の疑義が存在するということを、今月23日の記事『九電に国の補助金、県から負担金が判明 福岡知事選 "傀儡"の証明(下)』で報じた。
 さらに、福島第一原発の事故で国が揺れるなか、電力会社の会長が、選挙でガンバロー三唱に拳を上げるのは、どう考えても不適切である。
 取材のため東北の被災地に派遣されている新聞社の友人にこの話をしたところ、「えっ」と言ったきり黙りこんでしまった。しぼり出した次の言葉は「許せない」だった。記者だけでなく、多くの被災者が同じ、いやそれ以上の怒りを感じるのではないか。
 国や電力会社がでっち上げた「原発安全神話」が崩壊したいま、電力会社トップがなすべきことは、安全基準の見直しと原発抜きでの電力確保への可能性をさぐることだ。決して選挙ではない。相乗りによって選択肢が狭められた選挙は投票率が下がるということを警告したが(『福岡県知事選挙 "傀儡"の証明(上)』)、事態は思った以上に深刻そうである。

有権者の怒り
 30日、福岡市内で有権者に話を聞いてまわったが、知事選に対する辛らつな言葉ばかりが返ってきた。「相乗りで興味がなくなった。民主も自民もだらしない」(60代・主婦)。「知事選はいつからやるの?」(60代男性・老人会役員)。「なんで九電が選挙やってんだろ。ふざけてる」(30代男性・会社員)「相乗りで、もう勝ったと思っているんだろう。市民じゃなく、労組やら財界やら、特定の人たちのための県政やね。選挙には行かん」(50代男性・商店主)。
 一番多かったのは、候補者の名前を「知らない」と答えたものだ。選挙戦が始まれば、いやでも候補者の名前と顔が浸透するものだが、今度の知事選は明らかに違っている。ばかばかしくて覚える意思がないということかも知れないが・・・。
 こうした厳しい声が出るのは、相乗り陣営による有権者を軽んじた選挙戦の進め方に起因している。信じられないことだが、相乗り候補はマニフェストも作らず、街頭演説もほとんど行わないという。ひたすら4月1日告示の県議選、市議選の候補者事務所を回るというのだ。組織に関係ない県民には、訴えの内容を知らせる必要がないと考えているのだろう。

「有権者をなめるな」
 マニフェストについては、やっと定着しかけたところで、民主党政権が冷や水を浴びせた形となったが、それでも、一定の意味を持つものだ。特に「ローカル・マニフェスト」と呼ばれる各自治体の首長によるそれは、有権者の判断材料としては優れたものと言える。       
 しかし、今回の知事選における相乗り候補陣営は、大震災を理由にマニフェストを作成しなかったばかりか、新聞の政策アンケートに対しても真摯な対応がなされているとは思えない。
 ローカル・マニフェストを推進してきた、ジャーナリストで「ローカル・マニフェスト推進ネットワーク九州」代表の神吉信之氏は、今回の相乗り候補のマニフェストに対する姿勢に怒りをぶつける。「有権者をなめるなと言いたい。福岡県政について、しっかりと有権者に訴える意思がないんじゃないか。相乗りしてくれた政党や団体の票だけで勝てるという判断であり、これでは選挙後も一般県民に向き合うことはないと思わざるを得ない。これからでも遅くない。しっかりと有権者に向き合うべきだ」。

期日前投票、6日で465人 市長選では18000人
 有権者は敏感で、相乗り候補者側の傲慢な姿勢だけはしっかりと浸透しはじめている。選択肢が狭められたことに加え、有権者無視の選挙手法が投票意欲を削ぐ形となる可能性は高い。
 期日前投票の出足の悪さは何よりのあかしだ。25日から30日までの6日間、福岡市内で期日前投票を済ませた人の数は465人に過ぎない。ちなみに、昨年11月の福岡市長選では、同じ6日間で17,953人が期日前投票を行なっている(市選管調べ)。大震災の影響もあるだろうが、相乗りや、候補者の顔を見せない選挙手法がこの差を生んでいるのだ。

 相乗り陣営を構成した各政党、労組、経済界はこの現実に責任を負っている。相乗りが県民を県政から遠ざける結果を招くとしたら、罪は重い。ただ、一番の責任は、選挙方針を最終的に決めた候補者本人にあることは間違いない。選挙期間中だからこそ、言っておきたい。「驕るなかれ」、と。



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